クリュエル?
寒い毎日寒い!
暖房器具の無い部屋で指が震えてしょうがない!
今回はトワ達の話では無いです。
冒険者ギルドでの明日からの討伐の予定を話し合いが終わり、それぞれ明日の用意をするために宿に戻った後パーティーメンバーと別れた赤い髪をした女性が自分の武器を見ながら必要な物の確認をしていた。
「服の変えはどうしようかな?いつもは要らないけどアイツがいるし・・・下着の代えは必要だよな・・・明日の服は薄い方がいいかな?・・・ウフフ」
彼女を知っている人が見れば驚きで声を失ってしまうような、まるでデート前の乙女のような光景が広がる。
だが普通の乙女と違うのは彼女が服の後に見ている物だ。
「明日はフル装備でいいよね・・・武器はこれ!」
深紅の革製の胸当てや手甲など防具一式を揃えて
愛用の武器を手に取る。
「・・・・ん~、やっぱり研いでもらったほうが良いよな」
そう言って武器を持ち走って部屋を出ていった。
彼女は街の大通りから裏に入り更に裏通りの裏に行き娼婦や汚れた子供たちがいる所謂スラムへと足を踏み入れる。
目付きの悪い男達が彼女を見るが手を出さないだけではなく声もかけない。
別に彼女が手を出さないほど醜い訳ではなく、彼女が街を歩けばその美しさに振り向く者がいるくらいだが、男達は彼女との力量差を以前に嫌ってほど知ったので手を出すものはいなかった。
一般人ならば恐怖で踏みいることすらしないスラムを普通に街中歩くように進んでいき一軒の建物に入る。
「ログファイルドさん、いるかい!?」
中はお店のようになっていて彼女はカウンターの奥に声をかける。
「んん?誰じゃい!?んん?クリュエルか、なんのようじゃ?」
奥から身長140程の筋骨隆々のこれでもかと言うくらい髭を蓄えた男が出てくる。
「こいつのメンテを今日中に頼みたいんだ」
クリュエルは背中に背負っている愛用の武器を渡す。
「今日中にか?ん~、研ぎ直して、歪みをみて、接続部の確認と・・・・ん~、厳しいか・・・」
武器を手にログファイルドはブツブツ言う。
「は~、やっぱりあんたじゃ無理かい?」
クリュエルが諦めた感じで言うと一人で思考に入っていたログファイルドは指差して睨み付ける。
「なめんなよ小娘が!ワシを誰だと思っている!ドワーフの中でも五本の指に入るログファイルドだ!そのワシに不可能は無いわ!今日中だなわかった。お前さんはどうする?後で取りに来るか?」
クリュエルはログファイルドのことをよく知っているためにわざと煽った。
豹変したログファイルドにクリュエルはいつもの調子で普通に言う。
「待たせてもらうよ」
「そうか、なら家に上がっていけ、終わったら呼ぶからゆっくりしていけ」
「ああ、頼んだよ」
そう言ってログファイルドは奥の工房に入りクリュエルは工房とは違う扉から居間へと上がる。
すると女の子の声が聞こえる。
「ああ~!クリュエルおねーちゃんだー!」
七歳くらいの小さい女の子が居間の奥から現れる。
「こんにちはロニーニャ」
現れたのはログファイルドの娘のロニーニャだ。
この子はドワーフだが髭があるわけでも筋骨隆々なわけでもなく普通に可愛らしい小さな女の子だ。
ドワーフの女性は力は強いが見た目は小さい普通の女性なのだ。
「こんにちはー!どうしたの?」
「ロニーニャのパパにお仕事を頼んだから終わるまで待たせてね」
「うん!お茶いる?」
「おねがいしようかな?できる?」
「わかった!待ってて!」
しばらくするとロニーニャがお茶とせんべいのようなお菓子を持って戻ってくる。
「はい!これも食べて!」
「いいのかい?」
ロニーニャは元気に頷く。
「うん!パパに聞いたらクリュエルのおねーちゃんがいるから遊びにいっていいって言ったから、わたし遊びに行ってくるからゆっくりしててね」
「ああ、行ってらっしゃい」
工房に入ると家の方がわからないログファイルドは空き巣が入らないようにロニーニャに留守番をさせていた。
子供だがロニーニャはドワーフなのでスラムでうだつの上がらない大人よりも力は強かった。
