その者の名は?思い出せないのか?
紫電先生は黙ってライトの顔を見る・・・ライトはにやりと笑った後・・・パタンと倒れた。あたしは慌てて側に行き,ライトの様子を伺う・・
「紫電先生?」
「おじさん?」
・・・・・
紫電先生は何も言わない・・・言う言葉を考えているようにも見える・・・
ややあって・・・ ため息とともにつぶやくように言った言葉に皆驚いた。
「今のは,おそらく,同級生だった男です。名前は・・・何だったかな・・・ちょっと思い出せなくて・・・首席を争った男だったことは確かです。何で名前を思い出せないのか・・・むしろ,何でその存在を忘れていたのか・・・」
「忘れさせるように何かを仕掛けていたと言うこと?」
『そうじゃろうな。一瞬だが・・かなりの魔力を感じさせたからのう。』
・・・・・
『今,深く探ってみたが,ライトの中にフラメの痕跡とともに,その男の痕跡も残っておる。』
「フラメ?」
紫電先生が聞き返す。
『炎の龍。赤き龍のことじゃよ。』
「まさか・・・その男が,ライトと赤龍を・・・」
『その可能性はぬぐえまいよ。』
・・・・・
「ライトはそいつと深く繋がっていて,あたし達の行動は相手に筒抜けって事?」
『その可能性は大きい』
「では・・・こいつを?」
『いや。危険な存在ではあるが,今回の一連のことの鍵でもあろう。わしが見ておく故に,連れて行くが良かろう。』
「それは・・・」
『冒険じゃないの?』
あたしはドラヘに小さい声で聞く・・・
『連れて行くしかあるまい。ここに置き去りという訳にも行くまいし,解決するにはこやつが必要だ。』
「私は・・・イシュ様を危険な目には遭わせたくないのです。」
「俺のことはどうでも良い。自分の身くらい自分で守れる。」
「しかし・・・」
・・あたしは我慢できなくなってきた。
「ああもう。ドラヘを信じられないの?」
皆黙った。
『炎の龍と氷の龍。どちらも膨大な力を持つ。』
「そして,どちらも召還されやすいという欠点を持つのね?」
『はっはっはっは・・・』
「さっさと出発しないと・・・お昼になっちゃうわよ!!」
皆のろのろ立ち上がる・・・あたしはライトの眠りを解く・・・ライトはゆっくり目を開け・・・
「あれ?私は眠ってしまったんですか?すみません。」
慌てて起き上がって仕度をしようとするその姿からは。さっきの苦しそうな様子を想像させなかった。
程なく出発し,歩き出す・・村を避け,畑の中を通り・・・あたしは皆の足に強化の魔法をかけた。今までの倍以上のスピードで進める・・ライトにまた変なことが起きるかもしれないから・・・
『ライトにかける時は慎重に・・・』
『分かってるわ・・・』
『ドラヘ・・今日はよく話してくれるね』。
『思うところがあったもんでな。眠っていられなくなったって訳だ・・・』
『やっぱり,いつも眠ってるのね。』
『そうじゃ。眠りは,わしら龍には必要な食べ物じゃ。』
『眠りが食べ物なの?』
『そのようなものじゃ・・・』
『違うの?』
・・・・・
ドラヘととりとめも無い会話をしながら歩く・・・この頃は防音の結界を張ることを覚えたので,すぐ前を行く,紫電先生に聞こえることもない。




