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〜第2話〜パルス様はとてつもない魔力の持ち主です

 ヤオル城の城門を潜った中庭。ここに数百名の勇者選考会に名乗りをあげた者たちが集結していた。

 城の楽団のラッパが鳴り響くと、城の奥から甲冑に身を包んだ屈強な男が現れた。


「皆の者、この度は我がヤオルの勇者選考会に集い、誠に感謝している。私はヤオルの兵団長のフリードだ。選考会の責任者をしている」


 体躯に合った力強い声が城の庭に響いた。


「さて、早速これから一次試験を始める」


 フリードの声とともに、衛兵が壺を持ってやってきた。

 その壺はガラスのように透き通っており、また真珠のように輝いており、ふたつの取っ手がついていた。


「この壺は【マグナゴール】といい、魔力をはかる道具である」


 フリードが【マグナゴール】という壺の取っ手を握ると、その壺は青く輝いた。

 選考会に集まった面々は「おお」と歓声をあげた。


「このように、【マグナゴール】は握った者の魔力に応じて光るしくみになっている。この【マグナゴール】を光らせることができなかった者は即刻返ってもらう」


 このフリードの言葉に庭はざわめいた。


「おい、ふざけるな。俺は剣技の達人なのだ。魔力で実力をはかるなんて不公平じゃねえか」


 参加者のひとりの言葉に「そうだそうだ」と何人かが呼応した。

 フリードは息をつく。そして、あたり一面に響くような大きな音で足を踏み鳴らした。


「黙れ!!」


 その迫力に、文句はぴたりと止んだ。


「魔力を欠片も持っていないものが魔王討伐が出来ると思うのか?私も魔法はほとんど使えないが、それでも【マグナゴール】を光らせるくらいの魔力は持っている。そうでなければ話にならん。それでも文句があるというならば私と立ち会うがいい。私に勝てば第1関門は合格としてやろう」


 フリードのこの声に、誰も前に出るものはいなかった。



◇◇◇



 屈強な男どもが一列になって【マグナゴール】を握っていく。

 次々と参加者たちが【マグナゴール】を握るがそれは全く反応しない。

 あまりに反応しないため、これは魔力に反応して光るというのはフリードの嘘で、彼は何かズルをして光らせていたのではないか。そんな噂が囁かれた。

 そんなとき、【マグナゴール】が青く、まばゆく光った。


「ほう」


 そう、興味深そうにつぶやいたのはフリードだった。その光はフリードの者よりもわずかに大きかった。

 このとき【マグナゴール】を握っていたのは白いマントに身を包んだ青年だった。

 中々骨のある奴もいるものだ。フリードは愉快そうに鼻を鳴らした。

 この後もぽつぽつと【マグナゴール】を光らせる者は現れた。

 その光り方の大きさはマチマチであり、焚き火くらいの光を発する者から、蛍くらいの光を発する者までいた。

 しかし、フリード以上の光を発する者は、先ほどの白いマントの青年しかいなかった。


「いやあ、緊張する」


 順番が間近に迫ってきたパルスが不安そうに呟いた。


「そんな、パルス様なら絶対にピッカピカですわ」


 横についていたタバサが励ます。


「……でも、どうだろうなあ。つくづく僕に勇者の才能があるって言ってくれる人、タバサだけなんだよね。それ以外は父さんも母さんも僕が勇者になれるなんて全く思っていないんだから。正直僕自身も心の奥底では『どうせダメだろう』って思ってるところがあるんだよねえ」


 パルスは苦笑する。


「全然そんなことありませんわ!!私はパルス様以上に勇者にふさわしい人を見たことがありません。パルス様は私に、何度も自分が勇者になったらこうやって人々を救いたいって語って下さいました。私はそんなパルス様のお話が大好きなんです。だから絶対に勇者になれます!!」


