偽者?
本当に遅くなってすいません。
次もまた遅くなりそうですごめんなさい。
無防備に背中を見せてブツブツと喋りながら外へと歩いていく魔人をトワは静かに見つめる。
(なんだ?隙だらけなのに攻撃しても意味がない気がする。………クソッ、ここだと少し暗くて鑑定眼が使えない)
鑑定眼は文字通り眼で対象を確認しなければ発動しない。
室直が薄暗いうえに離れていて、しかも魔人は入口へと向かっているため外から入る光でトワからは逆光のため見辛くシルエットしかわからなくなっていた。
「今のうちに倒さないのか?隙だらけに見えるぞ?」
クリュエルがトワに後ろから声をかけるとチッキャ達もクリュエルの言葉に頷く。
「今攻撃しても意味がない気がするんだ」
トワが振り返りそう言うと
「そうですね。生き物の気配がしません」
アイリがトワの言葉に頷く。
「まあ、骨だから生き物っていうのがわからないがな」
トワはアイリの言葉に軽くツッコミをいれる。
「くさ~い!」
リーネは鼻を摘まみながら苦しそうにトワに訴える。
「確かに臭いはするがそこまでか?」
部屋の中は最初は何の臭いも無かったが、魔人が現れた時から油臭いようなドロ臭いような臭いが漂っていた。
それでもトワにしてみれば少しくさいかなと思う程度だっのでリーネの反応に首を捻る。
「リーネちゃんは鼻が良いみたいですよ」
アイリがトワに答える。
「へ~、獣人って皆そうなのか?」
「いえ、獣人は基本的に人間よりも五感や身体能力のいずれかが多少良いんですが、リーネちゃんの場合は少し違って、リーネちゃんから聞いた話を考えると先祖帰りのようなので五感が凄く良いんだと思います。まだ確認をしたわけではないので確実ではないですが、たぶんそうだと思います。伝えるのが遅れてしまって申し訳ありませでした」
アイリは頭を下げる。
アイリはリーネの昔の事や耳が良いことや鼻が凄くよくて辛いことがあることを聞いていてその結論を出していた。
「なるほど、アイリも?」
アイリは俯き、いつもは頭の上でピンと立っている耳をペタンと倒して尻尾も力無く地面に垂れていた。
「申し訳ありません。目と耳には多少自信がありますが、一般的な獣人は潜在的な能力だけではCランクの冒険者まで行ければ良い方だと言われています。………つまり………その…………捨てないで下さい!」
アイリは少し言いよどむとトワにすがり付いて今にも涙が溢れんばかりに潤んだ瞳で見上げていた。
「捨てるわけないだろ。どうした?」
トワはそんなアイリを抱き締めながら頭を優しく撫でる。
「……う……うう………うわぁ~ん」
アイリはトワの優しさに耐えられなくなり泣き出してしまう。
自分に自信がないアイリはクリュエルと言う存在と同じ獣人でも自分より勝れているリーネの存在に追い詰められていた。
(いつもは強気のアイリのこんなに弱いところを見たらなんか胸がキュンキュンする!)
