(脱線)絶望の始まり?
まだシュナードの話が続いてます。
・・・なんか、ごめんなさい。
ナイゼル達が執務室を出てギルドのメインホールに出ると酒場で飲んでいた冒険者達が真剣な顔で急ぎ装備を準備して終わった者から外へ走り出していた。
侵攻が良くある都市のために戦えない住人は慌てず、なれたように邪魔にならないために家の中へと避難をしていた。
ナイゼル達は脇目もふらず未だに鳴り続いている海側の壁へと走る。
壁へと着くと上へと上がる階段が混雑していてその上り口では、魔方陣のようなものが書かれた壁に数人が手をついてその後ろに行列ができている。
「魔法を使わない人はここで魔力を入れていってください!!」
行列の横で数人の兵士が叫んでいた。
この世界では魔力を使いきっても少し疲れるがそれほど動くのには影響がない。
この魔方陣には一定量の魔力を貯める効果があり、魔方陣から魔玉石へと回路を繋いであり結界の維持に必要な魔力を必要に応じて随時魔玉石へ自動で送られている。
そのために魔法を使えなく弓で戦う者達の無駄になる魔力を集めて使う装置である。
ナイゼル達はそんな列も混雑している階段も無視して、ナイゼルの風魔法を仲間に纏わせて一気に壁の上までジャンプした。
「「「「「「っ!」」」」」」
外を見たナイゼル達は言葉を失う。
そこには敵の先頭がナイゼル達の攻撃がギリギリ届かない位置で止まり頭を海から出して、その後ろに水平線を埋め尽くさんばかりに敵が集まっていた。
「おいおいおい!何が5万だ!10万はいるじゃねーか!それに何匹もキングがいる!しかも、なんだありゃ?色違いのデカイのまでいやがる!」
ロランドが正面を見据えながら叫ぶ。
サハギンキングは普通のサハギンと色は同じ青色で、大きさは普通のサハギンが1メートルぐらいに比べて、サハギンキングは2メートル程とデカイ。
ロランドが見つけたのは色が茶色く大きさも3ートル以上と他のサハギンキングよりも遠目で見ても大きかった。
「それだけではござらん!中腹ら辺にいるのはレイネスではござらんか!?」
ドルマクが目を細めて遠くを見ながら言う。
「そうね!それに群れの外縁の両脇で動いているのはサーペントじゃないかしら!?」
サクリスが生唾を飲みながら手に持つ165㎝ある身長程の長さの杖を両手で握り締めながら言う。
「やっぱりいつもとは違ったんだ!!」
ナイゼルは敵の群れを睨み付けながら叫んだ。
通常この都市に来る侵攻はサハギン1万程の群れを1匹のサハギンキングが率いているのが当たり前だった。
そのため敵の群れを見た者達は皆その数と高ランクの魔獣までいることに驚き動きを止めていた。
ナイゼルは頭を振って集中して周りを見ると冒険者や兵士だけではなく、自分のパーティーメンバーまで動きを止めていることに気が付き、歯を食い縛り背中に背負うバスターソードを抜き空に掲げて全員に声をかける。
「今回の戦いは今までに無い程の苛烈な戦いになるだろう!この光景を見て今すぐに逃げたい衝動にかられたものは少なくないだろう。俺はその事はせめる気はない!しかし!我等が倒れれば退けばこの都市は滅ぶことになるだろう!この都市に信頼できる友!愛する家族!そんなもの達を救うために俺に力を貸してくれ!」
ナイゼルが少し高くなった場所に乗り声を張り上げ頭を下げると、全員の耳に澄みきった心地よい声が響く。
ナイゼルの声を聞いて皆震え出してから声を上げる。
「「「「「「「「「「「「「やってやるぜーー!!」」」」」」」」」」」」」」」
ナイゼルがその声を聞き頭を上げる。
「勇敢な皆と戦えること嬉しく思う!ありがとう!この戦いが終わったら皆で酒を飲み交わそう!!」
「「「「「「「「「「「「「うおぉぉぉーー!!」」」」」」」」」」」」」
再びナイゼルの声で先程より歓声が大きくなり地響きのようになる。
「フハハハハ!流石は俺等のリーダーだぜ!」
ロランドが嬉しそうに笑う。
ロランドの左右の腕を抱き締めているサミンとオリンはロランドを見上げて嬉しそうなロランドを見て笑っていた。
「人を惹き付ける力は上級貴族の血かしらね?」
サクリスは優しい笑みをナイゼルに向けている。
「さようでござるな」
ドルマクがサクリスの言葉に腕を組みウンウンと頷いていた。
「グギャグガガギャーーー!」
全員の緊張がとけて士気が上がると同時に茶色いサハギンキング亜種が笑みを浮かべて声を上げると侵攻が始まった。
サハギン達は海に潜り他よりも強度が弱い門へ攻撃に近付く。
「来るぞ!!結界の強度を上げろ!!」
