1917年10月16日 パーゼヴァルク野戦病院(Pasewalk feldkrankenhaus)
意識が朦朧としている…。
私は何をしていたのだったか…?
何かが聞こえて来る…。
女の声…?
「アド…フ…ん、…きて下…い、アドルフさん!」
段々と意識がはっきりしてきた。
そういえば、確か前線に指令を伝えようとして…。
はっと気づき、身を起こす。
何も見えない。
おかしい。目が開かないのか!?
いや、目は開いている。どういうことだ?これは、目が見えていないということか!?
また甲高い女の声が聞こえてきた。
「アドルフさん!やっと起きましたね!良かったです!今先生を呼んできます!それまで安静にしていて下さいね!」
何だ?先生?つまりここは病院か?たしかに耳を澄ましてみると、あちこちから呻き声が聞こえて来る。
しかし、どう考えてもおかしい…伝令を伝えに行った直後に、いきなり病院にいるなど…。
考えてみれば、私の情報はまだ司令部に届いていないではないか!
なんということだ…直ぐにでも行かねばならない!
しかし目が見えない…これでは何処へも行けない…もどかしい…。
そうこうしているうちに、こちらへ向かって来る足音が聞こえて来た。
「ええと、アドルフ…ヒトラーさんだね。私の名前はエトムント・フォルスター、君の主治医だ」
「ここは病院ですか?私は何故ここにいるのでしょうか?私は早く前線へ戻らなければなりません」
すると、エトムント・フォルスターとかいう医師は
「ああ、ここは病院だ。君は敵軍の毒ガス攻撃を受けたんだ。幸いにも、命に関わることはなかったようだが、今の調子はどうだね?」
と言ってきた。
やはりここは病院か…しかも毒ガス攻撃だとは…しかし、取り敢えず、今の状況を伝えることが第一だろう。
「今、目が全く見えません…それ以外には、今のところ何も異常は無いようですが…」
「成る程…毒ガスで目が見えなくなったか… ううむ…見た感じはそこまで異常があるようには見えないが…」
「取り敢えず君は絶対安静だ。前線復帰は完全に見えるようになるまで絶対に許さない」
と医師は言った。
これはひどい…私の生きがいだった軍にまだ戻れないとは…そんな馬鹿な…
「そ、そんな…。ではいつ、目は治るんですか?」
「分からないね…治るかもしれないし、治らないかもしれない。今のところは五分五分といったところだ」
なんという事だ…治るか分からないとは…しかし、まだ治る可能性はあるのだ!
必ずや直ぐに治し、戦地へ赴かねばなるまい。
我らがドイツはこの戦争に勝つのだ!
皆さま、こんにちは。
ひとつ謝らせて下さい。前回の後書きで、第一次大戦後を今回から書くと言っていたのですが、それではあまりにも唐突であるという事で、急遽第一次対戦中の話を一話挟み込む形となってしまいました。お詫び致します。
そして、相変わらずの、稚拙な文章を最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
さて、今回の注釈をひとつ。
ヒトラーはイペリットガスの攻撃を受け、一時期視力を失っていたそうですが、実は毒ガスの攻撃によるものではなく、精神的なものによるところが大きかったのでは?と近年の研究で、言われているそうです。
どちらなのかは私には判断できませんので、私の小説では、毒ガスによるものであるという前提で、話を進めてまいります。
次回こそ、第一次大戦終結後を書いていきます。
では、またお会い致しましょう。