トワはそんなアイリのギャップに惚れ直していた。
「もう大丈夫です。お手間をお掛けしました」
しばらくするとアイリは赤くなった目を擦りトワから名残惜しそうに離れる。
トワの少し後ろに下がったアイリの頭をチッキャ達が優しく撫でる。
(クリュエルには幸せになってほしいけど………まだ十歳ちょとの女の子をこんなに追い詰めていたんだな)
チッキャは複雑な表情を浮かべる。
リーネとクリュエルは首を傾げていた。
(プックク、自分のことになると本当に疎いんだから)
チッキャはクリュエルを見て笑みを浮かべた。
「そろそろいった方が良いんじゃないのか?」
アイリを撫でるのをやめたチッキャが入口を指して言うとタタタと魔人が駆けて戻ってくる。
「ちょっと!何でついてきてないの?後ろにいると思って魔人になった経緯を得意気に話したあげく、さぁ殺ろう!なんて格好よく振り返ったら誰もいないとか恥ずかしすぎるわ!」
魔人は物凄い勢いで捲し立ててきた。
「ああ、すいません。今、今行こうとしてたんですよ」
トワはなぜか勢いに負けて頭を下げていた。
「じゃあ!行くよ!」
そう言うと魔人はトワ達を見たまま後ろ向きで歩きだした。
後ろ向きで歩きながら自分が如何にして魔人になったかを説明始めた。
(簡単に言うと勇者に倒されて(ほぼ自害)、未練があった彼はアンデットとして復活したら魔力が強かった為にリッチ(アンデットの最上位主)になっていて、普通は憎悪に飲まれて自我を失うはずが殺された怨みよりも研究の欲望の方が強かった彼は自我を保ったまま研究に没頭してその成果を魔王に何度も報告すると、その成果を認められ魔人にしてもらい今に至ると)
「おい!なんか私の輝かしい歴史を短く纏めなかったか!?」
トワが簡単に話を纏めていると少し怒った声をだす。
「…………いや、してない」
「なんだ!今の間は!私の歴史は一冊や二冊では纏められないほど素晴らしいものなのだ!」
トワが心でも読まれているんじゃないかと思うほど的確に核心をついてきたことに驚き一瞬間ができそこを魔人が指摘する。
「はぁ、」
熱弁を振るう魔人の相手に疲れてため息をついて後ろを見ると、女性陣は魔人の話が始まって五分もしないうちにキャッキャッと楽しそうに所謂ガールズトークを楽しんでいた。
「はぁ、」
それを見てトワはもう一度ため息をつく。
「聞いているのかね?まったく」
魔人はトワの後ろにいる女性陣にはすぐに興味を無くしてトワにロックオンしていた。
「さぁ殺ろうか!?」
外に出ると魔人は手を広げて告げる。
外は日が落ちかけているがまだ明るかった。
トワは内と外の明るさの違いに目を一瞬細めて馴れてくると魔人を改めて鑑定する。
クレイドール(モデル魔人ローゼン=マグマナス)とでた。
他のステータスは双頭アースドラゴンと同じく文字化けしていて何もわからなかった。
(クレイドール・・・あの臭いは粘土だな。それよりクレイドールって確か高レベルの土魔法だよな、でも、人間に化けられるなんて知らなかった)
クレイドールとは土魔法で作る魔力で操る粘土人形のことだが、トワも土魔法は最高レベルだがクレイドールに姿を写すことや人間のように滑らかに動かすことが出来るとは知らなかった。
(クレイドールって魔法使いが前衛代わりに使う盾ぐらいにしか使えないと思っていた。
「ほ~、その顔はこれの正体に気がついたのかな?上位の鑑定スキルを持っているようだな」
トワの様子を見て魔人が嬉しそうに驚きながらクレイドールの体を指しながらに問う。
「なぜ上位の鑑定だと思う?」
「簡単なことだ。これには人物鑑定等の下位の鑑定には見えないように隠蔽の効果のある魔道具を付けているからな」
そう言うと右手の指輪を見せる。
「……そうか・・・本体は姿を見せる…つもりは無いな」
「もちろんだね!ありきたりだが言わせてもらうよ。これを倒せたら姿を見せよう!」
魔人は親指でクレイドールの体を指しながら言う。
「やるしかないか、皆は少し下がっていて」
トワはそう言うとアイテムボックスから剣を取り出して一足飛びで間合いを詰め袈裟懸けに斬りつける。
「・・・・」
魔人は抵抗すること無く剣を体でうけ剣は肩から腹部まで斜めに斬り体に埋る。
「手応えが・・・無い・・・やっぱりなおるか…………ん!?抜けない!!」
魔人は剣を体に埋めたまま斬られた箇所が元通りになおっていく。
