再会?
遅くなってごめんなさい。
冒険者ギルドの扉が開くと全員の視線がそちらに集まる。
「なっ、なに!?」
扉からハイツて来た燃えるように赤い髪と赤い眼をした女性が驚きながらも怪訝そうな顔をしてオロオロしている。
その女性は他に5人の女性を引き連れていた。
その女性達は視線が怖いのか先頭の女性の後ろに隠れて様子をうかがっていた。
扉を一斉に見た男達の中で先頭にたってトワに絡んできたグループ以外の者達は入って来た女性達を見て、苦虫を潰した顔になり顔を背ける。
(ん?なんか見たような気もするが・・・誰だ?有名人かな?)
トワがそんなことを考えながら首を傾げていると、赤髪の女性後ろの数人がカウンターの方を指差しながら赤髪の女性に何か言うと、赤髪の女性がトワの方を見て目を見開き少し驚いた表情をして後ろの人達と話しをして女性6人がトワの方へ歩いていく。
「久しぶり!と言っても言葉を交わすのははじめてだよね?」
赤髪の女性が片手を上げながらトワに話しをかける。
「えっと・・・・・お久しぶりです?」
トワは誰だかわからずに首を傾げながら応える。
女性達は6人で顔を見合せて苦笑いをトワに向ける。
アイリとリーネはわかっらしくアイリは笑顔で頭を下げて、リーネは満面の笑顔で手を振っていた。
その二人の対応にさらにわからなくなり腕を組んで唸りながら考え込む。
(ん~、アイリとリーネが共通で知っているなら俺のところに来たあと知り合ったってことだよな?)
トワが考えていると最初にトワに絡んできた酔っぱらいが叫ぶ。
「おい!クリュエル!そんなヤツのところより俺のところに来いよ!」
「うっさいわね!少し黙ってな!」
「なよっとしたのが好みなのか!?俺様がベットで本当の男ってヤツを教えてやるよ!がはははは!」
男のパーティーメンバーらしい奴等も笑い出す。
「黙れって言ったんだよ!誰が好きこのんでオークの相手なんかするんだい?」
男がテーブルを叩く。
「少し腕か立つからって女がなめてんじゃねーぞ!命欲しさに貴族なんぞに股を開いた売女が!」
男の言葉を聞いてトワはようやく目の前の女性がわかった。
(あ~!禿どもの雇い主の貴族に捕まってた奴等か、あの時は髪が長かったから気付かなかった)
クリュエルと呼ばれた赤髪の女性は一応面識があった。
トワは女性に気付くとあの時は見た全裸の姿を思い出して装備をつけても隠しきれていない大きな胸を無意識に見てしまうと、いつの間にかトワの後ろに移動していたアイリに両手で目を力強く抑えられる。
「痛い!痛い痛い痛い!アイリさん痛いです!」
「トワ様の目がイヤらしいです!」
今にも殺しに行きそうなぐらい殺気を放っていたクリュエルはトワの方をポカンと見ていた。
「・・・・ぷっ!アハハ!」
トワとアイリのやり取りを見て熱くなっていたクリュエルが吹き出した。
「アンタ等面白いね!とりあえずバカは放って置いて2階に行こうか?」
「2階?」
ぎゃあぎゃあ騒いでいるオッサンを無視して話しを進める。
「王都の冒険者ギルドに来るのは始めてかい?」
「ええ」
他の都市の冒険者ギルドは2階建てだが2階部分は職員の寮と仮眠室になっている。
「王都の冒険者ギルドは3階建てになっていて、1階は通常通りカウンターと併設する酒場になっていて3階が寮と仮眠で、2階はギルドマスターの執務室と資料室それに資料室に併設してカフェがあるんだよ」
クリュエルが説明をし始めてかくれた。
「資料室とカフェですか?」
「ああ、資料を見てカフェでお茶をしながら作戦会議をするのさ」
「はあ、」
「上は酒を置いてないからバカは来ないから静かさ!さあ行くよ!」
トワの手をとり階段に向かおうとクリュエルが歩き出すといつの間にか椅子に座り直しているウサ耳の女性が声をかける。
「お待ちください!」
トワ達が止まってそちらを向くと一瞬怯えた顔をしたあと咳払いをしてトワ達の方を見る。
「申し訳ありませんが2階はCランク以上の方がパーティーメンバーにいないと上がれませんので、クリュエル様とそのパーティーメンバーの方は構いませんが、そちらの方は・・・」
ウサ耳の女性がトワの方をみる。
「はぁ~?アンタこの人を知らないのか?」
クリュエルがトワのことを指差しながらウサ耳の女性に向かっていうと、ウサ耳の女性は首を傾げる。
その反応を見たクリュエルがトワの方を見る。
「まだギルドカードを見せてないですからね」
「それにしても・・・・・」
クリュエルは頭を抱えてため息をついている。
