大学のある町に・・・
『わしらは本当はどこの世界にも属していないんじゃ。』
『それって?』
『そう・・・世界から世界を渡り歩いているのはそのせいなのじゃよ。召還されやすいのもな・・・・』
『所属がないから呼び寄せやすいって事なのね・・・でも,どこかで生まれて育ったんでしょう?』
『その記憶もない者が多いのじゃ。』
・・・・
『お父さんやお母さんの記憶がないってこと?』
『そういう者も多い。』
『・・・ってことは,ドラヘには記憶があるって事なのね?』
『うむ・・・』
それからドラヘが話したことは長くて・・・少し切ないものだったよ。
『ドラヘ・・分かった。しばらくあたしの中にいても良いよ。』
『しばらく?』
『そりゃそうでしょ。もしも・・・あたしにカレが出来たら,誰かと共有するみたいでイヤだからね。カレができたらでてってよ。』
『冷たいこと言うなよ。』
『当たり前でしょ!!』
「美優様。そろそろ昼にいたしましょう。』
はっ・・・いつの間に・・・皆立ち止まって思い思いに腰を下ろしていたわ・・・あらら。
昼は,朝ご飯の時に一緒に作っておいたものだったよ。丸いパンみたいなものにいろいろな具が挟まってた。飲み物は,おばあさんが持たせてくれた保温水筒に入れたお茶。これも朝煮沸して入れてあったから,まだ温かかった。
「さっきから何をぼんやりしてたんですか?」
ライトが聞いてきた。
「何でもないよ。チョット眠かっただけ。さて・・・イシュ。あたしいつもの所に行ってるね。」
「ああ。近くにいろよ。すぐ出発すると思うからな。」
・・・あたしは素早く木の陰に入るのと一緒に空になる・・・龍の姿でのびをして・・
『イシュ。ちょっと上空から見てくるね。』
『気をつけろよ。』
『分かってる・・・』
上空に舞い上がって黒い町の方を見た・・・ますます黒いような気がするんだけど・・・大丈夫なのかなあ???
『何というか・・行きたくなるような雰囲気を感じないんだけど・・・』
『わしもあんまり近寄りたくないよ。』
『龍でも?』
『龍だからさ。』
『って事は?』
『龍を捕らえる気満々・・・という感じがするからな。』
『まずい?』
『いや。美優と一緒だから・・・わしにとっては大丈夫じゃ。だが,他の龍にとっては・・・どうかな?』
『フラメ?』
『おそらく捕らわれていよう・・・』
『助ける?』
『美優にならできるじゃろ?』
『えええ~~~』
・・・・
『美優、出発するぞ。』
イシュからの通信が入った。
『は~い。今降りる。』
・・・・・
『美優の魔法は願いの力が大きい。この世界の魔法とは異なるものだ。いや。どの世界の魔法とも違うから・・・』
『違うから?』
残念ながら,そこで地上に着いてしまった。
『後で聞かせてね。』
町まで後半日・・・夕方近くには着くはず・・
「あれ?泊まるところはどうなるの?」
「まず,宿屋を取りましょう。学生の街なので,貸家も多いでしょうから,しばらく借りるのも良いかもしれません。」
「しばらく借りるって・・・ちょっと偵察って事じゃなかったの?」
「ライトの件で,少し事情が変わりましたのでね。王宮にも連絡済みです。」
「向こうの城に行くのが遅くなっちゃうね。」
「仕方がありません。ライトの件が優先されましたから。」
町に入る時,とがめられるかなと思ったけど,検問もなく,門もなく,普通に日本の都市の移動と同じように入れたんだけど・・・いいの?何て言うかな・・・ファンタジー小説で読んだような通行手形もないみたい。うん。楽でいいよね。
そのまま宿の斡旋所を探して・・・今夜の宿と,貸家を探す手続きもしてた。紫電先生。慣れてるね?
「息子たちがここの大学を受験したいというもんですから。ええ。受験が終わるまでしばらく滞在と言うことで・・はい。はい・・・ 」
・・・今夜の宿に向かっている。大学の近くに2ヶ月契約で家も借りられることになったし・・・明日物件を見に行くんだって。
「うん。一軒家だと良いね。」
「そうだな。紫電先生・・・分かってると思うけどな・・・」
ぼそぼそとイシュと話をする。
乱麻はライトにべったりだね。本当の親子みたいだね。イシュは・・・やっぱり複雑な表情で二人を見てるよ。入っていけばいいのにさ。今は,おじさんと甥という関係なんだからさ・・・
「さて,まず宿屋に行きましょう。」
もうじき暗くなるもんね。町の薄黒いもやは,どんどん広がってるようにも感じられるし・・・何て言うかな,普通の暗がりじゃないみたいだ。早く宿につきたいよ。




