〜第4話〜地下迷宮、殺人人形、ああパルス様が心配
第2次試験を勝ち抜いたのは三十数名。彼らはフリードに引き連れられて、城の廊下を歩いていた。
彼らはまず、地下へ続く階段を下らされた。その階段は皆の想像よりはるかに長く、数十階分もの階段を下に下に降りることになった。
参加者たちは暗く長い階段を降りることになる不安で、誰となく「まだか」という声が発せられたが、フリードはそれに答えない。
階段を降り始めて三十分ほど過ぎたときだった。
下に続く階段が終わり、目の前に扉が現れた。
フリードは扉を押し開く。
そこには先が見えない、暗い通路があった。
「さて、これより第3次試験を始める」
フリードは突然口を開いた。
「この先に、この【勇者の証】を8個隠している。それを持ち帰りここに戻って来れたものを第3次試験の通過者とする」
フリードの手元には青い宝玉があった。
「以上だ」
フリードはそれだけ言ったので、参加者たちは戸惑った。
「おい、もっと説明しろよ。その【勇者の証】っていうのはこの先に隠してあるんだろうが、ヒントはねえのかよ。そもそもここは何なんだよ」
「……そうだなあ、これだけは言っておいてやろう。この場所は【試練の間】という。ヤオルの城の兵たちを鍛えるため、はるか昔から存在する秘密の場所だ。決して生易しい場所ではない」
参加者たちの目の前に広がる廊下は、不気味なほど静かだった。
「さあ行け。この勝負は勝ち取ったものだけが生き残れるのだ」
フリードの鬼気迫る声。この声にほだされて、一人、また一人と足を進めていく。
とうとうそこに残った参加者はパルスだけになった。
戸惑うパルス。そこにはむっつりと立つフリードだけ。
彼の幼なじみのタバサの姿は影も形もなかった。
◇◇◇
参加者たちが階段を降りようとしたときのことだ。
当然のようにパルスと一緒に階段を降りようとしたタバサにフリードは言った。
「ここから先は参加者のみが通ることができる」
「私は、パルス様の勇姿を見届けたいだけです」
「……やめろ。お前を通さないのは余計な策謀で選考会をめちゃくちゃにされたくないという理由もあるが、一応お前の身を案じて言ってやっているのだ。これから先は生半可な気持ちでついてきた者の安全はいっさい保証できない」
フリードがあまりの剣幕で言ったので、タバサもそれ以上何かを言うことはなかった。
「ごめんよタバサ、頑張ってくるから」
パルスはそう言って地下へ降りていった。
そして今、彼はひとりで佇んでいる。横にいるフリードの「早く行け」という視線。
よし、タバサのためにも頑張らなきゃと歩みだした。
暗い廊下を進んでいくと、やがてうっすらとした光が見えた。
「あれ?」
そこには広い空間があり、先に行った参加者たちが立ち止まっていた。
パルスは疑問に思ったが、やがてわけがわかった。
そこには、壁や地面、天井に無数の扉がついていた。
「これはどれかの扉に入れってことだよな」
「でも不用意に入って、間違って入った時点で失格って可能性もあるしな」
そうやって誰も扉に入ろうとしないのだ。
その時だった。白いマントの青年、エンヴィードがつかつかと歩き、さっと扉を開けた。
皆、「あ」と声を出すが、それを気にもせずエンヴィードはばたんと扉の向こうに消えていった。
参加者のひとりが慌てて扉に手をかけるが、いくら引いてもその扉は開かない。
「どういうことだ。アイツはあっさり扉を開いたぜ」
「こっちの扉はあっさり開くぜ」
「こっちもだ」
「どうやら、誰かが入った扉は開かないみたいだなあ」
そのことに皆が気づいた途端、我も我もと次々に扉を開き、その先に進んだ。
先ほどと同じようにパルスはその場に取り残されてしまった。
パルスはひと息ついて、ひとつのドアを開いた。
それは小さな部屋だった。
そして部屋の片隅には人形があった。
人間の身体ほどの大きさ、全身が紫。手が7本、脚が3本、目と口が1つずつ、という奇妙な人形だった。
そして胸には青い宝玉、【勇者の証】が埋め込まれていた。
パルスは人形に駆け寄る。そして喜んで【勇者の証】を引き抜いた。
人形の目が赤く光った。
「クケケケッケケケッケケケケッケケケケッケケケケケk」
人形の口が狂ったように笑い出した。
「おいおいおいおいおいおいおい勘違いのクソ勇者候補生、調子に乗ってこの【絶望人形】に喧嘩を売るとは本当にクソだなあ」
「え?」
理不尽に汚い言葉を浴びせかける【絶望人形】。
「死ねよ。ここで死ねよ。殺されろ」
絶望人形の7本の手がすべて回転ノコギリに変わった。
「え?」
「ひゃはっははははっははははっははっははははっはははははh」
絶望人形は次々と回転ノコギリを繰り出してくる。パルスは転がって避ける。
「クソダメダメダメダメすぎるだろうがよ無能無能無能無能無能無能無能無能」
絶望人形の3本の足の先が巨大な針に変わる。
転がったパルスを突き刺そうと脚が次々繰り出される。
パルスはやっとのことで避けるが、7本の回転ノコギリと3本の針が迫る。
「くかっかかかかかっかかかっかかかかかかかkしねねねねねねねねんえねねねねねn」
とうとう絶望人形の針がパルスの胸を捉えようとしていた。
ガキンっ!!
「……え?」
「ふふ、パルス様お久しぶりです」
「……え?」
「ふふ、来ちゃいました」
パルスは目を疑った。そこにいて、絶望人形の針をナイフで受け止めているのは、紛れもなく先ほど別れた幼なじみのタバサだったからだ。