トワの事に気が付かなくても仕方がなかった。
何せトワは王都着いてから城から出なかったので、トワの名前は知られているが容姿がわからずに、二メートルの大男だとか翼が生えているだとか憶測が飛び交っているために、アイリがトワの名前を言っても目の前の少年をそうだとは誰も思わなかった。
「2階の資料は【魔境の森】やそれ以上危険な場所の資料や高ランクの魔獣の討伐方法が載ってますのでランクの低い方がそれを見て自分も出来ると勘違いをして無茶をしないために2階へ上がるにはランク規制があるのです」
ウサ耳の女性が事務的に教えてくれた。
「なるほど、じゃあこれ」
と言いトワがギルドカードをカウンターに置く。
「拝見します・・・・・・・」
カウンターに置かれた金色のギルドカードを見たウサ耳の女性が固まる。
さっきのオッサンがいまだに騒いでいて無視され続けて遂に顔を真っ赤にして叫んだ。
「テメー等表に「SSランク~~~!!!!!!」でろ」
オッサンの声はウサ耳の女性の声に被せられた。
「SSランクのトワさんって〈剣神〉のトワ様ですが~!!!」
「え、あ、うん、」
カウンターを今にも乗り越えそうなぐらいに乗り出したウサ耳の女性の反応にトワは引いていた。
「感激だな~、こんなところで英雄に会えるなんて!!握手してください!!」
(・・・・こんなところって、冒険者なんだからギルドで会うのは普通だろ・・・・・)
そんなことを考えながらとりあえずウサ耳の女性と握手をすると他の冒険者ギルドの職員がその女性の後ろに列びだしてアイドルの握手会のようになった。
職員全員と握手をして酒場の方を向くとそこにいた男達全員が震えていた。
「ところで何かようだった?」
最後に叫んでいたオッサンに笑顔で聞くと椅子から飛び降りて土下座を始める。
「何でもありません!呼び止めてしまってすいませんでした!!先程の暴言のことも知らなかったとはいえトワ様にあのようなことを言ってしまってすいませんでした!」
オッサンが土下座で謝り出すと他の男達も土下座をする。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「すいませんでした!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「いや、いいよ」
その光景にトワは苦笑いをしながら許した。
「まさか許していただけるとわ!!」
「奇跡だ!」
「夢じゃないのか!」
「死ぬことも覚悟したがよかった!」
「神よ~!」
などと男達が安堵の顔をして口々に言った。
トワは自分の事がどのような噂になっているのかが気になった。
「そういえば、依頼でも受けに来たのかい?」
男達のあわてふためいている姿を見ながらクリュエルが笑みを浮かべてトワに聞く。
「いえ、クラインさんに用があったのですが」
トワが受付の方をチラリと見るとウサ耳の女性は顔を青くして震えながらカウンターに頭を打ち付けるように頭を下げる。
「先程は申し訳ありませんでした!まさかトワ様とは知らずに」
「いや、いいよ。それよりクラインさんに会えるかな?」
「まことに申し訳無いのですが、現在ギルドマスターは所用で席を外しておりまして、ギャブールさんならばおられますがいかがいたしますか?」
「ギャブール??」
トワが首傾げるとクリュエルが苦笑いをしながらこえた。
「ギルドマスターの二人いる補佐官の一人だよ。本当になにも知らないんだな」
トワはクリュエルの言葉に引っ掛かりを覚えるが何に引っ掛かるかがわからずにまあいいかと流した。
「補佐官ですか、面識が無いので今回は大丈夫です」
一度も会ったことがない補佐官に優秀だとは聞いたが重要そうな事を聞くにはトワにはその人物を信用出来なかったために断った。
「そうですがわかりました。」
「クラインさんが来たら教えてもらえますか?」
「はい!ギルドマスターが帰ってきたらトワ様が話しがあると伝えておきます」
「じゃあ、お願いします。それで、2階に行ってもいいんだよな?」
まだ後ろで騒いでいる男達は無視してカウンターを向きウサ耳の女性に聞く。
「はい!もちろんでございます!どうぞ!」
促されてクリュエル達と共に2階へ上がる。
丸いテーブルに腰をおろしてアイリとリーネが左右に座りクリュエルが正面に座って他の女性達は適当に座る。
全員が座ると徐にクリュエルが咳払いをしてから喋りだす。
