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お伽噺の悪役?

 遅くなってすいません。


 今回は昔話がメインなので本編が殆ど進みませんごめんなさい。

 濃い緑色のローブを着た男が手術台のような台の上で、手足を台に固定されて横たわる六歳くらいの裸の少年の頬にナイフを当てスーっと滑らせ少し血が出る程度に頬を切る。

 ナイフで切られた筋から血が染み出てくるが少年は声を上げることもなく静かに寝息をたてている。


「うむ、息もある。昨日までのガキ共のように痛みでショック死もしない、薬の拒絶反応で暴れ死ぬ気配もない。今回の薬は成功のようだな。」


 ローブの男は少年の様子を確かめながら紙に羽ペンで何かを書き書類の散乱する机にそれを置く。


「おい!第一段階が成功したんだこのまま次に入るに決まっているだろうが!さっさと001番のオークを眠らせて連れてこい!」


「「「は、はい!」」」


 ローブの男がそう叫ぶと扉の近くにいる革の鎧姿の男二人と白衣の様なものを来ている一人の男が返事をして部屋から出ていく。


「まったく使えん奴等だ!言われる前に行動することが出来んのか!」


 ローブの男が三人が出ていった扉を見て悪態をつきながら椅子に座る。


「旦那様、材料が届くまでお茶でもどうぞ」


 メイド姿の二十代後半の女がそう言いながら音もたてずに机にお茶を置くと散乱する書類を纏めていく。


「ふぅー、使えるのはお前ぐらいなもんだ。後どれくらいストックはある?」


 ローブの男はお茶を一口飲み少年を見てメイドの女に聞く。


「後は、人間の雌が六歳前後のが三つと十歳前後のが二つ、雄が六歳前後のが一つと十歳前後のが一つ、それと、猫獣人の雌が六歳前後のが一つと犬獣人の六歳前後の雌が一つと十歳前後の雄が二つです」


