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〜第6話〜最終試験開始。砂時計の密室。あら大変

 とうとう勇者選考会も残るは8名となった。


「数百名もいた中から8名に残るなんて、さすがはパルス様ですわ」


 というそこにいるはずもないタバサの声がパルスの耳に聞こえたような気がした。


「おい、今女の声が聞こえなかったか?」


「ああ、『さすがはパルス様』とかなんとか言ってたような……」


 まわりの参加者が騒ぎだす。皆にまで聞こえるとは流石タバサの幻聴だ。パルスは驚いた。


「さぁ諸君、こちらだ」


 それは最初に降りてきた階段の裏手の壁。

 フリードはその壁をこんこんと叩くと、扉が現れた。

 一同は驚愕する。


「【絶望人形】など勇者選考会の序の口にすぎん。その序の口であんなにも口だけの勇者候補生たちが脱落したのは腹立たしいことだが……。それはともかくこれからが本番だ」


 フリードの声とともに扉が開かれる。その扉は厚さが1メートルもあるような重々しい扉だった。

 扉の向こうに見えたのは、巨大な砂時計だった。


「「これは……?」」


 参加者たちがあまりに大きな砂時計を見上げる。

 白いマントのエンヴィードがひとり、砂時計の下に溜まっている黄金色の砂を注視していう。


「【爆黄砂】……」


 彼は突如呟く。


「これは【爆黄砂】だ」


「「えっ!?」」


 参加者たちが騒ぎだす。


「【爆黄砂】ってやべえだろ。もんのすげえ威力の強え爆薬で、100gで並みの一軒家なら木っ端みじんにできるんだぞ」


「これ、何トンありやがるんだ」


 参加者たちは冷や汗を流す。


「皆の者、これが最終試験だ」


 フリードが言う。


「その男の言う通り、この砂は【爆黄砂】だ。次にこの砂時計の砂がすべて下に溜まれば、火がつけられる仕掛けになっている」


「おい、そんなことになったらやべえじゃねえか」


「ああ、問題はない。この扉を閉めてしまえば外への防護は完璧だ。ヤオルの城に全く被害はない」


「そんなこと全く心配してねえよ。中にいる人間は粉みじんだろうが!!」


 それを聴き、フリードはふふと笑った。


「この砂時計だが、今、中にいる者がひとり外に出ればひっくり返る仕組みになっている」


「え?」


「この砂時計の砂がすべて下に落ちるまで、30分。ひとり外に出れば猶予が生まれる」


 参加者たちがざわめく。


「最終試験の内容は簡単だ。この中に最後まで残った2人が合格者だ」


 フリードがそう言うと、参加者のひとりが聞く。


「おい、でも砂がたまってしまえば中にいる者は皆死んでしまうんじゃ……」


「ああ、そうだな」


「ああそうだなって……」


「ここで皆死んでしまうようならば、最初からこの中に魔王を倒せるような勇者はいなかった。そういうことだ」


 フリードは言い放った。


「そういうことだ。まず最初にここから出るのは私だ。検討を祈る」


 フリードは出ていき重々しい扉はグォンと閉じた。

 巨大な砂時計は180度回転し、砂が流れ始めた。

 参加者たちは黙って砂を見つめる。パルスもまた、その砂を静かに見つめていた。


「パルス様、なかなか大変な最終試験ですねえ」


 またタバサの幻聴が聴こえてきた、とパルスは思った。

 そして横を向く。

 しっとりとした黒髪とグリーンのワンピース。


「た、タバサっ!?」


「どうしました、パルス様?」


 当然のごとくそこにいたタバサはきょとんとパルスを見た。



◇◇◇



 落ちてゆく砂を前に、参加者たちは騒ぎ出した。


「どうするんだよこれ?」


「勇者選考会とかいってさっきから殺人人形と戦わせたり、【爆黄砂】で爆死するような危険に置いたり、ちょっとおかしいんじゃねえか」


「ああ、もうこんな選考会降りた降りた」


 そういって参加者がひとり扉に向かおうとした。


「待て!!」


 そう参加者を呼び止めたのはエンヴィードだった。


「なんだ若造。俺は出るぞ」


「出てもいいが、もう少し時間が経ってからにしろ。そうしないと、中にいるものはお前が出てから30秒後に皆死ぬ」


 まだ下に砂は少ししかたまっていない。彼が出てひっくり返れば間もなく爆発する。


「……知ったことか」


「このまま出ていくというなら、お前を斬って止めるか、それともお前が出たあとに他の者を斬って追い出す」


「……」


 見た目の静けさとは裏腹な過激な言葉に出て行こうとした男は息を飲む。


「ちっ、わかった。もう少し待とう」


 その争いの横で、3人の参加者が話しはじめた。


「つまり、これはこういうことだろう。時間内にひとりずつ外に追い出せ。そういうゲームなんだろう」


「ああ、そういうことだなあ」


「最後に残った2人が勝者ということは、最初に厄介なやつから脱落させていきたいなあ」


「となるとまず最初は……アイツだなあ」


 男のひとりはエンヴィードを指差す。


「いや、それよりもアイツだ」


 もうひとりの男は、パルスを指差していた。


「今回の勇者選考会で圧倒的な存在感を示しているのはアイツ、パルスとかいう男だ。一次試験では【マグナゴール】にヒビを入れるほどの魔力を見せ、二次試験では剛腕自慢のゴフィンをあっさり腕相撲でのしちまった。そしてさっきの三次試験でも、俺が死に物狂いで倒した絶望人形をボロボロにぶち壊したらしいし、ボーッとしているようでヤバい実力者だ」


「……ああいう奴が本来は勇者となって魔王を討伐に行くべきなんだろうが、そうは行かねえな。勇者に選ばれて名声を得るのは、俺ら、ベスタ三兄弟だ」


 よく見ると、話している3人はよく似た顔をしていた。


「しかもアイツ、可愛い彼女をこんなところまで連れこんでいる。普通じゃねえよ」


「ああ、ていうか……どうやって入れたんだよ。さっきまで影も形もなかったぞ」


 羨望の眼差しで見られるパルス。

 しかし、彼自身は……


「ねぇタバサ、まずいって。ここはもの凄く危ないんだ。あの砂はとても危なくて」


 と横にいる幼なじみの心配をしている。


「【爆黄砂】ですよね」


「え?タバサ、知っているの?」


「はい、多少錬金術をたしなんでいるものですから」


「へぇー、タバサはやっぱりすごいなあ」


「そんなあ、褒めないでください。恥ずかしいです。ところでパルス様、私にいい考えがあります」


「え?」


「この最終試験を勝ち抜くための作戦です」


 タバサの漆黒の瞳は真っ黒く輝いていた。

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