母親は冒険者ギルドで働いており昼間はロニーニャしか家におらず申し訳無いと思っているが嫌な顔一つしないロニーニャに仕方なく任せていた。
親のために文句を言わずにいるために留守番が多く外でなかなか遊ぶ機会が無いロニーニャは嬉しそうに手を振って出ていく。
「・・・可愛い子だな」
クリュエルは手を振り返してロニーニャが出ていった後で呟く。
何もすることがないクリュエルは、しばらくするといつの間にか寝てしまっていた。
「はー、少し休憩だー!ん?」
「スースー」
汗だくなログファイルドが部屋に入ってきたがクリュエルが起きる気配はない。
「珍しいなこいつがこんな無警戒に寝ているなんて、余程疲れてたんだな」
ログファイルドは寝ているクリュエルに布団をかけてお茶を一杯飲んで作業に戻るために部屋を出ていった。
「さて、ゆっくりと仕上げるか」
ログファイルドの優しい呟きは誰も聞いていない。
クリュエルは昔のことを夢に見ていた。
クリュエルの両親は冒険者だった。
父親は王都で冒険者ギルドのマスターをしていて滅多に家には帰ってこず、いつもは母親と二人だった。
そんなクリュエルは年に数回しか顔を見せない父親が嫌いだった。
それでもクリュエルが真っ直ぐに育ったのは毎日側にいて悲しい思いをさせない母親の存在が大きかった。
クリュエルは近所の子供に父親に捨てられたとバカにされていた。
そんなこと言われても無視をしていたが、だんだんとエスカレートしていきクリュエル自身のことだけではなく大好きな母親のことまでバカにされて、更に石や泥を投げてくる奴等が出てきた。
クリュエルが両親けら受け継いでいた力は強くそんな奴等をねじ伏せていたが、ある時相手の父親が子供が怪我をしたと家に怒鳴り込んできた。
母親は理由を聞いてクリュエルは断固として非がないと相手の親とやりあっていた。
そんな後ろ姿を見て自分を信じてくれる優しさと守ってくれる強さがにますます母親が好きになった。
クリュエルは10歳になり母親はクリュエルが自分一人で生きぬけるように冒険者に登録させて戦いかたを教えていた。
この世界では余程裕福な家庭でない限り子供を危険でも実力があれば冒険者にすることは当たり前だった。
それからしばらくしてクリュエルも13歳になったころにクリュエルの母親が倒れた。
クリュエルの母親は冒険者で世界中を廻っていた頃に【魔境の森】の調査をしていた時に普通は居ない筈の魔人に運悪く出くわして、パーティーメンバーを殺され自分も殺されると思いったが魔人は彼女を殺さずにニヤリと笑い
『人の絶望に歪む姿は美しい!絶望を抱いて最後の時まで死ぬが良い!【ソウルディクライン(衰退する魂)】!』
彼女の体を黒いモヤに包まれる。
『うぐっ!』
『貴様に呪いをかけた!その呪いは貴様の力を命を少しずつ奪っていく!己の命が減っていくさまを感じながら恐怖に顔を歪めて死ぬが良い!貴様の恐怖で我を楽しませろ!』
そう言って魔人は消えていった。
その後、魔人と入れ替わるようにクライン達が現れ助けられたが、仲間を目の前で失い自分にも呪いをかけられた彼女は心の無いただの人形のようだった。
そんな彼女に付き添い慰め励ましていつしか心を取り戻した彼女とクラインは引かれあい結婚したのはまた別の話し。
母親である彼女は娘に呪いのことは一切話さなかったが、クリュエルは訓練で自分が多少は強くなっていても元Bランクの冒険者である母親に追い付きそうなことに疑問があった。
「ママ!」
ベッドに横たわる母親の手を両手で握り声をかける。
「クリュエル、ごめんね」
母親は目を開けてクリュエルを見て微笑みながら笑顔で力無く答える。
「やっぱりママは病気だったの!?今、教会に一番腕の良い人を頼んだからすぐに回復魔法の人が来るから」
クリュエルは笑顔で大粒の涙を流していた。
そんなクリュエルに母親は静かに首を振る。
「回復魔法じゃ治らないの」
彼女は自分の命が今までに無い速度で減っていくのを感じていた。
「そんなこと無い、凄い人が今教会にいるんだって!どんな病気も治せるすごい人が!」
「病気ではないの、だから回復魔法は効かないの」