 メイドはポケットから取り出したメモを見ながら人をまるで道具の数を伝えるかのように淡々と答える。


「人間の雄が少ないな。やはり実験には何も混ざってない人間、それも雌よりも体力のある雄が使いやすいからな使いすぎたか」


 ローブの男がそう言うとメイドの女が勢いよく頭を下げる。


「申し訳ごさいません!在庫をきちんと用意していないばかりにご迷惑をおかけします!必要でしたらすぐにでもスラム街でいくつか採って来ます」


 ローブの男は手をヒラヒラと振る。


「ああ、今はいい。二、三日中に用意しておけ。それよりも、魔獣の方は何が残っている?」


 ローブの男がそう言うとメイドはもう一度メモを見る。


「ありがとうごさいます。魔獣の方ですが、生け捕りにしてあるのが、グリーンウルフが三匹とオークが二匹、いや今一匹使うから残りは一匹です」


「グリーンウルフはあまり使わないから良いが、オークが少ないな」


 ローブの男が眉を潜める。


「申し訳ごさいません。依頼を出してはいるのですが、なにぶん生け捕りとなるとなかなか難しいようでして……」


 メイドが沈痛な面持ちで頭を下げる。


「ふん、私が出向けば早いのだが面倒だ。そうだな、子供を作れる歳の雌をいくつか繁殖の為にオークの檻に入れておけ」


 ローブの男が一瞬考えるような様子を見せて言う。

 ローブの男は超が付くほどの一流の魔術師だが研究以外のことに対してはまったくヤル気を出さなかった。


「なるほど、流石は旦那様です。すぐに手配します」


 ローブの男が頷きお茶を一口飲み扉を見る。


「それにしても遅すぎるな。まったくこんな簡単な遣いも出来ないのか、はぁ、彼奴等はオークとグリーンウルフの餌にして新しいのを雇うか」


 その言葉にメイドは頷く。


「そういたしましょう。代わりの者はすぐにでも用意いたし   」


 メイドが言い終わる前に扉が壊され何かがメイドの足元に転がる。

 メイドの足元にあるのは先程自分の主に仕事を仰せつかった革の鎧を着た男の片割れの頭だった。


「おやおやまったく、お使いも出来ないなんて犬畜生の方がましですね。こんなのが同僚だったなんてお恥ずかしい!」


 メイドはそう言いながら頭を踏み潰して主であるローブの男と入口の間に右手に短剣を持って左手でナイフを構えて立つ。


「不躾な侵入者よ!ここがローゼン=マグマナス男爵家の研究所と知っての狼藉か!旦那様下がっていて下さい」


 メイドはそう言いながら埃が晴れた入口を見る。

 そこに居たのは黒髪の十代後半の男女と、赤い髪をした二十代後半の筋肉だらけの男と、綺麗な銀髪のロングヘアーをしたエルフの女、それとその後ろに数人の兵士が居た。


「ふざけんな!!テメーら人を子供を何だと思ってんだ!!」


 黒髪の男が叫ぶ。


「ローゼン=マグマナス男爵、貴方のしていたことは既に陛下の知るところとなりました。抵抗は無駄です。大人しく捕まり罪を償いなさい」


 鈴の鳴るような美しい声でエルフの女が言う。


「ふん、何が罪だ!街に落ちているゴミをどうしようと問題なかろうが!逆にゴミ掃除をしているのだ感謝してほしいものだ」


「まったくその通りです」


 ローブを着たマグマナス男爵と呼ばれた男は当たり前のようにそう言うとメイドも肯定して頷く。

 その言葉に黒髪の男達から殺気が膨らむ。

 強い殺気が向けられた瞬間にメイドがナイフを同時に数本投げる。

 黒髪の男女や赤い髪の男とエルフの女はナイフを軽く躱わすが、後ろに居た兵士達は躱わすことが出来ずに頭に突き刺さり数名が絶命する。

 ナイフの速度は常人には捕らえられる速度ではなく、しかも投げる時も一切の予備動作が無かったため躱わすことが出来ないのはしょうがなかった。


「旦那様!後ろの非常口からお逃げ下さい!」


 メイドはナイフを軽く躱わされたことで目の前の敵に勝つことは難しいと悟り主を逃がす時間稼ぎをすることにした。


「うむ」


 マグマナス男爵が壁に手を付くと通路が表れる。


「逃がすか!」


 男達が突っ込んでくる。


「行かせません!」


 メイドはナイフを投げながら短剣を振るう。

 メイドは攻撃をナイフで受けた瞬間に短剣を振るい、短剣を躱わした瞬間にナイフを投げる。

 メイドは確かに強いが三人の攻撃を受けながら、さらにエルフの放つ魔法を避けなければいけないので、どんどんと攻撃の回数が減り受けるばかりで圧されていく。


 そんなメイドの防御一辺倒の攻防がしばらく手続く。


「くっ、まあ良いでしょう。勝てないことはわかってましたし、旦那様が逃げる時間さえ稼げれば」


 メイドが傷だらけになりながら後ろに下がり言う。


「フッ、本当にそう思うか?」


 赤髪の男がニヤリと笑いながらメイドの呟きに声をかける。

 メイドはその言葉に辺りを目だけで見回すとそこに黒髪の男とエルフの女が居ないことにようやく気付く。

 