「……そうだね。タバサはいつも僕が弱気になるとこうやって励ましてくれる。こんなに素敵な幼なじみがいて、僕はラッキーだったよ。ありがとうタバサ」


 パルスはにっこりとタバサに微笑みかける。タバサはそれが嬉しくて、そしてドキドキしてしまう。


「ところでタバサ」


「なんです、パルス様?」


「僕の番が来たから、そろそろ握っている手を離して欲しいんだけど」


 いつの間にか、列は進みパルスの順番になっていた。そしていつの間にかタバサは興奮してパルスの両手をぎゅっと握っていた。それを衛兵が睨みつけていた。


「も、申し訳ございませんパルス様、わ、私はなんてことを!!」


 タバサは顔を真っ赤にして、慌てて手を離した。

 あたふたするタバサを置いておいて、パルスは一足前に出た。

 そして緊張の面持ちで【マグナゴール】を握る。

 少しの静寂の後だった。

 【マグナゴール】はピカピカと輝きはじめた。

 まるで血のような赤色に。


「な、何だこれは!?」


 そこにいた者たちが騒然としだした。

 パルスが握った【マグナゴール】は他の者とは全く異質な輝きかたをしていた。


「え……?」


 それを握ったパルス自身も戸惑っていた。そのうち【マグナゴール】にうっすらとヒビが入った。


「離せ!!」


 焦った衛兵の声とともにパルスは慌てて手を離した。

 【マグナゴール】の赤い光は止まり、静寂が訪れた。


「……さすがパルス様ですわ」


 戸惑う皆を置いて、タバサは満面の笑みを見せた。

 そんな様を、フリードは睨みつけるように見ていた。



◇◇◇



 パルスは一次試験を突破した。

 数百名いた参加者も、数十名までに減っていた。

 二次試験までの合間の時間、手洗いにいったパルスをタバサはにこやかに待っていた。


「……、パルスとかいう小僧の横についていた女だな」


 不意にタバサに声が掛けられた。タバサが見上げると、そこには重々しい甲冑を着たフリードが立っていた。


「ええ、フリード兵団長様。見ていただけましたか?パルス様の強大な魔力を?パルス様こそが選ばれし勇者

であることを、大勢の前で示されまして、私はこんなに嬉しいことは……」


「お前、小僧が【マグナゴール】を握る直前に、奴の手を握ったな」


 タバサの言葉をフリードが引き裂いた。


「……それがどうかしましたか?」


 タバサの瞳は、黒く染まっていた。


「いや、私も今まで幾多もの猛者を見てきた。その者が魔力を備えているかどうかは【マグナゴール】を使わずともわかる。あの小僧が強大な魔力の持ち主とは思えない」


「でも、そんなフリード兵団長様の勘違いをパルス様は否定してみせた」


「いや、違うな。あの禍々しい魔力の反応。あれはお前が授けた魔力ではないか?」


「……」


「お前は偶然を装い、あの小僧の手を握り、自らの魔力を一時的に授けた?違うか?」


「……、ふふ。おかしなことをおっしゃるんですねフリード兵団長。こんなか弱い女の子が、他人に魔力を授ける?しかも【マグナゴール】にヒビを入れるような強大な魔力を。私がそんな恐ろしい者に見えるというのですか?」


 タバサは少しおどけながら言う。タバサの瞳を見据えてフリードは口を開く。


「見える。俺にはわかる。お前からとてつもない魔力を感じるのだ」


「…………」


「警告しておく。これは、魔王を倒しヤオルに平和をもたらすための勇者を決めるための選考会だ。もし、それを不正で汚すような者がいれば、このフリード、容赦はせん」


「……そういえば最初に皆の前に現れたときフリード兵団長はおっしゃいましたよね」


 タバサは真っ赤な口を開く。


「『私と立ち会うがいい。私に勝てば第1関門は合格としてやろう』と。もし、先ほどのパルス様の一次試験の結果を反故にするというのならば、ここで……あなたと立ち会い、そしてあなたを殺します」


「……」


 睨み合うタバサとフリード。城の廊下に恐ろしい緊張感が走る。


「タバサー、おまたせ」


 のんびりとした声が聞こえてきた。途端タバサの顔はにっこりとした顔に変わる。


「ふふ、冗談ですわ。まさかこんなか弱い女の子に、屈強なフリード兵団長を殺せるほどの力があるわけありませんもの」


 そう言ってパルスの元に駆け寄るタバサ。

 フリードは最後に彼女の背中に声を掛けた。


「女、お前の思い通りには絶対にさせんぞ」

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