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〜第7話〜砂時計の部屋、パルス様生き残って

「皆さーん!!きいてくださーい」


 タバサは大きな声を出したので皆がそちらを見る。


「勇者選考会の最終試験、この密室、30分に一度誰かを外に出さないと全員爆死という状況、これはあまりにも理不尽なデスゲームの要求ではないでしょうか」


 タバサの声は妙に透き通っている。


「そこで、選考会運営側の理不尽な選考ではなく、我々で正々堂々と真の勇者を決めようではありませんか」

 ばーんと言ってのけた彼女を、感嘆の表情で見つめる参加者たち。


「正々堂々って……、どうするんだ?」


 参加者の一人が聞く。待ってましたとタバサが答える。


「ふふ、ここに私が持っていたティシュペーパーがあります。まずこれを8枚取ってこよりをつくります。……うんしょうんしょっと。できたっ。そしてこのうち1本のこよりの先に口紅を塗ります。よっと。こうして私が先を隠して握ります。これを皆さんで引いてもらって、口紅が塗られたもの引いた人がこの中から誰かを指名して組手をしてもらいます」


「組手?」


「はい。それで負けた方が部屋を出る。というルールです」


「なるほど。わかりやすいな」


「確かにそちらのほうがよい」


「それならば、私も出て行かずに参加する」


 タバサへの賛同の声が出る。


「おい待て、30分以内に決着が着かなかったらどうするのだ?」


 そう、口を挟んだのは


「ふふ、そのときは多数決で優劣を決めましょう。30分ギリギリでは危ないので25分経過時に」


 タバサの微笑み。この場の空気が賛同に向かう。


「タバサ凄いや。これならば危険なく真の勇者が決められる」


「ふふふ、全部パルス様のためですわ」


 皆の意見が一致しそうになったところに異論を挟んだのはベスタ三兄弟のひとり、ベクだった。


「ちょっと待て、皆おかしくないか?そんな参加者でもない女の意見に左右されるなんて……」


 このままトーナメントになってしまうと、自分たちベスタ三兄弟の優位が揺いでしまう。


「おい、ベク、やめておけ」


 ベスタ三兄弟のひとり、ビクが言う。


「しかし、このままでは?」


「やぶ蛇だ。どう見ても我々が三兄弟で結託できないから反対しているということが見え見えだ」


 さらにベスタ三兄弟のひとり、ブクが言う。


「ふふ、好都合だよ。あの女の言う通りにしようじゃないか」


 8人はタバサの手からくじを引く。

 最初に口紅のくじを引いたのは、最初に部屋を出ようとした男だった。


「ふふ、当たりですわね。どなたを指名なさいますか?」


 男は悩んだ。

 このとき、パルスは緊張していた。


「ふふ、パルス様、何をどきどきなさっているのですか?」


「だって、どう考えても、この中で僕が一番弱そうだ。真っ先に指名されるよ」


「ふふ、大丈夫ですわ。皆今までの試験でのパルス様の大活躍を見ていますもの」


 タバサは意地悪く笑った。

 パルスを指名できるわけがない。

 彼は一次試験でとてつもない魔力を見せつけ、二次試験でとてつもない腕力を見せつけ、三次試験でとてつもない戦闘力を見せつけているのだ。


「俺は、お前を選ぶ」


 指名されたのはベスタ三兄弟のひとり、ブクだった。


「ふふそうか」


 ふたりは向かい合う。


「おい、女、ところで組手というのはどういうルールでやる?」


 ブクがタバサに聞く。


「そうですわね。武器は使用しない。あと、【爆黄砂】に引火するのが怖いので、炎系の魔法は使わない。ということでどうでしょうか?」


「いいだろう」


「俺もだ」


 ふたりは同意した。


「それでは始め!!ですわ」


 タバサが手を叩いた。

 ブクは素早く動き、握った右拳を男のみぞおちに突き立てた。

 さらに左拳を顎にヒットさせた。

 そして、男は倒れた。


「勝負ありだ。女」


 ベスタ三兄弟のブクは得意げに笑った。



◇◇◇



 砂がすべて落ちる直前、失神した男は静かに外に出された。

 砂時計はグルンとひっくり返る。

 次なるくじで当たりを引き当てた男は、パルスでもエンヴィードでも、ベスタ三兄弟でもない男を指名した。

 組手が終わり、敗者は29分後に外に出された。

 次にくじを引き当てた男もパルスでもエンヴィードでも、ベスタ三兄弟でもない男を指名した。

 負けた者が29分後に外に出された。

 パルスは聞いた。


