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伯爵の騎士?

 だいぶ遅れてすみませんでした。






 家にいても花粉が辛い。

 

「……おはよう」


 悩み続けて一睡も出来なかったクリュエルが一階の食堂に降りて寝不足で疲れた顔をして他のパーティーメンバーに挨拶をして椅子に座る。


「おはよー」


 チッキャがクリュエルの様子を見てニヤァと意味ありげな顔をして隣に座ったクリュエルに耳声をかける。


「寝かせてもらえなかったのかなー?」


 チッキャが嬉しそうに言うとクリュエルは明後日の方を見て乾いた笑いをする。


「・・・ハハハハハ………」


 チッキャはクリュエルの態度で察してタメ息をつく。


「行けなかったんだね」


 チッキャは相手が迷惑じゃないかと考えるとどつぼにはまっていくクリュエルの性格を知っているので行かなかったではなく行けなかったと言った。

 クリュエルはチッキャの質問に小さく頷く。


「……うん・・・」


 クリュエルが認めると他のメンバーからもタメ息が漏れる。


「えっ?な、な、な、」


 他のメンバーがクリュエルとチッキャの会話を理解していることに狼狽える。


「まったく、あんたを見てればすぐにわかるって!」


 他のメンバーがうんうんと頷く。


「戦いになると度胸があるくせにこういうのには弱いんだから。そういうところは出会った頃から変わらないね」


 チッキャが呆れた感じで説教を始める。


「いいクリュエル!?トワは強いしお金も持ってる!しかも、それでいて優しくて貴族並に礼儀もしっかりとして、そのうえコネもある!そんな優良物件は倍率が高いの!今はまだトワ自身が外にあんまり出てないから大丈夫だけど、すぐにライバルがドンドン出てくるの!今のうちに既成事実の1つや2つぐらい作っとかなきゃ!だ・め・な・の!」


 熱弁するチッキャに他のメンバーもウンウンとずっと頷いていた。

 クリュエルもチッキャの言葉を聞いて今更ながらトワの凄さを再確認する。


「・・・トワって凄いよね」


「「「「はぁ~、」」」」」


 クリュエルのなんとも言えない危機感の無さに5人のタメ息が重なり項垂れる。

 クリュエルは周りの反応の意味がわからず首を傾げて見回すとトワが居ないことに気が付いた。


「そう言えばトワ達は?」


 チッキャはこれ以上何を言ってもしょうがないと諦めて大きくタメ息をついて今日は諦めることにする。


「は~、・・・・・まだ、降りてきてないよ」


「まだ、寝てるのかな?起こしに行ってくる」


 その言葉にチッキャは、何でそういう時は積極的なんだと、また大きくタメ息をつく。

 クリュエルが立ち上がるとトワ達が階段を降りてくる。


「・・・おはよう……」


「おはようございます!」


「おはよ~!」


 疲れきったトワと満足げに艶のある肌をして元気に挨拶をするアイリとリーネを見て、クリュエル以外がクリュエルの事をチラリと見てタメ息をつく。

 勿論、トワは結界魔法で外に音も振動も漏れないようにしていたがチッキャ達は昨晩何があったかすぐに気付いた。


「トワ!どうした!?」


 わかっていないクリュエルがトワに聞く。


「い、いや、何もないよ・・・・く、クリュエルこそどうした?」


 トワが目線をそらせながらクリュエルの目元に隈があることに気付いたために、自分から話をそらすために話を振る。


「い、いや、何もないよ・・・・」


「「・・・・・あはははは・・・」」


 クリュエルも目線をそらせて、二人に一瞬の沈黙の後に乾いた笑いをする。

 

 暫く今日の予定を話しながら食事をしていると店の扉が開き、いかにもというような甲冑姿の騎士が3人入ってくる。

 3人の風貌は右側に立つものは20代前後の女で、左側はトワと変わらないくらいに若い男で、中央の1人は2人の一歩後ろにいて下がっている筈なのに体格が2人より二回り以上に大きく見えその体格から男だと判断できるくらいしかトワ達にはわからなかった。


「この中にトワと言う者がいるか!」


 3人の中でも若い男が一歩前に出て呼び掛ける。

 その声に騒がしかった店の中が静まり返る。


「トワは俺ですが?」


 トワは面倒だと思ったが店に迷惑をかけたく無くて仕方なく手を上げる。


「貴様か、この町の領主であるセルスイム伯爵様が御呼びだ!ついてこい!」


 高圧的に命令する男を見もせずに食事を再開する。

 