 メイドは防ぐことに必死で二人も居なくなっていることにまったく気が付かなかった。


「ッ!!」


 メイドは敵が目の前にいるのに主の消えていった通路を無防備に振り返り見てしまった。

 赤髪の男はその隙を見逃すことは無かった。


「ッ!!・・・グブゥォ」


 メイドはすぐに隙だらけの自分に気付き振り返るがその時には既に遅く赤髪の男が持つ大剣がメイドに深々と突き刺さる。


「………だ、旦那様………勝手に……お暇を……いた……だくこと……お許し……くだ……さ……い………」


 そう言うとメイドは膝から崩れ落ちる。


「ハァハァハァ、まさかドラゴンに勝った俺達がメイド一人にここまで苦戦するとわな」


 赤髪の男がそう言いながらメイドを見下ろす。


「世に出ない強者もいるってことね。彼女が味方になってくれたら、この後魔王と戦うのも楽だったかもね」


 黒髪の女はそう言うと台の上で寝かされている男の子の拘束を外し外に連れ出す。




「はぁ、まったくせっかく集めた資料が台無しだ。また一からやり直しか」


 マグマナス男爵がタメ息混じりでそう言うと後ろから声をかけられる。


「そんな心配の必要は無い!」


 黒髪の男が後ろから斬りかかるがローブの男は前に転がるように避ける。


「どうやってここに来た?あいつが簡単に負けるとは思えんが・・・まあいい、ここで死ね」


 マグマナス男爵はそう言うと手を前にだしバランスボール大の火の玉を連続で飛ばす。

 しかし、火の玉はエルフの女が黒髪の男の前に現した水の壁に阻まれる。

 

「ほー、私の魔法を防ぐとは………黒髪の………銀髪のエルフ………そうか、勇者と時の大賢者か!」


 マグマナス男爵は王城で何度も見たことがあったが興味が無いことはすぐに忘れるため今までと気が付かなかった。


「そうかそうか、ククク、私も全力でやろう!」


 マグマナス男爵がそう言うと地面から数本の大きな土の手が現れ、その手から火や水、風などの魔法が放たれる。


「チィ、流石は大魔導師と呼ばれるだけはあるわね」


 大賢者と呼ばれるエルフの女が冷静に魔法を撃ち落としながら言う。


「たあぁぁぁぁぁ!」


 勇者と呼ばれた男が剣を振るうと剣筋にそって光が輝き魔法を切り裂いていく。


「ムッ、まさか、光魔法か!?」


 マグマナス男爵は眉を潜める。

 光魔法とは雷魔法等の上級魔法よりもさらに上にあるとされている最上級魔法だ。


「まだ完全では無いが発現仕掛けているのか。ならば今のうちに!」


 マグマナス男爵がそう言い右手を前に出すと十数本の腕が現れる。

 しかもその腕は先程のような土ではなく鉛色をした金属だった。


「ヤー!   ッ!!」


 勇者が同じように剣を振るうが先程までのように一撃で粉砕することは出来ない。


「貴様等の死体は私が友好活用してやるから安心して死ね!」


 金属の手から先程のように火や水や風だけではなく、上級魔法と呼ばれる氷や雷まで同時に発動して今にも放たれようとしていた。


「流石は魔導を極めたと呼ばれる大魔導師ね。上級魔法の同時発動なんて化け物としか言えないわ。でも、私だって時の理を悟る時の大賢者と呼ばれる者だ!」


 最初に魔法を防いでから勇者を援護せずに詠唱をしていた大賢者が魔法を発動する。


「なにっ!!」


 今まさに金属の手から魔法が放たれようとした瞬間にまるで凍りついたように金属の手の動きと魔法が止まる。


「クソッ!時の魔法か!時を止めやがったな!」


 大賢者は時の魔法で金属の手と魔法の時を止めていた。

 それこそ彼女が時の大賢者と呼ばれる由縁だ。

 時の魔法はユニークスキルなためいくら大魔導師と呼ばれる者だろうとどうしようもなかった。


「発動が長いのと、この場から動けなくなるのが欠点だけどね」


 大賢者はウインクする。

 時の魔法は長い詠唱をして足元に浮かぶ魔方陣の上で魔力を流している間に指定した生き物以外ならば魔法だろうが例外はなく時を止める。


「これで終わりだ!」


 勇者がマグマナス男爵に詰め寄り振りかぶる。

 時を止められていても魔法の発動を無かったことにされたわけでは無く、上級魔法を同時発動しているために他の魔法を発動することが出来なかった。

 

