バカ?
遅くなってすいませんでした!!
いつものように目を覚まし、いつものように準備をし、いつものように食事を頼む。
しかし、いつもと少し違うところがある。
トワが外にいる兵士に食事の用意を頼むがいつものように顔を赤くすることはなかった。
(よしよし結界は成功だな)
トワは部屋全体に結界を張り外に音が漏れないようにしていた。
なぜ、ベットだけでなく部屋全体なのかと言うと、戦場はベットだけではなかったからだ。
しかし、部屋のそんな惨状はメイドが朝食を運んでくる頃にはキレイに片付けられていた。
客人である彼等が片付けをする必要は無いのだが、アイリとリーネはその惨状を他人に見せるのは恥ずかしいらしく、朝の弱いリーネさえトワより少し早めに起きて二人で掃除をしていた。
二人によって整えられた部屋で朝食をとっていると3日にしてふと小さな疑問がうまれた。
「この部屋の護衛をしている兵士は毎日代わってそのうえ何で若いんだろう?」
トワ達の部屋の前にいる兵士は3日とも15、16前後の若い兵士だった。
トワの質問にリーネは顔を上げてトワを見るが首を傾げてわからないという意思表示をすると目線を戻して早々と食事を再開する。
トワがそんなリーネに苦笑いしていると、アイリは考えながら疑問形式で答える。
「なぜでしょう?・・・もしかしたら我々が気を使わないように気にしてくださっているのでしょうか?」
「ん~、公爵あたりは気が廻りそうだからな、そうかもしれないな?」
二人は考えてもわからないと食事を再開する。
トワ達三人は知らないことだが護衛の件は公爵が若い兵士に経験を積ませるために、トワ達ならばもし兵士が護衛にミスをしても大丈夫だろうと考えて訓練の意味も込めて経験の浅い若い兵士にやらせている。
勿論一人で護衛をさせているわけでは無く隠れて護衛の様子を隠れて監視している者もいる。
トワはもう一人が隠れていることには気が付いていたが、城の中という要人がいる場所なので監視がいることには 防犯カメラの代わりだな ぐらいにしか思っていなかった。
移動をするときの護衛が毎日キュネットと言う女兵士一人で代わらないのかというと、キュネット自身が志願したからだ。
キュネットは間接的とはいえ家族を救われた恩と英雄に対する憧れ、更には誰にでも分け隔てなく優しいと聞いているので感謝と共に自分の身を捧げてもいいと考えて志願した。
志願者は公爵の元に騎士、兵士を合わせて30人程の名簿が集まっていた。
元々女性が少ないうえに貴族からの圧力で後ろ楯の無い一般の兵士は志願すら出来なかったが、キュネットの場合は本人は知らないが彼女の父親が公爵と知り合いだったために貴族からの圧力が殆ど無かった。
この国には貴族主義という者達がいる。
彼等は貴族以外の者達を道具としか見ていない。
国にとって汚点ではあるが貴族を簡単には家を潰すことが出来ない。
冒険者ギルドがある街などはギルドが取り仕切っているが、ギルドの無い町や村等では貴族が仕切っている。
中には力のある貴族もいて大きな街を作り統治していてその税が国の財源にもなっている。
そういった王都から離れたところにいる者達が貴族主義を歌っている(例外も居るが)。
公爵はどういったことになるかわからずに不安があるため極力トワと貴族主義の者を接触させたくなかった。
そのため選んだ者を上位5名に絞りそこから貴族主義の者と関わりかあるものを弾き二人に絞り、さらに公爵が信におけ男性経験がない初物のキュネットに決めた。
トワはこの事情を知ることは無いだろう。
食事を終えた頃にキュネットがノックをして扉を開ける。
「トワ殿、今日から暫くは訓練を休止させてくださいと伝言を受けております」
「はあ、構いませんけど」
「勝手ながら申し訳ありません」
キュネットが頭を下げる。
「キュネットさんが頭を下げることではないですから」
「ありがとうございます。それと、此方の都合なので休みのあいだも契約の日数に数えてくださいとのことです。数日は色々とあり訓練が出来ませんので城の外に行っていただいても、冒険者として他の依頼を受けていたたいても構わないと伝えるように受けております」
「わかりました。今日は冒険者ギルドに行ってきたいと思います。もしかすると二・三日は依頼で帰ってこないかもしれないので伝えてもらえますか?」
「わかりました。城の門番もトワ殿達のことは知っていると思いますので入れると思いますが、もし入れなかった場合は私を呼んでください。これで私も失礼します。お気をつけ」
キュネットは一礼をして部屋を出ていった。
「何があったのだろう?」
「聞いてみてもよかったのでは?」
「何か、聞きづらかったから」
「確かにピリピリしてましたね」
何かがあったことはわかるが聞けないぐらいの緊張感があったことをアイリも気付いていた。
「ご主人様、外に出るなら屋台の串焼きが食べたいです!」
リーネはそんなことよりも食いけだった。
「リーネちゃんまだ食べるの!?」
トワが呆れているとアイリが驚きの声を上げる。
「朝はお肉が出ないからお腹がいっぱいにならないんだもん」
「・・・・・私も食べれば・・・・大きくなる!・・・でもそうするとお腹の方に・・・動いていれば大丈夫かも・・・」
アイリは自分とリーネの胸を見比べて自分の胸を両手で抑えながら呟いていた。
「装備を整えてとりあえずギルドに顔を出してから武器屋を見たりするから、ギルドに行くときにあったら買うよ。それでいいかい?」
ブツブツと呪文のように呟いているアイリをスルーしてリーネに言う。
「は~い!」
リーネは尻尾を千切れんばかりに振りながら嬉しそうに頷いた。
(リーネよ、俺のことより食い物の方が嬉しいのか!)
