名無し?
ゆっくり降りて・・・でもすぐ飛び立てるようにして・・・声だけ届かせる・・
「あなたは誰?ここに何をしに来たの?」
その人は,きょろきょろしてたけど・・
「誰だ?どこにいる?姿を見せろ!!!」
ってわめきだしたわ。
「別に危害を加えるつもりはないよ。」
「おまえか?ここの者達をどこにやったんだ?」
「聞きなさいよ。」
聞く気が無いみたいね。おまえは誰だ。皆をだせ。そればっかり。めんどくさくなってきたわ~~~~
「顔くらい見せなさいよ。」
「おまえも姿を現せ」
めんどくせ~~~
しっぽでちょいとつつく・・・
「わあ・・・」
かぶり物がとれた・・・あれ?イシュに似てない?
「あんた女性だね?」
「・・るせ~~~~」
その人はかぶり物をひっかぶって,かけだした。おやおや・・・そっちは国境だよ。
国境を越えたところであたしも人化して姿を現し,後ろからタックル・・・もちろん隣の部活の見よう見まねさ。そいつ転んじゃった。
あたしは,転んだそいつを捕まえて,悠々と連れ帰るよ。
砦の入り口で,またまたどん引きされたけど,いい加減慣れて欲しいわ。
朝ご飯の時間になってもあたしが現れないってことで,皆心配してたみたい。・・・ドンだけ意地汚い奴と思われてんだか・・・
捕まえてきた人をほれ。と引き渡したら,紫電先生も,一閃さんも固まってた。
「イシュ様にそっくり・・・」
「もしや?」
「さっさと殺せ!!!」
なんてこった。この子?女性?子ども?
慌ててお爺さんとお婆さんの所に通信を始めたイシュ・・・
「そうだ。そっくりなんだ。子どもにも見えるし・・・大人にも見える・・・女にも見えるし男にも見えるんだ・・・」
それからあたしの方を向いて,
「そいつの映像を城に送れるか?」
・・・送ってくださいだろう。と思ったけど,
「出来るよ。送って欲しいの?」
って聞いてやった。
「・・頼む」
ふん。あたしは自分の力を信じて・・・
「写ってるそうだ。」
しばらくの沈黙・・・
その間にもその子?はじたばた暴れる・・・危ないよねえ・・・ってことで,やんわり静かにお座り願った。きっちり椅子に拘束されてるその子?は,そのうちに諦めたみたい。通信が終わったみたい。
「2~3日後に爺さんと婆さんが来る。」
そこでその子が何者なのか,明らかになるだろうとのことだった。この世界でDNA鑑定なんてありえないだろうけど,なんていうか,イシュとよく似てるんだよねぇ・・・兄弟?いとこ?男?女?
「おまえは,なんていう名前だ?」
・・・・
「男かね?女かね?」
・・・・
「どうしてあそこにいたんだね?」
・・・・
黙りかい?
「美優。頼んでいいか?」
「いいけど・・・」
・・・・・
「名前は?」
「誰でもない」
は?
「男かね?女かね?」
「どちらでもない」
は?
「美優、おまえの魔法力、落ちたんじゃねえ?」
・・・・・ふん。そんなわけない・・・と思うけど・・・
「なんであそこにいたのかね?」
「探しに来た。」
「なにをかね?」
「分からないもの」
?????
「どこの国の人間だ?」
「どこの国の人間でもない。私は私だ。」
?????
だんだん疲れてきたね。あたしはご飯を食べるよ。誰も邪魔をしないでね。あたしが朝ご飯を食べている間にも,話は続くけど,らちがあかないね。
「その子に,ご飯食べさせたら?」
皆そこではっとしたみたい。
「どこで?」
「ここでいいじゃない。一緒にご飯を食べれば,ちょっとは皆も頭が働くかもよ。」
その子の椅子を自分の脇に引き寄せて,手を自由にさせる。
「食べなさいよ。お腹が空いてると,ろくなこと考えないよ。」
その子はしばらく躊躇していたけど,おずおずと手を出してきた。手が汚いね。あたしは空中から出したおしぼりで手を拭いてやった。その子はびっくりしてたみたい。
食べながら,あたしはその子に話しかける。
「何て呼ばれてたの?」
「名無し。」
「ななし?」
「そう。」
「意味は?」
「名前がないから名無し。」
なるほど。
「だから,誰でもないって言ったんだ?」
その子はスープを夢中で飲みながら
「うん」
って頷いた。周りの男どもはびっくりしてるね。ほら。あたしの魔法力が落ちたわけじゃない。
「もしかしたら,男女どちらでもないって言うのは,どちらでもあるってことかな?」
「そう。よく分かったね。」
周りはどよどよっとしてる。
ちゃんと聞かないから答えが曖昧になるんだよね。うん。
ちゃんと聞いてたぞ・・・あ・・そ・・




