1917年10月14日 ベルギー西部、イーペル(West-België Ieper)
時は第一次世界大戦末期。
東部戦線ではロマノフ朝がドイツの送り込んだレーニンの革命によって倒れ、その後、臨時政府によって降伏。
西部戦線では、アメリカの参戦により、パワーバランスが変わって来てはいたが、未だに均衡状態を保っていた。
アドルフ・ヒトラーは29歳。彼は後方担当の伝令兵に任命されており、最前線への塹壕を急いでいた。
10月というのはとても嫌な時期だ。
よく雨が降る。しかもおまけに寒くなってくる。
雨が降れば塹壕の中は水浸しでぬかるみ、靴の中に入り込んだ冷たい水は容易には乾かない。
今日は久しぶりの晴れだが、塹壕の水が引くわけでもなく、水溜りやぬかるみだらけだ。
冷たくてたまらない。
すでに左足の感覚はほぼ無くなっている。
しかしこんなところで立ち止まるわけにはいくまい。私は後方からの任務を伝える義務がある…!
3月にはロシアの劣等人種どもがやっと降伏した。
これで我々は確実にイギリス、フランスに勝てるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、歩みを進める。もうすぐ作戦司令部だ、今回の作戦を伝えに行かねば…。
重い足を引きずり、やっとの思いで前線へ到着したが、周りの兵士は皆一様に疲れ切った様子でいる。
無理もないだろう。毎日砲撃に晒され、死と隣り合わせの日々を過ごしていれば、私ですら、精神が持つか分かったものではない。そう考えると後方担当の伝令兵の私は、まだマシなのかもしれない。
しかし今日は随分と静かなものだ。いつもならば大砲の音が地響きのように鳴り響き、乾いた機関銃の音が延々と不快な音を垂れ流していたのだが…。
不意に手の甲に赤い点が見えた気がした。
これは何かと目を擦ろうとした瞬間、目に激痛が走った。その激痛は一気に身体中に走り、声を上げる間も無く、私の意識は遠くなっていった。
今回から本編を少しずつ初めて行こうと思います。
相も変わらず短く、稚拙な文章を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
本当は、第一次大戦のヒトラーが活躍したところも描きたかったのですが、生憎データが少ないもので…。
次回は第一次世界大戦の終結後を描いて行こうと考えております。本格的なヒトラーの政界進出です。
では、またお会いしましょう。