「おい!貴様!」


 トワの態度に若い騎士は苛立ち剣に手をかける。


「やめろ!」


 女騎士が若い騎士の腕を掴み止める。


「し、しかし!・・・・・っ!わかりました」


 若い騎士は女騎士に睨まれて剣から手を離す。


「こちらの無礼な態度で不快な思いをさせた。すまない」


 女騎士の態度に少しはまともかなと思いトワは顔を向ける。


「伯爵様に会っていただける事など滅多に無いことだ。さあ、共に屋敷まで来てくれ」


 トワはタメ息をついて若い騎士と女騎士を順に指差す。


「論外!残念!」


「「え?」」


 2人は意味がわからず首を傾ける。


「だから」


 トワが仕方なく説明してやろうと思った時にもう1人の騎士が前に出てきてトワの言葉を遮った。


「私が話そう」


 前に出てきた騎士に対して二人は『団長』と驚きと悔しさを合わせたような声を上げる。


「あんたは?」


 トワは面倒臭さから投げやりに声をかける。


「きさまー!」


 若い騎士はトワの態度に苛立ちを露にして声を荒げる。


「やめろ・・・さがれ」


 団長と呼ばれた騎士に制止されると何かを言いたそうにするが、何も言えずに悔しそうな表情をして俯いてその男の後ろに下がる。


「まずは、私の部下の無礼な物言いでトワ殿に不快な思いをさせたことを詫びさせて頂きたい。申し訳ありません」


 団長は被っているヘルムをとりトワに向かってしっかりと腰を折り頭を下げて謝罪する。

 トワは騎士が頭を下げて謝罪したのにも驚いたがそれよりも顔が予想外で驚いた。


(歴戦の戦士って感じの雰囲気があったからてっきりクラインとかみたいにゴツイのが出てくると思ったらイケメンだ!)


「「団長!」」

 

「・・・・・」


 騎士二人が驚いたように声を上げるが、団長が目で制する。


「申し遅れた。私はセルスイム伯爵家で騎士団団長をしているドライドラと言います。本当に申し訳ありませんでした」


 領主をしている貴族にはそれぞれに自衛のため騎士団を作る事が認められている。

 それ以外の貴族には認められておらず、その為そういう貴族は冒険者を雇っている。


 ドライドラが顔を出した時から店内は まさか や本物かと言う声がしていて、その騎士が名乗った瞬間からさらにざわめきが大きくなった。


(なんか凄い有名人が来たみたいだな)


 トワは周りの反応に驚いたが平静を装おう。


「お前達2人は礼儀がなっていない!特にハリスは騎士と言う前に人としてもう少し相手を敬うことを覚えろ!キーラはなぜ上から目線で喋る!此方は頼んでいるのだ!そこを忘れるな!」


 ドライドラは後ろにいる騎士二人を怒鳴り付ける。


「本当に申し訳ありません。この二人が任せてくれと言うので任せたのですが・・・私の判断ミスでした」


「はぁ、どうでもいいです」


「その通りですね。申し訳ありませんが、仕事なので最後に私からも言わせて頂きたい。屋敷まで来ていたたけないでしょうか?それ相応のもてなしをいたします。それに、この度の御詫びもさせていただきたい」


 ドライドラが深々と頭を下げる。


「ありがたいことですが、予定がありますので辞退させていただきます。それに、この件は貴方の謝罪で手打ちにしましょう」


 ドライドラの態度に今回はトワは丁寧に断る。


「そうか、今回の件は本当に申し訳ありませんでした。では、失礼いします」


 そう言って一礼して何か言っている二人を連れて出ていった。


「いいのか?」


 クリュエル達が心配そうに聞いてくる。


「いいんじゃないか?納得して帰ったんだし、それに面倒臭さいから」


 トワがいつもの調子でのほほんと応える。


「いいのかなー?断った方が面倒が起きそうだけどなー?」


 それから食事を終えて次の町までに一度夜営をするため必要な食料等を手分けして買いに行き、昼過ぎに町を出ようと馬車に乗り門へと向かう。

 

「ん?なんだあれ?」


 外を見ていたトワが町の出口の前に鎧を身に付けた者達がいる。


「イヤな予感がします」


 御者をしているマーチェルがトワの声に苦笑いを浮かべて返す。

 そのまま進んでいくと先頭にいる二人の内一人は今朝会った騎士団団長のドライドラだ。

 今回は既にヘルムを脱ぎ顔を出しているために少し遠くからでもわかった。

 もう一人は一般人と違い綺麗な格好をしているスラッとしたモデルの様な体型の男だ。


(ドライドラと・・・まあ、予想はつくがな)