「改めて、数日前にトワさんに助けられた者だ。Cランクの冒険者で名前をクリュエルと言う。ここにいる奴等と組んでいるパーティー〈ワルキューレ〉のリーダーをしている。先日は本当にありがとう。あの時に礼を言うべきだったのだが」
クリュエルは申し訳なさそう頭を下げる。
「いえ気にしないで下さい。それより俺は〈剣神〉のトワです。一応〈黒衣〉のリーダーをしています。それと横にいるのがパーティーメンバーのアイリとリーネです。それとクリュエルさんの方がお年上なんですからトワでいいですよ」
「アイリです」
「リーネだよ」
アイリとリーネは自分を紹介されると頭を下げて一言挨拶をする。
鑑定をしてみるとクリュエルは18歳だった。
「そうかい!それにしても私の方が上だって良くわかるね?」
トワの年齢は15でドラゴンを倒したとかで噂になりみんな知っている。
「それは、クリュエルさんは美人で大人の色気がするからそんな気がしたんですよ」
「そ、そうかい?・・・・わ、私のこともクリュエルでいいよ・・・」
クリュエルは顔を赤くして照れていた。
「あ、は、はい・・・・・」
照れるクリュエルを見てトワも照れてしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人は照れて沈黙が広がる。
アイリとリーネは左右からトワを睨み付ける。
沈黙を一人の少女が破る。
「うっ、うちらのリーダーも凄いんだよ!なんたって〈首狩りローズ〉って二つ名があるんだから!」
隣にいる緑色の髪をポニーテールにしたスレンダーな人間のまな板娘が胸を張りながら言う。
(首狩りってこえ~!)
トワがクリュエルの二つ名に心の中でビビっていると、クリュエルがまな板娘の横腹に肘を入れる。
「ぐほっ!!」
まな板娘は脇腹を抑えながらテーブルに倒れこむ。
「チッキャ!余計なことはいいの!それより先ずは自己紹介でしょ!」
「えっと、Cランクのチッキャだよ!よろしくね。クリュエルとは前のパーティーの時からの付き合いなんだ~。それとありがとね」
前のパーティーと言われてなんのことかわからずに首を傾げる。
「ああ、ここにいるのは全員トワが貴族から救ってくれた奴等でなんだ。それで元々は私とチッキャ以外は別々のパーティーに所属していたんだけど、あんな後だからね男のメンバーと組めなくなったんだよ。私等は元々二人だったから他の奴等を引き取って女だけでパーティーを組んでるんだよ」
「へ~、でもよく前のパーティーメンバーが抜けるのを認めたね」
「奴等にも護れなかったっていう負い目があったのさ。それに、男のメンバーに怯えて連携がうまく出来ずにお荷物になっていたのさ」
「なるほど」
その後他のメンバーも自己紹介をした。
パーティーメンバーはDランクの、白に近いグレーの短髪でスレンダーな猫獣人のメルーシトと、軽いウエーブのかかった薄い金髪を腰まで伸ばしてメリハリのある体つきをした人間のジェリア、それに引き締まった体に肩まである黒い髪をした犬獣人のマーチェルの3人と、Gランクのくすんだ茶髪に胸は手に収まるぐらいの大きさのモノを持った人間のメリセールだ。
「一人だけランクが離れているんですね?」
トワは一人だけGランクと他のメンバーと違いすぎることが気になり聞いてみた。
「ああ、メリは元は兵士であの後冒険者になったからな。でも、実力はDぐらいはあるぞ」
「そうだったんですか・・・・・」
そこでトワは疑問が出て首を傾げる。
助けて着替えをしてもらった後に顔はあまり見えなかったが服装を見た感じでは、助けたのは冒険者6人に兵士2人だったので足りない。
トワは兵士2人を抜いた冒険者6人が目の前にいるのだと思っていたので気付かなかったが、1人兵士だとすると人数が足りないことが気になった。
「他の2人はどうしているんですか?」
トワが聞くと空気が重くなる。
大きく息を吐いてクリュエルが眉間に皺をよせながら口を開く。
「1人はメリと同じで兵士だったんだ。ただ新米のね。彼女は心が壊れていてね、帰りに自分の喉をね・・・・・あんなことがあったから仕方がないさ。私達はそういうこともあると割りきっているがこのざまだからな」
そう言ってクリュエルは仲間に視線を向ける。
あの時のことを思い出したのか全員が怒りとも恐怖ともとれる複雑な顔をして俯いて震えていた。
(味方だと思っていた人間側の奴に襲われた感情は本人達にしかわからないよな)
トワは彼女達の姿を見て複雑な気持ちになる。
