向こうの砦では・・・
上空から, テントのあったあたりを見る。
なにもない。花もないね。残念。下を見る。
下ではイシュと紫電先生,ライトと乱麻が歩いてるね。ちゃんと見ようと思うと,姿を隠していても,見えるって事が分かって面白い。ついでに向こうの砦まで行ってみようか。
あたしは隣国の砦の方向に飛んでいった。森のすぐ後ろにある砦は不気味なほど静かだった。歩哨が何人か立っている。どっちかって言うと,国境から少し離れたところに砦なんて作って何の役に立つのかな?
そっと下に降りる。何だか中の方が騒がしくなってきてるよ。
『中に入って見ろ。』
『え?』
『空になっていれば,龍のままでも入っていけるはずだ。』
・・まあ・・・理論上はそうかもしれないけど,壁と溶け込むなんて何か不気味だと思うんだけど・・・
でも,急にざわめいたのが不思議に感じられるから,そっと入ってみる。どこにでも顔を突っ込めるって便利かも・・・
一つ一つの部屋をのぞくと,おや?あの人・・・砦で見たことある若い騎士さんだ。捕まってるみたいだね。え・・・もしかしたらこれって・・・これって・・・拷問!!!
鞭を持ったヒトが立ってる。・・・始めたばっかりみたいだけど・・血だ・・・うわっ。なんだ,この鞭・・血だらけのとげがついてる・・・・・いやだっ。これでたたいてたんだ。また鞭を振り上げる・・・自分に返れ!!!
べしっ・・・
「ぎゃあ!!!」
ふん。自分のしたことは自分に返れ。命令した奴にも返ればいいや。
どこかで悲鳴が聞こえたような気がするけど,そんなことはどうでも良い。あたしは,大急ぎでその人を拘束している革のベルトを外した。
「なんだ?」
「急に外れたぞ。」
その人もびっくりしてたけど,あ・・・って気付いたみたいだ。
立ち上がって逃げようとしてるけど,結構血が流れているから,うまく動けないみたい。すぐに傷が治るようにイメージする。傷はたちまち綺麗になる。イメージって大事だねえ・・・つい,のんきなことを・・・その人も驚いているから・・・
「魔法使いだ。魔法使いが侵入しているぞ」
誰かが気が付いたみたいだよ。これってまずい?
あたしはその人をつかんで持ち上げ,朝出てきたばかりの砦の庭をイメージしたよ。
・・・一瞬で砦の庭に戻った。便利ぃ・・・急に現れたその人に,警備の人は大慌て。服は血まみれのままだからね。
あたしは無事その人が保護されるのを見届けてから,また空に舞い上がった。下から,
「美優様」
って呼ぶ声がしたけどし~~~らない。
飛んでいったら,あの4人の姿が森の端っこの方に見えた。降りたって,脇に着く。
「こんなとこで立ち止まってどうしたの?」
「美優。おまえどこに行ってたんだ?」
「え?砦」
「心配するだろうが,ちゃんと離れる時はそう言ってから離れろ!!」
「大丈夫だよ。」
紫電先生が,
「森の向こうが騒がしいのは,美優さんのせいですか?」
騒がしい?ああ。
あたしはさらっとさっきの話を伝えた。忍び込んだ下りはうまくごまかしてね。
「ほう。來己を助けてくれたんですか。それはありがとうございます。」
紫電先生が率着に礼を言ってくる。いやいや。当然ですから。
「來己が捕まるなんて・・・」
乱麻が意外そうな顔をしてる。
「來己って?」
「俺と同じくらいの奴の中では,俺の次に砦の中で強い奴だ。」
「血まみれだったよ。」
「何だって?」
乱麻は今にも駆け戻りそうだよ。
「大丈夫。傷は治して砦に連れ帰ったからさ。」
・・・・・
「すまん。」
「いやいや。」
それから乱麻は急に無口になった。何だ?
森を急いで通り過ぎ,砦からもだいぶ離れた頃,ようやくあたし達は食事のためにストップしたよ。
紫電先生が,異世界トリップのお約束,何でも入るリュックを取り出した。
10人前はあろうかというお弁当。美味しそうなサンドイッチだね。
いつものようにぱくぱく食べる。でも,イシュはもう何も言わない・・・龍体でいろいろしていたのが分かったからかな? 乱麻も何も言わない。紫電先生はもとより何も言わないから,ついつい調子に乗って食べ過ぎしてしまう。
「そんなに食べてはお腹を壊すわ。」
そう言ったのはライト。
「忠告,ありがとうございます。」
あたしはにこにこしながらご飯の続きを食べる
「食べたら,ここをこう回って町に行きます。」
地図を見せてくれながら,紫電先生が言う。ライトは,地図を見て何事か考えてるみたいだった。
「この町。ここで私はしばらく暮らしていたことがあるような気がします。」
中央に近い町・・・この国の大学があるという町だという。 そこでいったい何があったんだろう。あたし達は顔を見合わせた。