トワはなおっていくクレイドールを見て剣を抜こうとするが抜けなかった。
魔人は手に持つ長い杖を目の前のトワに向けて振るう。
トワは剣を手放して後ろに飛び退く。
(確かに速いが、魔人としては遅すぎる。似せているといっても所詮クレイドールか)
魔人の攻撃は普通の冒険者ならば攻撃されたことにさえ気がつかづに殴り飛ばされているところだが、トワにしてみればまったく驚異を感じるほどの攻撃ではなかった。
(大魔導師を模しているにしては魔法を使ってこないな・・・それならやりようがある)
「ふむ、やはりまだ一テンポ動作が遅れるな」
魔人はクレイドールの体を見ながら呟く。
トワは火の玉を魔人目掛けて放つ。
「むっ!」
魔人はトワの魔法に気付き顔を上げて、避ける暇無く命中し爆音と共に土煙が上がる。
「……………ハハハ無駄だぞ!?これには対炎防御と対魔法防御を施してある。やるならこの山ごと消す気でやらねば効かぬ」
土煙の中でも笑い声と共に魔人がトワに向けて楽しそうな声で言う。
その姿は土煙でまだ見えていない。
トワは今の攻撃で倒せるとは思っていない。
目的は土煙を上げて魔人の視界を奪うことだった。
(走れるみたいだしな躱わされたら面倒だ。本体が側で見てなければだけどな)
別の場所から様子を見られていたら意味がないが、気配が周りに無く鑑定眼でも見える範囲でおかしな点は無いので大丈夫だと思っている。
トワは魔人を囲むように風魔法で竜巻を作り出していく。
竜巻の勢いは強く、そして中から無理やり出てこられないように竜巻の中に風の刃を混ぜた。
竜巻は土煙を巻き上げて魔人の姿を現せる。
「竜巻か………ほー、言わば風の檻だな」
魔人が竜巻に触れると触れた指先が切れる。
魔人は切れて後ろに飛んだ指を拾い繋ぎ会わせ感心したように観察する。
(切れた部分を土魔法で新たに再生する訳じゃ無いんだな・・・ならやっぱりいけるな)
トワは魔人の行動に自分の考えに自信を持つ。
「さて、閉じ込めてどうする?このままでは倒せないが?」
魔人はトワが次に何をするのかわくわくした声で言う。
「こうするんだ!」
トワは竜巻に火魔法で炎を竜巻の流れに沿って流していくと炎の竜巻が完成する。
「ハハハ私は生身では無いから焼け死ぬことは無いぞ?それにこの程度の魔法でもこれを壊すのは無理だな」
「ふん、言ってろ!」
魔人の説明をトワは鼻で笑う。
炎の竜巻をしばらく維持しているためトワ達も熱気で汗だくになっていた。
「そろそろいいか」
トワがそう言うと炎の竜巻を消す。
「ん?もう満足したかな?」
魔人がトワに問う。
「さて、それでは次はこちらの番だ・・・な?…………おや?動かない??リンクは問題ない!?」
魔人は歩き出そうとしたがクレイドールの体が動かず驚きの声を上げる。
トワは無造作に近付き動かない魔人をコンコン叩く。
「うん、いい音だ」
「何が起こったのかね?と言うか何をしたのかね?」
魔人はクレイドールの体が動かないことの意味がわからないでいた。
「簡単だ。ただ陶器を作るように焼いただけさ。臭いから油粘土だと思ったから燃えるかなとも思ったけど、炎の対処理してあったから大丈夫だと思ってね。まあ、燃えたら燃えたで焼き尽くすだけだったけど」
トワは戻りながら話す。
「なるほどねぇ、直接炎じゃなくて熱を使ったってことだね。あと竜巻で指先を切った時に再生出来ないことに気付いたんだねー」
魔人は感心する。
「あと、熱された物が遥かに低い温度の空気に触れるとどうなるか知ってるかい?」
トワは振り向いてニヤリと笑うと魔人の顔にヒビが入る。
「割れるねー」
「そう。さらに水をかけられれば!」
トワがそう言うと水魔法で大量の水をかける。
「フフフ、やられたねー」
魔人が最後に嬉しそうにそう言うとクレイドールの体が砕けて破片の中に頭蓋と幾つかの骨と人の心臓らしきものが残された。
すると次の瞬間に目の前の空間がパリンと音をたてて割れそてこから今倒したクレイドールと同じ姿の者が出てくる。
「それじゃあ、本番といこうかね?」
クレイドールとはまるで違う威圧を放ちながら悠然といい放つ。
呼んで頂きありがとうございました。
もし良ければ「ストーカーはいけません!いえ、面倒ですが仕事ですから。」という新しい物も書いているので呼んで見てください。