「どうします?」


 トワがドライドラの隣の男の事を考えているとマーチェルがトワに聞いてくる。

 マーチェルとしては目的がトワだとわかっているが、一応違った場合の事も考えて馬車を脇に寄せた方がいいのではと考える。


「良いよ真っ直ぐ行こう。違ったら退いてくれるだろうし、もし俺が目的なら何かアクションを起こしてくるだろ。その時は俺が降りていって話をつけるから皆には迷惑はかけないよ」


 トワに言われたままマーチェルが馬車を進めていくとドライドラが馬車の前に出てくる。

 馬車の速度は町中なので人が歩く速度と変わらないのでドライドラを轢く事はなく彼の数メートル手前で問題なく止まった。


「トワ殿の乗る馬車とお見受けします。先程の御詫びと挨拶をさせていただきたいと、こちらにいるこの町を治めるセルスイム伯爵家当主ファミル=セルスイム伯爵様が仰せでございます。少しの時間を頂けないでしょうか?」


 ドライドラが頭を下げながら隣で並んでいた男を紹介した。

 


(やっぱり伯爵か)


「トワ様どうします?」


 いつの間にか全員が馬車の前方にある御者台の側まで寄ってきていて、アイリがトワに聞く。


「皆は中にいて」


 そう言ってトワの直ぐ側にいるアイリとリーネを撫でて御者台から飛び降りる。


「早く出発したいから短めにね」


「時間を頂きありがとうございます」


 トワが言うとドライドラは感謝を述べて頭を下げる。

 すると伯爵が前に出てくる。

 住民や他の冒険者はいきなり現れた領主や騎士に驚いて遠巻きに見ているが誰一人近付く者はいなかった。


「すまない。用件だけ言おう。我が家に仕えてもらえないだろうか?」


 伯爵が右手を胸に当てて軽く頭を下げる。


「いえ、どこにも仕える気はありませんので」


「もちろん給金は言い値で払う。それに、気に入りそうな女性をいくらでも用意する。それでもか?」


 トワの断りに伯爵は少し食い気味に条件を出してもう一度聞き返す。

 伯爵が女性を用意すると言った瞬間に馬車から殺気を感じた。

 トワは後ろを振り向かずアイリとリーネの殺気が外に漏れないように結界を張る。

 殺気が騎士が感じた場合、トワ達だけならば全員がSランク以上なので、もし貴族を殺してもどうにでもなるが、クリュエル達に矛先が向いた場合厄介になるので馬車と外を完全に隔離した。


「残念ですが、縁が無かったと言うことで」


 トワが会釈をしながらやんわりと断ると、伯爵はトワが後ろの馬車を気にしたことに気付いていた。


「そう言えば、君はペットを2匹飼っているのだったな。動物が好きならそんな中古のペットは処分して新品を2匹とは言わず何匹でも用意するぞ。処分が面倒ならこちらでやっておこう」


 伯爵はもちろん悪気があって言ったのではなく本心からそう言っていた。

 伯爵は町の者や部下にも慕われていて素晴らしい領主だが、奴隷に対しても寛容だがその優しさも人間に対してのみだ。彼は人間至上主義で他種族を下に見ていて、特に獣人はただの動物としか思っていなかった。


