龍の涙?
「大師が病気?」
「何だか分からんが,急に胸をかきむしって苦しみだしたそうだ。」
「何があったんだ?」
黒づくめの男は,近くのはこの中から飲み物とコップを出してきた。
「まあ。中止だ。」
「何か知ってるのか?」
老人も,箱の中の飲み物とコップを取り出した。
二人とも無言で飲み物を飲んでいる・・・そこへばたばたと足音が近づいてきた。
「大変です。子ども達が逃げました。」
二人は顔を見合わせて立ち上がった。
「そんな馬鹿な。薬入りの食事を与えたはずだぞ。」
「それが・・・同志達の食事と入れ替わっていたらしく,同じ頃食事を取った者達がまずい状態になっています。」
・・・・・今度こそ二人は慌ただしく立ち上がって走り出ていった。
当然あたしもあとをつける・・・もしかしたら・・・もしかしたら・・・
二人はどんどん上の階に上がっていく・・・途中転移するかもって心配したけど,自分の足で移動してるね。何でかな?
『塔の部屋・・・のような気がするぞ。』
『のような気?』
『いや。塔に向かっていると思うからな。』
階段を滑るようにあたしは登っていく。前の二人もそうだ・・・
『自分の足を使うことなく滑っていっておるのじゃな。』
『フラメ?』
『おお。俺も空になれた。』
『イシュ。出てきたの?』
『ああ。行く先は塔のてっぺんらしい。』
『そうじゃ。そこに妾は呼び出されたのじゃ。』
影響はないのかな?
『心配無用じゃ。汝が妾の召還者。そしてイシュが汝らの召還者・・・・』
『さっき言ってた様に,互いに互いが主と言うことね。』
『そうらしいな。』
ふふん。
二人は一つの扉の前で立ち止まった。ノック・・・返事がない。もう一度強めのノック・・・すぐにでも入室したかったけれど,少し様子を見る・・・
・・・・・
かちゃ・・・・扉が開く・・・二人が入室する。あたし達も・・・中から部屋を開けたのは,1匹の狐だった。
「大師は?」
「臥せっておいでです。」
「何があったんだ?」
「さて・・・とんと見当は付きませぬが・・・」
「が・・・なんだ?」
「龍がいなくなりました。」
・・・・
「なんと・・・」
・・・・
二人はそこで固まっている・・・あたし達は大師と呼ばれている人が寝ていると思われるベッドに近づいた・・・
バット入れから剣が出たがってるね。そっと剣を呼び出す・・・いつの間にこんな事が出来るようになったんだ?今でしょ・・・古い・・・
剣をそっと布団の上に置く・・・・剣が光り出した・・・何?
『おまえ何してるんだ?』
『剣がここに置けって言ったんだよね。』
『・・・何でもありだな。』
『ほんとだよねえ・・・』
光はやがて収まり,・・・・あれ?
『なんか剣が変わってない?』
『その剣を,もともと俺は良く見てなかったからな・・・でも・・・なんかあんまり飾りがなかったような気がするんだが・・・その柄の所・・・』
『妾の命のしずく』
『え?』
『こやつが妾から奪っていたものだ。』
『・・・返すよ。』
『いや。それはもう剣のものだ。』
柄の所に赤い石がはまっている。きらきら綺麗。
『ここにはめておいて良いの?』
『もともとそれはエナジー。やがて消える運命のもの。それが形になっただけの事じゃ。』
『ドラヘ?』
『気にせんでもよいということじゃな。』
『うん・・・』
『で・・・こいつは?』
改めて布団の中の人物を見る・・
『ミイラ?』
おえ~~
布団の中にはミイラが横たわっている・・・見たくなかったあ!!!
・・・
『ミイラとは?』
『人の干物って行ったら分かりやすい?』
『ああ。マミー』
え?マミーってお母さんのことじゃなかったっけ?
『なるほど・・・確かにマミーに見えるな。』
『こやつはかなりの老人。我を呼び出すのに相当な魔力を使ったはず。その緊張の糸が不意に断ち切られれば,病にもなろう。まして破魔の剣がその上にあったならなおのこと・・・』
・・・・この剣って破魔の役もするの?
『えええ・・・あたしの仕業って事?うわ~~~ごめんなさい。』
『何を謝る?こやつは多くの命を犠牲にしてここまで来た奴だ。命の炎はとっくに消えていなければならなかったのに,妾をよびだしてからは,妾の命の炎を削って飲んでおったのじゃ。』
って言われても・・・
『それが断ち切られ,石として吸い上げられれば,こやつ本来の姿に戻ってもおかしくはあるまいよ。』
なるほど・・・
老人は死んでいるって分かるほどに死んでいる・・・でも・・死んじゃったのは今なの?それとも・・うわ~~~殺人罪は嫌だ。思わずパニクっちゃうよ。
『・・・美優が殺した訳ではない。安心しろ。』
『そう。妾が支配から抜け出した時にすでに命はつきてしまっている。だが,命のしずくはこやつの姿を保って生きているように見せていたに違いない。』
・・・どっちにしろあたしじゃないの・・・全然安心できないよ!!!
『だが,死んでしまっていると分かっているのに,あの狐は生きているかのように臥せっていると言っていたな。』
『大師が死んでは困るって事じゃろう。』
『あたしもそう思うけど・・・』
そこでイシュが気が付いたように,
『今のうちに部屋を家捜しするぞ。』
って言いだした。後で考えたら,きっとあたしの気持ちを大師からそらすためだったんだね。
『何を探すの?』
『妾を召還するのに使った龍の涙石だ。』
『これ?』
『これは涙石の片割れじゃ。もう一つで全きになる。』
あたし達はきょろきょろ・・・一つ一つ透視していく・・・どこにもない・・・
まだ探し続けるイシュを尻目に,あたしは早々に諦めて,3人の会話を聞きにもどった・・・
ぼんやり3人を見つめているうちに,狐がやたらと人臭く見えてきた・・・なんだろう?
「とにかく,大師が動けない今,私が代わりに動きましょう。」
「おまえが?」
「そうです。」
「狐のおまえが?」
「いいえ。大師に化けることが出来ますから・・」
「だが,大師と同じ事は出来まい。」
「近いことは出来ますよ。」
この狐・・・なんか気になるな・・・
やがて2人は出て行った。狐はもみ手をしながらににやしている・・・
「わっはっはっはっは・・・これで俺は大師だ。龍の事は惜しかったが,大師に狐にされた恨みをようやく果たせるな。」
なるほどね・・・
あれ?狐の胸に着いている青い石は?龍の涙じゃない?この狐。知ってるのかな?
あたしはそっと近づいて・・取り出した剣を狐の頭にそっと乗せ,ドラヘが宿っている手で,龍の涙を素早くむしりとった・・・・




