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「さて上級学年である5年生に上がって1週間が経ちましたが皆さん少しはクラスに慣れてきましたか?」
新学年でクラス担任になったエミリー先生が授業開始早々生徒に問いかける。
先生は金髪の髪を後ろで結わえメガネを掛けた20代前半の知的な雰囲気の人だ。
「はーい!」
元気な声が聞こえてくるがでかい声の奴がいるだけで返事をした生徒の数はそこまで多くない。
先生は満足そうな笑みと頷きを一つ返して話し出す。
「あなた達上級生は下級生達の見本になるように振る舞わなければいけません。
それに5年生からは騎獣による飛行実習が始まります。
騎獣に乗る際は冷静沈着な行動が求められますからね。
あなた達には今までより一層気を引き締めて貰わねばなりません。
その為にも早くクラスに慣れて授業に集中出来るようにして下さい。
では社会の授業を始めます」
先生が教科書の1ページ目を開くように生徒達に促す。
(やっとお堅い話が終わったよ)
心の中でため息と共に説教じみた話が終わったことに安堵する。
だが飛行実習の話が出た時だけは胸が高鳴った。
その為にわざわざ騎獣に乗れるこの学校に入学したのだから。
ここアースガルズ国立小学校は市立の学校と違って国が将来の騎獣乗りを育成する為に設立された学校だ。
この学校に入学すれば他のルートより最短で騎獣に乗る実習を受けられる。
(やっとだ!ようやく騎獣に乗れる)
窓際の最後列である俺の席からちらりと窓の外を見ると6年生か他のクラスが実習で飛行している騎獣が視界に映った。
あちらも授業が始まったばかりなのか次々と騎獣達が大空へ飛び立って行く。
それを見るだけで興奮を抑えられない。
「では、最初の社会の授業は去年までの復習も兼ねて大まかにこの世界ユグドラシルと私達の国の歴史について振り返ってみましょう」
先生が教科書の文を読む声と足音がする。
どうやら教室内を歩きながら音読している様だ。
「この世界ユグドラシルでは紀元前に神々による戦争が起きその余波で大地が沈んだと古代の文献に記されています。
以来人間は神々によって作られた巨大な箱舟に様々な生物や自然と共に乗り込み空を旅しています。
この紀元前の出来事や大地については学者によって様々な説がありますが現在に至って尚はっきりとした真相はつかめていません。
人間は乗り込んだ箱舟をスキーズブラニルと呼びやがてその中で国を作り始めました。
大小様々な国が興り、数多くの争いが繰り返されました。
その果てに戦乱を勝ち抜いた一つの国が他の国々を纏め上げた。
それが今私達が住む国アースガルズなのです」
先生は一つ咳払いをしてから続きを読み始める。
外では飛翔した騎獣達が生徒を乗せ簡単なルート飛行を実施していた。
「さてアースガルズの発展を語るのに外せないのが騎獣の存在です。
騎獣は人間の生活に深く密接に関わっています。
騎獣は⋯⋯ソラ君何を見てるの?」
いつの間にか後ろの席まで来ていた先生が俺に問いかける。
慌てて先生の方を見るがニッコリとした笑みとは対照的に目は1mmも笑っていない。
「まったく。
そんな授業態度では騎獣に乗せて上げませんよ」
教室中にくすくすとした笑い声が起きる。
「しょうがないですよ先生。
ソラはいっつも騎獣を見るのに忙しくて授業なんか興味ないんですから」
去年も同じクラスだった奴がここぞとばかりに喋りだす。
「そうなの?
騎獣を観察するのも大事だけど今は授業に集中して頂戴ね。」
先生は俺の肩に手を置きひたすらに笑わない目で返事を強制する。
「は、はい」
この先生は怒らせない様にしよう。そう心に誓った俺は教科書に目を落とす。
(今年は騎獣を盗み見るのは大変になりそうだ)
楽しみな日課の時間が減りそうな事に嘆息していると先生が他の生徒に教科書の音読を頼み始めた。
「みんなの集中力が切れてきた様なので教科書を読んでもらいます。
では今日の日付けは10日なので出席番号10番のレイさん。
続きから読んで下さい」
はい。
と教室中に透き通る様な声が廊下側の後列から聞こえ、レイと呼ばれた少女が静かに立ち上がった。
レイは腰まで伸びた綺麗な黒の長髪を窓から入る陽光で輝かせながら、純白に光る手で教科書を持ち読み始めた。
横顔から覗かせる大きな目は長い睫毛が程よく曲線を描き火照った頬と薄い唇から奏でられる心地の良い声が教室中から他の音を奪ったかの様だ。
男子達がそわそわしているのが雰囲気で分かる。
(またかよ)
レイが男子のみならず女子にまで人気が高いのはこれまでの学校生活でよく分かっていた。
表面上は綺麗な容姿と優秀な成績でみんなに好かれるのは分かるのだが成績や授業態度が良いとは言えない俺と毎年比べられて来たので個人的にはこの雰囲気はお辞め頂きたかった。
「騎獣はグリフォンやドラゴンといった飛翔動物のことを指し人々の移動や物資の運搬、領空の警備、古くから戦争にも用いられてきました。」
レイさんありがとう。
先生がそう告げると少女は静かに着席した。
「このように騎獣は人々にとって大事なパートナーとして昔から共に歩んで来ました。
そしてこの世界を語る上でもう一つ忘れてはいけないことが」
授業の終了を告げるチャイムが先生の言葉を中断させる。
「あらもうそんな時間?
今回の授業はここまでね。
続きは次の社会の時間に」
日直が号令を掛け授業は終わったが、先生がクラスのみんなに聞こえる様に大きな声をだす。
「次の時間はソラ君お待ちかねの飛行実習だからね!
みんな更衣室でパイロットスーツに着替えてから飛行場に集まるのを忘れない様に!」
(わざわざ俺の名前出しやがって)
心の中で悪態を突きながらも逸る気持ちを抑えきれず廊下にあるロッカーへパイロットスーツを取りに、教科書も仕舞わずに飛び出した。