「ねぇタバサ、君の言う通りだよ。僕はなぜか指名されないね」


「ふふ」


「そしてさぁ、このゲーム、皆平等に戦うのかと思ったら、全然そうじゃないんだね。僕と……白いマントの彼と、あの3兄弟の人たち、全く指名されないよ」


「ふふ、このゲームは、強いと思われる人が圧倒的に有利なゲームですもの」


 残り6人。次にくじを当てたのはベスタ三兄弟のひとりビク。

 彼は、今戦ったばかりの男を指名し、ボコボコにのした。

 負けた男は29分後に外に出され、残りはパルス、エンヴィード、ベスタ三兄弟の5人となった。

 そして次のくじ引きがはじまる。


「このゲーム確かに我らは有利だな。我ら三兄弟はお互いを指名しないから生き残りやすい」


 ベクが嬉しそうに言う。


「まぁ、肝要なのはここからだがな」


 ビクとブクは笑いあう。さらにベクに耳打ちをする。


 次に当たりくじを引いたのはビク。


「くくく、俺が指名するのは……、小僧、お前だ」


 彼はパルスを指名した。


「……とうとう僕かあ」


「パルス様、ファイトですわ」


 タバサは応援した。

 向かい合うパルスとビク。


「ふふふ、小僧、お前には最初から注目していたよ」


「そうですか、ありがとうございます」


「お前の実力は恐ろしい。俺は多分お前には勝てない」


「いやあ、全然そんなことないですよ」


「だから、こうするしかないんだよ」


 タバサの開始の合図の前に、ビクはパルスの顔を殴る。

 そしてベクとブクもパルスに飛びかかり、1発ずつ拳を入れた。

 パルスは倒れた。


「パルスさまっ!!!!」


 タバサはパルスに駆け寄る。


「ずいぶんと早く倒れたなあ。意外と弱っちいのかコイツ?」


「そうではなく、なぜこのようなことを。ルール違反です」


「ルール?小娘が勝手に設定したルールなど聞くわけないじぇないか」


 ビクは笑う。


「我ら三兄弟を残してしまったのが間違いだったな。さて、あとはもうひとりの小僧をここから追い出して、我ら三兄弟のうちふたりが勇者となるとしよう」


 ベスタ三兄弟は向かい合って笑った。それをエンヴィードは眉ひとつ動かさずに見ている。

 涙を流すタバサ。


「酷い酷すぎます。許せません」


「許せない?ならば小娘、どうする?我ら三兄弟と戦うか?」


「ぐっ」


「さあ、その小僧と外に出な。出なければ血を見るぞ」


 ベスタ三兄弟はグハハと笑いながら剣を抜いた。

 次の瞬間だった。

 ベクが握った剣を落とした。


「おい、どうしたベク?」


「か、身体が動かねえ」


「何言って……ぐがっ!!」


 ベスタ三兄弟は突如苦しみ出した。


「小娘、お前何を……」


 こちらを見下すタバサを見上げながら、ビクは意識を失った。


「ねぇ、さっきからずっと、痺れ薬を散布してたよね」


 エンヴィードが言う。タバサの腰についた袋からさらさらと粉が空気中に舞っていた。


「そちらの人にはずっと、治癒魔法かけ続けてたし、僕も治癒魔法かけてたから大丈夫だったけどね」


「まぁ、こんなことになると思いましたし」


「いや、こんなことにならなくても皆痺れさせて、彼を勝たせようとしていなかった?」


 タバサはエンヴィードの質問には答えず、スカートをまくって、ナイフを抜いた。

 そして、それをベスタ三兄弟のひとりの胸に突き立てようとした。

 彼女の手首が握られる。


「それはマズいと思うよ」


「彼らはパルス様に乱暴をしました。よって、生きている資格はないと思います」


「勇者候補として殺人はね」


「………」


 静かにナイフを仕舞うタバサ。

 ベスタ三兄弟を一斉に外に出し、砂時計が回転した。


「……どういうことでしょうか?」


 部屋にいるのは気絶したパルス、エンヴィード、タバサしかいない。

 しかし、フリードが中に入って「おめでとう」などと言う気配がない。


「部屋にいるのが2人にならないといけないんじゃない」


 エンヴィードが言う。


「そうですか。では、部屋から出ていただけますか?」


「え?」


「出ていただけますか?」


「いや、どう考えても勇者候補生じゃない君が出て行くべきだと思うけど」


「いやあ、あなたを残していると、何かと嫌な予感がするんですよ。パルス様が勇者になるための障害に」


「……」


 タバサはスカートを翻して両手にナイフを握る。エンヴィードは腰から剣を抜いた。

 

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