「そんなこと無い!絶対に良くなるよ!」
「クリュエル」
「大丈夫だよ!」
「クリュエル」
「ママは強いんだもん大丈夫だよ!」
「クリュエル!聞いて」
泣きながら母親の話しを聞こうとしないクリュエルに無理をして少し大きな声をあげる。
「これはね、病気じゃなくて・・・呪いなのよ」
「・・・呪い・・・」
「そう、呪い。だんだんと命が減っていく呪いなの。だから、回復魔法は効かないのよ」
「・・・・・・・そんな・・」
クリュエルが項垂れていると扉をノックする音がする。
母親の側から立ち上がり扉を開けると修道服をきた女性がたっていた。
教会から来た回復魔法の魔法使いだ。
クリュエルは一縷の望みをかけてその魔法使いに母親を見てもらったが、少し触診等をして母親と話しをすると首を横に振る。
「申し訳ありません。私では、いえ、呪いを解くにはかけた者に解かせるかその者を殺すしかありません。お力になれず申し訳ありません」
魔法使いは悲しいような悔しいようななんともいえない顔で頭を下げる。
クリュエルは魔法使いのその言葉に糸の切れた人形のように力無くへたりこむ。
「いえ、良いのです。頭を上げてください。わかっていたことですから。こんなところまでありがとうございました」
クリュエルの母親は頭を下げる魔法使いに優しく声をかける。
「本当に申し訳ありませんでした」
家を出る時に頭を下げる魔法使いに笑顔で見送ってクリュエルに声をかける。
「クリュエル、私はね、本当は貴女が好きな人ができて、その人を連れてきたり、好きな人と結婚したり、貴女の子供、私の孫を見たかったわ、でもね、先の夢は叶わなかったけど凄く幸せだったのよ」
クリュエルは泣きながら這いずるように母親の側に行く。
「・・・・ママ」
そんなクリュエルに優しく微笑みかけて話しを続けた。
「貴女が産まれて、貴女の成長が見れて、私みたいな親から貴女見たいな優しい娘が産まれたのが誇らしくて嬉しいの。貴女ならこの先の大変なことがあっても、その優しさと強さで元気で生きてくれることを願っているわ。絶対に諦めないでね。諦めなければピンチの時には貴女の王子様が助けに来てくれるわ」
クリュエルの頬に笑顔でそっと手で触れる。
「貴女は可愛らしいのだから男に妥協しちゃダメよ。この人って人が現れたら気合を入れなさい。振り向かなければ、努力を怠らないで頑張って振り向かせなさい。その人の周りに他の女がいたら奪いなさい!それぐらい恋も気合を入れれば私のように幸せになるわ」
クリュエルに視線を合わせてニコリと笑う。
「貴女はパパが嫌いみたいだけどあの人は優しいけど不器用な人だから勘違いされやすいけど、決して私達を嫌いなわけではないのよ。あの人なりのやり方で私達のために影で隠れて色々と動いているのよ。貴女も本当はわかっていたでしょ?パパが優しいのは。だから、ママから最後におねがいね」
「ママ!最後なんて言わないで」
「すぐにとは言わないわ。パパと仲良くしてね。ママが愛した二人がいつまでも仲が悪いのはイヤよ。パパを本当に嫌いにならないでね」
その時、家の扉が壊れるぐらいに開けられた。
そこには依頼に出ていたハズの父親のクラインが立っていた。
「・・シェ・・・シェエル!」
「ああ、あなた。最後にあなたに会えて良かった。神様に感謝しなくちゃね」
満面の笑みをクラインに向ける。
「もういい、喋るな!体に障る!すぐに魔法使いを呼ぶから!」
クラインはフラフラとベッドに近付いていく。
クラインのそんな言葉にシェエルは首を振る。
「もう私の中には・・・あなた、クリュエルを娘をおねが..い...ね……………」
最後にそう言うとクリュエルの頬を撫でていた手が重力に負けて力無く落ちる。
そして、クラインの妻にしてクリュエルの母親シェエルは幸せそうな笑顔を浮かべて命の炎を消した。
また、誤字脱字やおかしな点が多いかもしれません。
ごめんなさい。
次回もクリュエルの過去編です。
えっと、トワ達が貴族からクリュエル達を助けてその後でテントの中で何があったかや、貴族の死体がどこにいったかを書く予定です。