真っ黒
穴は著しく収縮しながら狂ったように飛び跳ねている・・・時々ぎゃ~っていう悲鳴みたいな音も聞こえる・・・
『まるで生きてるみたい・・・』
『ああ・・・』
不意に鎧が
『主。注意しろ。』
って言った。
『来るぞ。』
あたしもイシュも,誰がとは聞かなかった。
・・・・
『よくもやってくれたな。』
黒い影だ。王座にいたあの影。その後ろに沢山の影が見える。
『どうする?』
『やる。』
あたしの問いにシュウが答えた。っと一緒に素早い動きで影に向かって飛んでいった。短剣は影を切り裂く・・・でも散ったと思ったらまた一つの影になる・・・鎧も飛んでいって辺りをなぎ払った・・・散った影はたちまち全て集まって巨大な影になった・・・影は巨大な影を後ろに従え,嘲笑するかのように後ろにのけぞった・・・
そこにイシュが突っ込んでった。大丈夫かな?イシュの蹴りで,影はまた散る。次の瞬間にはまた合体・・・もう一度・・・
あたし気が付いちゃった。確実に影の塊は小さくなってきてるって事。
散ったところで,燃やしちゃったら?火事になったら困るかな?
・・・次に散った時,あたしは苦手な火をさっと破片に付けてみた。幾ばくかは灰になって下に散る・・・
それに気付いたイシュが,次の攻撃の後,火を放ったから大変。辺りは一面火の海になった・・・炎は穴をも舐めつくすようだ・・・このままではシロもあたし達も危ない・・
・・・あたしは直ちに水を出した・・水がしぼんだ穴に流れ込む・・・穴は・・・しゅっと縮んで今度こそなくなった・・
・・・・
影は確実に小さくなった。城の主と思われる影は,他の影を引き寄せ,合体しようとしているようだよ。
でも明らかにさっきより勢いがない。
『美優。穴がふさがったことで,奴に必要なエナジーが届かなくなったようじゃ。』
『今が好機じゃぞ。イシュ。燃やせ』
え・・・燃やしたら火事になるから・・
あたしは水と氷の用意をした・・鎧とシュウが切り裂く・・・黒い塊が散る・・・イシュが火を付ける・・・燃え上がる・・・あたしが消す・・いつまで続くの?
・・・・
気が付くと影は一つ残らず亡くなっていた。後は焦げた部屋だけ・・・
イシュがぺたんと座り込んでる・・・真っ黒だね。濡れてるし・・・スシュがあたしを見上げた。
「おまえ。顔真っ黒。おまけにびしょ濡れだし。」
「そりゃあんたも同じだよ。」
それから二人で笑ったんだ。訳もなくね。
『何で笑うのじゃ?』
『ほっとしたのであろうぞ。』
その会話でますます笑っちゃった。
「イシュ。すごく嫌な感じがするって言ってたのに,よく蹴りに行けたねえ。」
「ああ。俺もびっくりだ。」
『こんなところでぐずぐずしてないで,さっさとでるぞ。』
そうだね。あたし達は立ち上がった。びしょ濡れの真っ黒な水がしたたり落ちる。
ここは浄化と清浄だよね。こういうのは得意。
歩き出す頃は二人とも来た時よりも綺麗になっていた。
「こういうのは便利だな。」
「ドラヘの魔法だよ。」
『いや。美優の力じゃ。』
「俺もできるのか?」
『妾は,燃やして浄化するのが得意じゃぞ。』
・・・・・
燃やすのはねえ・・・部屋を一つ一つ確認して回る・・・
誰もいない・・鎧とシュウは剣に戻って定位置に収まっている。疲れたんだろうから,少し休むんだって。
シュウの存在は,鎧袖一族に後で教えなきゃね。
誰もいない城は,何となく不気味だった。
「この国の奴等がここにまた誰かを送るまで,閉鎖しとくか?」
「うん。それがいいね。泥棒とかの住処になったら困るもんね。」
城からでて,全体に守りを掛けた。この国の王はどこにいるんだろう?宰相と言われた存在はあの影だったのか?まだまだ分からないことだらけだ・・・