トワは複雑な気持ちになった。
「勿論アイリにも何か買うからな」
リーネだけに買うと贔屓しているように見えるため、アイリにも食べ物じゃなくても何か買ってやろうと考えて、ブツブツと呟いているアイリを撫でながら笑顔をで言う。
「はい!」
アイリは耳をピンと立てて嬉しそうに返事をする。
「ご主人様~!アイリちゃ~ん!早く行こうよ~!」
リーネは既にドアを開けて廊下からトワとアイリを手招きしている。
「今行くよ!行こうかアイリ」
「はい!」
トワが左手を出すとアイリは顔を赤くして嬉しそうに出された手を繋いで部屋を出る。
ギルドに向かう途中にあった串焼き屋で肉と海鮮の串焼きを買いリーネに渡すと両手に持って嬉しそうに交互に食べる。
アイリにどうするか聞くと太りたくないという気持ちが勝ったらしく『いえ、大丈夫です』と断った。
アイリを軽く撫でて手を繋いだまま二人は歩きだして、嬉しそうに串焼きを食べているリーネがすぐ後ろからついてくる。
本部だけあってペイルトの冒険者ギルドよりも大きくて、しかも3階建てになっている。
「最前線のペイルトの方が冒険者が多いんだろうからそっちを大きくした方が良いんじゃないか?」
トワが冒険者ギルドを見上げながら疑問を口に出すとアイリが答える。
「王都の冒険者ギルドは本部だけあって他のギルドからの報告書の数もバカになりませんので職員が多いんだと思います。それに、王都の裏には【魔境の森】と呼ばれる場所がありまして、ペイルト程でなくとも危険がありますし依頼も多いと聞いたことがあります。なので、冒険者の数は危険が多い前線のペイルトよりも安全で依頼がペイルト以外の都市よりも多い王都の方が断然多いそうです」
この国では当たり前のことらしい。
王都もペイルトのように高い壁に護られていた。
「でも、だったら冒険者全員が王都にいてもおかしくないよね?」
「王都の依頼は普通の都市よりも依頼の難易度が高いのです。なのでそこまで実力の無い者や自分の生まれた町から離れたくないという者は各都市に残っているのです。そして、実力があり一攫千金を狙っている者は前線のペイルトに行きます。ペイルトは他の都市よりも危険が多いために依頼の報酬も他より多くなっています」
「へぇ~、じゃあ王都よりもペイルトの方が良いじゃん?」
「いえ、ペイルトのようにいつ魔獣の侵攻がおこるかわからないために壁の内側でも安全ではありませんが、王都は城門の中ならば安全ですので、そこそこ実力があって平穏を求めるものが王都には多いです。それか、貴族に雇われて楽して稼ぐことを考えている者が多いと聞きます」
(平穏を求める・・・・俺にあってそうだが、貴族とかウザイな)
「アイリは色々と知っていて凄いな」
アイリは奴隷になる前にどこならば稼ぎがいいかを調べていたためによくしっていた。
「とりあえず入るか」
トワはギルドに入るとカウンターにいる白いウサギ耳の女の受付のところに行く。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
笑顔が似合うショートカットの美少女だ。
後ろからアイリとリーネが痛い視線を向けながら『やっぱり』とか言っているが聞こえないふりをする。
「筋肉、いや、クラインさんはいますか?」
城での騒ぎをクラインなら知っているかもと思い聞くことにした。
「失礼ですがお約束などは?」
「いえ、ありません」
「でしたら、お取り次ぎをすることは出来ません。ギルド本部のギルドマスターに会わせろと言われても一冒険者をハイそうですかと会わせることは出来ません」
受付が平坦な口調で断る。
すると、トワがクラインの名前を出したあたりから静まりかえり受付の様子を聞き耳を立ててうかがっていたギルド内にいる冒険者達が騒ぎ出す。
「なんだ!なんだ!」
「ガキがいきがってんじゃねーよ!」
「クソガキが本部のギルマス会えるわけねーだろ!」
「これだから田舎者は!」
「ランクを上げてから出直してこいよ!」
「ガキは世間知らずだな!」
と、言い笑いながらギルドに併設する酒場で朝から20人前後の男の冒険者が酒を煽っていた。
トワはものすごい殺気を放ちながら今にも飛びかかりそうなアイリとリーネの手を掴み止める。
「いいから二人とも、酔っぱらいの戯れ言だ。気にするな」
二人はトワの言葉で今にも襲いかかろうとする衝動を抑えて男達を睨み付ける。
そんなアイリとリーネの様子を見た男達がさらにあおりだす。
「女に守られてる奴がなめてんじゃねーぞ!」
「ぶっ飛ばしてやろうか!」
「嬢ちゃん達~、そんな頼りねえガキよりも俺等のところに来いよ!」
「たっぷりと可愛がってやるぜ~」
「アハハハ!オメー等が相手したら一日で壊れちまうだろ!」
「ちげーねー!」
トワはこういうバカに何度か遭遇していたために少しだけなれて感情を押し込めて冷静さを繕っていた。
(バカはどこにでもいるな!)
「ひっ!」
しかし、トワの近くにいた受付の娘は、トワから漏れる濃度の高い殺気に椅子から立ち上がり怯えながら後退りする。
トワが大きくため息をついたときギルドの扉が開く。