「水面に顔を出したら撃てるように弓と魔法の準備をしろー!」
あちらこちらで怒号が飛ぶ。
「おい!最初から飛ばすのか?」
壁の縁まで歩いて手を前に出したらナイゼルにロランドが声をかける。
「ああ!先手をうつ!」
ナイゼルは振り返りメンバーに笑いかける。
「喰らえ【サンダーテンペスト】」
ナイゼルがカッと目を見開き手を上から下へ降り下ろすと竜巻が門から少し離れたところで起こり海が荒れ始める。
それと同時に十数本の雷が空から海に落ち、さらにその竜巻の中で雷が数本暴れ狂っている。
竜巻の直径は50メートル程の大きさで、雷の太さは電柱くらいで有効範囲は落下地点から10メートル程だ。
雷が海に落ちると水面に近くにいたものは感電死して、より落下地点に近いものは黒焦げになり浮いてくる。
落下地点から少し離れたものや深く潜っているものは、感電して体をピクピクさせながら浮かんでくる。
それらよりも遠い位置にいたものはピリッとくる静電気のような痛みと痺れに驚くくらいだった。
浮かんでくる死んでいない敵を他の者が弓と魔法で仕留めていく。
数が多く密集していたために千程どの敵を仕留めることができた。
開始早々に千もの数がやられたのにもかかわらずサハギンキング亜種は不適な笑みを崩さない。
「負けていられねーな!」
ロランドが背中に背負う二本の大剣の一つを抜く。
その剣は190あるロランドの身長より少し短いくらいの長さで、薄い緑色に輝く両刃の両手剣、いわゆるクレイモアだ。
ロランドは両手剣を右の片手で持ち体を左に捻り、その体制で剣に魔力を溜めていく。
「喰らえー!【ゲイルブレイド】」
ロランドが剣を振ると直線上に20メートル程の海が割れる。
ロランドの持つ剣はエルフ達のみが扱うことのできるミスリルで作られているために、魔力の電導率が良く溜めた魔力を強化して放つことができる。
ミスリルは特別な金属で加工するときに魔力を混ぜながら剣などに加工していく。
出来上がった武具は混ぜた魔力の持ち主にしか扱えない。
そのため一つ一つがオーダーメイドでありしかも、作る時には出来上がるまで付き合わなければならない。
ミスリル製武具は性能は良いが作るのが面倒な装備であった。
その剣を使い固めた魔力の刃を放った一撃で数十匹が斬り殺されその一帯をその血で染める。
さらに海が割れたときの衝撃と割れた部分が戻る時の衝撃によって多くのサハギン達が気絶し浮かび上がる。
そこを先程と同じように弓と魔法で仕留めていく。
ナイゼル達がいない頃は海の中から結界に攻撃をするサハギン達を魔力を供給し続け耐えて、先に痺れを切らしたサハギン達が海面に出てくるまでひたすら待っていた。
その頃に比べれば楽だなと周りの冒険者や兵士が考えながら休み休み弓を引いていた。
ナイゼルとロランドを中心として敵の数を減らしていく。
「ゴゲゲゲ!」
次々と死んでいく仲間の姿を見ても笑みを崩さずサハギンキング亜種は何か言葉を発しながら左手を軽く振る。
「ハア..ハア..」
「フゥー」
魔力の使いすぎで疲れはおきないが、しかしナイゼルのように周りを気にしながら戦えば気力体力が削られて疲れが出る。
ロランドの場合は技を使うのに大剣を振るっているため疲れが出始めた。
「あんた等いきなり飛ばしすぎ!まったく、はいこれ!」
サクリスが二人に上物の回復薬と魔力回復薬を渡す。
「ありがとう」
「おう!サンキュー!」
二人は受けとると一気に牛乳ビンくらいの大きさの二本の液体の薬を飲み干す。
「よーし、まだまだいくぜ!」
ロランドが気合いを入れると海から歌が聞こえる。
「ルルル~ラ~ルルル~」
その歌声が聞こえると倒れる者やうずくまる者がでる。
ナイゼル達も頭を抑える。
「これはまさか!」
ナイゼルが頭を振りながら海を見る。
「レイネスがいたんだから間違い無いでしょうね。呪曲よ!」
レイネスは魔法を使わない代わりに歌に魔力を乗せる呪曲と言う特殊スキルを使う。
《呪曲=歌に魔力を乗せることで眠りに誘ったりする効果を一曲に一つ付けることが出来る。歌を止めると効果は消え眠った者も目を覚ます。ただし、聞いた相手を殺す効果はつけられない》
「これの効果は・・・眠りか!」
ナイゼルが倒れた者を見て言う。
「そのようでござる。この呪曲を発しているのは・・・奴らでござる!」
ドルマクが海を見渡してサハギンから少し離れたところを指す。
そこには数匹のレイネスがいた。
「そこ!!」
レイネスの位置を確認したサミンがすかさず風の矢を放つが、
「ララララッラ~」