 トワの事を迎える為に調べて、トワが自分の奴隷に暴言を吐くことも許さないことは知っていたが、それは屋敷にいる人間の奴隷のことだと勝手に解釈をしていた。

 何故ならば伯爵からすれば獣人はただのペットと言う考えだったからだ。


 その為に伯爵はトワの逆鱗に簡単に触れてしまった。

 伯爵がその言葉を言った瞬間にドライドラは驚いた顔で伯爵を見ると、目の前の少年から凄まじい殺気が溢れ出すのを感じた。


「・・・そうか・・・・」


 トワが殺気を撒き散らしながら伯爵を睨むと伯爵はガタガタと震え出して失禁して気を失い地面に倒れる。

 離れた位置で待機している騎士達も気を失う者が殆どで、中には自分の体を抱き締め踞っている者もいる。

 その光景を遠巻きに目にした町の住民や冒険者から悲鳴が上がる。


 トワが伯爵に一歩近付くと伯爵の隣で片膝をついて踞っているドライドラから声が上がる。


「待って頂けないでしょうか!」


 トワは側にいるのに気を失っていないことに驚くが表情を変えずにドライドラを見る。

 ドライドラはゆっくりと立ち上がりヨロヨロと伯爵の前に立つ。

 その足には短剣が突き刺さっており、トワの殺気に耐えるために足に刺して抉ったらしく血が流れている。


「待って下さい。どうか伯爵様の命だけは。私の命ではその怒りが修まらないのは重々承知しております。ですが!今回だけはどうか私の命で!」


 ドライドラはその場で地面に膝を付いて額を地面に擦り懇願する。


「何故あんたがそこまでする?」


 トワはいくらなんでも愛している者でもない他人の為に変わりに死のうなんて考えがわからなかった。


「今回、トワ殿の情報を調べさせ伝えたのは私なのです!伯爵が理解をされていなかったのは私の不足のいたすところです。その為にこの度のことは私の責任ですどうか伯爵は!」


 頭を下げたままのドライドラを見下ろしながらドライドラが伯爵が言った瞬間に驚いていたことをトワは気付いていた。


「それは違うな。あんたは正しく伝えていたのだろう、それを自分の考えに当てはめて勝手に解釈をしたのはこのバカだろ?」


「そうだとしても!このお方はこの町に必要なのです!・・・これは完全なる此方の落ち度です。伯爵様を殺されても此方はトワ殿に何も言う権利はありません。それでも、」


 ドライドラは立ち上がり剣をトワに向けて構える。


「それでも私はセルスイム伯爵家の騎士なのです!ただ黙って伯爵様が殺されるところを見ているわけにはいかないのです!」


 ドライドラの強い意思の籠った目を見る。


「何故そこまでする」


「この町は少し昔まで暴力と悲鳴しか無い町でした。それをこの方が変えてくれた!この町に住む者として私はこの方に忠義を誓い騎士となった。この方がこの町をさらに豊かに笑顔の絶えない町にしてくれるから!私は・・・・」


 ドライドラは震える体に力を込める。


「ここでトワ殿に刃を向けるのは人として間違っていると思います。しかし、私は伯爵様の盾だから!騎士だから!」


 トワとしては元々殺す気は無かった。

 少し脅かそうとしたら随分と大事になってしまってどうしようかと考えていた。

 その為にドライドラの働きが素晴らしくここがいい落とし場所だと感じた。


「2度目だな」


 トワが低い声でドライドラに向かって言う。


「………はい」


「次は無いぞ!」


 そう言ってトワはドライドラに背を向けて馬車へと歩き出す。


「………えっ?」


 確実に死ぬと思っていた為に、トワの行動にドライドラは驚きが隠せない。


「10分だ!それまでに道を開けろ!それでも退かないのならば覚悟しろ!」


 トワは振り向かずそう告げる


「・・・・あ、ありがとうございます」


 トワから殺気が消えたことで意味がわかり、ドライドラは深々と頭を下げて、どうにか動ける騎士や近くにいる冒険者達に声をかけて気絶した者達を道から避けていく。


(やり過ぎたー!もうこの町に来れないな。御座敷遊び残念だ)


 伯爵とドライドラ達が無事だったのは、トワが多少の力の制御を覚えていたことと、結界のお陰でアイリとリーネに直接伯爵の発言が聞こえてないために、アイリとリーネに実質何の被害も無かったことがトワを少し冷静でいさせた為だ。


 トワが馬車に戻り結界を切って荷台の中に入るとアイリとリーネが何があったか聞いてきた。


「何もないよー」


 そう言ってトワは二人を抱き締めた。


「・・・・・あれで何もないって・・・ねぇ」


 クリュエル達が御者台の方で顔を引きっていた。

 クリュエル達も結界で何も聞こえなかったが目の前の光景を見て何もないと言えて、それで納得する3人にタメ息をつく。



 10分もしない内に道が空いた事をドライドラが告げに来て、出るときのチェックもいらないと言うので馬車を走らせて門を出る。

 その際いにドライドラから再びお詫びを言われ頭を下げられて、それに見送られる形で町を出る。


「もうあの町は行けないな」


 門を出てトワが呟く。


「私等は関係無いよね?」


 クリュエルの質問にトワは後ろを向いて遠い目で町を見る。


「「「「「ちょっと!・・・えっ?うそーーーーー!?」」」」」


 クリュエル達の声が森に響いた。


 




 次はドラゴン戦です!

 ・・・・・多分…………


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