「クソッ!」


 咄嗟に手に持つ杖で迎え撃つ意味をなさず袈裟懸けに斬られる。


「グブッ………」


 マグマナス男爵は傷口を抑えながらヨロヨロと数歩下がり膝を着く。


れん!」


「レン!」


 マグマナス男爵が出てきた非常用の出口から黒髪の女と赤髪の男が勇者を呼びながら出てくる。

 勇者は二人を見て頷く。


「ミリさん結界をお願い出来るかしら?」


 大賢者は黒髪の女に声をかける。


「えっ?………あっ、はい!」


 ミリと呼ばれた黒髪の女は辺りの様子を見て慌てて金属の手を全て囲うように結界を張る。

 結界が出来ると大賢者は時を動かした。

 すると、止められていた魔法が放たれ結界に、ヒビを入れるだけで阻まれた。

 金属の手は既にマグマナス男爵が魔法を使っていないために砂のように崩れ落ちていた。


「ふぅー、しんどかったわ」


「お疲れ様です」


 木にもたれるように息を吐く大賢者にミリは水筒を渡す。



「終わったのか?」


 赤髪の男が勇者に近付き声をかける。


「ええ」


 勇者が頷くとマグマナス男爵はピクリと眉を動かし項垂れていた頭を上げる。


「貴様等二人まで来たのならはアイツもやられたのだな……………アイツはなかなか使える奴だったんだかな………残念だ」


 マグマナス男爵はそう言うとゆらりと立ち上がる。


「お前の敗けだ!大人しくしろ!」


 勇者が再び剣を構えて言う。


「ああ、私の敗けだよ。だがな、やらねばならないことが残っているのだよ」


 そう言うとマグマナス男爵は何かの薬を飲み火魔法で自分に火をつける。

 さらに研究所の非常用の出口に向かって大きな火の玉をいくつも放ち研究所を完全に破壊する。


「なぜ?」


 勇者が思わずといった感じに声をもらす。


「なぜ?だって、研究所の中にはいくつもの薬の資料もあったからね、私が研究した成果をただでくれてやりたくなかったのさ」


 マグマナス男爵はそう言うと灰になっていく自分の体を見る。


「うむ、まったく熱も痛みも感じない。痛覚遮断薬は完成だな。まったく、心残りは今の研究を完成させられないことだ……………な…………」


 最後にそう言ってマグマナス男爵は灰になり風に運ばれ消えていった。






 大昔に大魔導師が作ったら研究所とはまったく別の場所でトワ達はそれと出会った。




「人の研究所に無断で立ち入るとは不粋だね」


 ローブを纏った骸骨が言う。


「何者だ!」


 後ろから声をかけられたトワは咄嗟にクリュエル達を押し退けて骸骨の正面に出る。


「人の家に来たら自分から名乗るものだろう?まったく躾がなってないね。まあ良いでしょう。私の名 はローゼン=マグマナスと言います」


 骸骨が優雅に挨拶をして頭を下げる。


「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」ローゼン=マグマナス!?まさか、大魔導師の男爵!?」


 クリュエル達だけでなくアイリとリーネも驚きで声を上げて、クリュエルがさらに言葉を続けた。


「大魔導師?男爵?」


 トワが頭を捻るといつの間にか隣に陣どっていたアイリが答える。


「とても有名な絵本です。勇者と悪の大魔導師が戦うお話です。それに出てくる大魔導師がローゼン=マグマナス男爵と言うのです」


 アイリの説明に驚く。


「その呼び名は懐かしいですね。確かにそんな頃もありましたね。男爵で大魔導師、その後はリッチと呼ばれていました。しかし、今の私は魔人ローゼン=マグマナスです。以後お見知りおきを。さて、私は名乗ったのですからそちらも」


 魔人はそう言うとトワを指差す。


「………俺はトワだ」


 トワは警戒をしながら答える。


「トワ……いい名前ですね。他の人は・・・・まあ良いでしょう」


 魔人は見回して頷く。


「さて、どうやら殺り合う気のようですから外に出て頂けますか?研究室が壊れたら大変ですから」


 魔人はそう言うと部屋から出ていった。



 




 


 





 

 




 

 





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