他のレイネスが違う歌を歌い出すと海の水がまるでドームのように水の幕がレイネス達を囲いサミンの攻撃を防ぐ。
「クソッ、やっぱり届かないか!」
もう少し近距離でならばサミンの攻撃は水の幕を破れたが距離がありすぎるために防がれてしまい悔しそうにレイネス達を睨み付ける。
レイネスは1体が相手ならCランクの冒険者でも呪曲で眠らないようにしていれば倒せるが、通常レイネスは3体でいて1体が
相手を眠らせて2体目が防御をしてそして3体目が相手に攻撃をする。
3体揃うと強力になりBランクの冒険者でも苦戦する。
それが、今回のように数がいるうえに距離が離れていることでAランクでも苦戦する条件が揃っている。
「ルラルラルラ~ラ~」
レイネスの歌でナイゼル達も膝をつく。
3つ目の歌でHPとMPがレイネスに吸収されていく。(トワのように最大値を奪うのではない)
「くそったれが!やってやるぜー!」
ロランドが呪曲でフラつく体で剣を構えて魔力を溜めていく。
「「「「ララララッラ~」」」」
レイネス達もロランドの攻撃に備えて数匹のレイネスが防御用の水の幕を張る。
ロランドはそんなことをお構いなしに剣を振る。
放たれた魔力の斬撃が1枚2枚と水の幕を切り裂いていくが最後の1枚で阻まれて止まってしまった。
「チッ!くそが!」
ロランドが舌打ちすると倒れた者達を介抱していたナイゼルがロランドの横に走り込んでくる。
「すまん待たせた!」
「いつものことだろ」
ロランドの言葉に苦笑いをする。
ナイゼルは倒れている人がいると放っておけないたちのためにそちらに行ってしまうことが多々ある。
これはナイゼルが仲間を信頼してロランド達ならどうにかすると心のどこかで思っているので弱いものを助けに行ってしまう。
ただし、仲間が危険な場合は切り捨てることもする。
「ここは俺がやる!」
ナイゼルが人差し指で空を指してから降り下ろすと一筋の雷が落ちる。
レイネス達の防御は水の幕なので電気を通すと思いきや、魔力でコーティングされていて雷を通さなかった。
しかし、ロランドの攻撃で脆くなっていたためナイゼルの雷が当たると水の幕は砕けてレイネス達に雷が当たる。
レイネス達が沈黙すると倒れていた者達が復活して、また敵を狩っていく。
ナイゼル達は他の所にいる数組のレイネス達を全て倒して回復薬を飲みながら中央に戻って行く。
「グギググギギ!?」
サハギンキング亜種はレイネス達が倒されたことに少し驚きを見せ顔から笑顔を消す。
「ギギギグギゴゴ!」
サハギンキング亜種が叫ぶと両端にいたサーペントが動き出す。
サハギン達を狙ったナイゼルの雷が近づいていたサーペントに直撃する。
「しまった!!」
ナイゼルが叫ぶ。
ナイゼルの雷が当たったサーペントは倒れることはなくナイゼルの雷の魔力を吸収する。
サーペントは特殊な皮膚をしており魔法を無効化してその魔力を吸収する。
「クソッ!あれは俺の技も吸収されちまう!」
ロランドが苦々しく言う。
「某が行くでござる!朱玉!蒼玉!」
「「キュルルル!」」
ドルマクはグリフォンに跨がり名前を呼ぶと2匹は一鳴きして空へと駆け上がって行く。
朱玉、蒼玉とはグリフォンの名前で目の色がそれぞれ朱と蒼のためにそう名付けられた。
そんな2匹と1人が結界を抜けて外に出る。
「喰らえ!【ナイフパーティー】・・・」
ドルマクは火と土の上位スキルである鉄魔法を使い無数の鉄のナイフを作り出していく。
「ショット!」
ドルマクの掛け声とともにグリフォンが風魔法を使いナイフを飛ばしていく。
サーペントは魔法に強いが物理攻撃には弱い。
そのため風や雷などのように魔法で生み出された現象は効かないが、土やドルマクの鉄魔法のように物体自体を生み出す攻撃は有効だ。
「ギギャギャー!」
グリフォンの風魔法で加速したドルマクの無数のナイフが避けるまもなくサーペントに突き刺さり呻きを上げて暴れ狂っている。
ドルマクはそんなサーペントに次々とナイフを刺していく。
サーペントが暴れながら反撃で口から水の玉を飛ばしたり、サハギンが手に持つ三ツ又の槍を投げてくるがドルマクが乗っていないグリフォンの朱玉が間に入り風の壁を作り防いでいる。
2匹いるサーペントをドルマクが順に危なげなく倒し門の方に戻って行くと門の正面に巨大な影か海から現れた。
「まっ!まさか!チャクムムルアインでござるか!?」
いつも読んで頂きありがとうございます。
1、2話ぐらいで終わらそうと思っていたシュナードの話がが長くなりすぎて本編が全然進みませんごめんなさい。
後1話だけお付き合いください。