「もう1人Dランクの奴がいたんだけど、彼女はパーティーメンバーに恋人がいてね、あんなことがあった後でもお互いに気持ちが変わらないらしくて離れたくないと言うことで元のパーティーで頑張るってことになったんだ」
「彼氏は良い奴だったんだよ。助けるために死にかけるまで〈月光〉に挑んでさ。怪我は王都のギルドマスターの好意で全員回復してもらったから元気だったよ」
(あ~いたな死にかけてるやつ)
「でも、依頼に出掛けたときに、あの戦いの逃げ出した残党に囲まれて、連携がうまくいかずに、パーティー全員が死んだんだ」
あの戦いでトワが魔人を倒した後、散り散りに逃げ出した魔獣達は少なくはなかったために、その魔獣討伐の依頼が割り増しで多数出ていた。
「それは・・・それにしてもクリュエルはよくそんなことを知っていたね」
他人が依頼の最中にどうやって死んだかを知っているのが不思議だった。
「ああ、そのパーティーの斥候が片腕と片目を無くして背中に大きな傷を受けた状態で王都の門まで来て話してくれたんだ。私達も依頼に出ようとしたときに丁度居合わせてね」
斥候は逃げ出したわけではなくどこでどんな魔獣に出会ってどれだけの数がいたのかをと言う情報を届けに来た。
トワは仲間を見捨てて逃げ出したのかと思い不快感があったがすぐに斥候の役目は死なずに情報を届けることだと昔なにかの本で読んだことを思いだし、その斥候は自分の仕事をまっとうしただけだと思い直した。
「その斥候の人は今は?」
斥候として片腕と片目が無く死角が増えることは死活問題なので、もう冒険者は廃業をしているだろうと聞いてみた。
「彼は情報を届けた後に私達を見て涙を流して『俺達が弱いばっかりに、また護れなかった』そう言って目を閉じたまま仲間の元に逝ったよ」
「そうですが」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
暗い雰囲気になり全員が沈黙する。
「そ、そういえば、俺が貴族を殺してしまってすいませんでしたね。どうせなら動けないようにするだけにしておけばウサを晴らせたかも知れなかったですね」
トワは話しを変えようと思ったが共通の話題がとっさに思いつかずに、結局同じ話題になってしまった。
「えっ、あ、うん、いいんだ、気にしないでくれ」
クリュエルは目をそらした。
他のメンバーも目をそらしたり、中には何を思い出したのか顔を青くして口を抑えて吐きそうにしている者達もいた。
トワはその反応を見てこの話題にはもう触れないように考えて話題を変える。
「と、とりあえずケーキを頼みましょう」
トワ達は2階に上がってからなにも注文をしていなかった。
2階は資料室としての役割がメインなためになにも注文をしない人も珍しくは無いうえにトワ達以外は客がいなかったので、不審がられることも注目を集めることもなかった。
「そ、そうだな」
クリュエルが頷いて周りをに確認をすると全員頷いた。
店員がいるカウンターは階段の近くにありそちらに向かってトワが手を上げると、タイミングよく階段から見覚えのある筋肉達磨が上がってきて、トワに答えるように手を上げる。
「よう!」
「アンタに手を上げたわけじゃない!!」
「俺に用だったんだろ?」
上がってきたのはクラインだった。
クラインは空いている椅子を持ってトワ達のテーブルまで来ると無理やりあいだに座る。
席はトワ達9人でも少し狭いぐらいはだったところに、ガタイの良いクラインが入ったために狭いどころではなくなりクリュエルとチッキャ以外の4人がテーブルから離れて後ろに座る。
「狭いな!でかすぎんだよアンタは!!」
「そう言うなよ!聞きたいことがあったんだろ?」
「ああ、城が慌ただしかったがなにか知ってるか?」
「俺もその事で昨日から城にいたんだ!」
クラインが真面目な顔になり話し始めようとすると
「ちょ!ちょっと待って!私達も聞いて良いんですか?」
クリュエルは手を伸ばして止める。
「かまわん!今日の午後には提示される話しだからな!」
「わかりました」
クリュエル達が頷くのを見てクラインは大きく息を吐いて話しを始める。
「実は・・・・・・・・・・」
「実は?」
クラインの大きな間に耐えきれずトワが相槌を入れる。
「実は、シュナードが落ちたようだ」
「「「「「「「「えつーーーーーー!!!!」」」」」」」」
(えーっと、シュナードってどこだ??)
他の8人が驚いているなかトワは知らない都市の名前に首を傾げていた。