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 この竜、一人称「私」だけど、本当に俺様。


 あれから約束通りに引っ越しはしてもらえて、というか洞窟の入り口にログハウスもどきを魔法で作ってくれたんだけど、これまた約束通りに実験には付き合わされることに。それが、ほぼ起きている間中だった。休みは食事と寝ている間だけ。


 予想はしていたけど、竜というのは体力も魔力も有り余っているそうで、それなのに大気に漂っている魔力?とかなんかを吸収するだけで生きていける、とってもエコな生物なんだそうな。言われてみれば、あの巨体を維持するために相応の肉を食べていれば、世界中の生物はあっという間に死滅するよね。

 人間が食べるような食物も食べられない訳じゃないけど、あくまで嗜好品扱いで体を形作る栄養素にはならないらしい。

 だからって、私のご飯が果物と木の実だけって、病気になるわ!再び。バランスの良い食事の必要性を訴えるけど、近くに人間の集落もないので、引っ越しやら何やらで時間が掛かった初日は、諦めろとあっさり言われた。……でも、実験はきっちりやるんだよね。本当に微に入り細に入り、徹底的に。


 結界に飛び込まされる。

 ……結果。結界は消滅しないで、私だけを通す。

 結界に触れたものを感知したり、攻撃したりする術式を組み込んである場合も同様で、仕組みは分からないけど、とにかく一切の魔法が効かない。感知魔法もスルー。

 罠みたいなもの……例えば、どこかを触ると落とし穴が発動といった仕掛けにも、魔法が使われてる場合は反応せずに、魔法がかかっていない古典的な仕掛けだけの場合、発動することが分かった。

 魔法は火・水・土・風・光・闇・無・空間とありがちなパターンな属性に分かれていて、このすべてを試してみたけど効果がない。まあ、最初が最初だったので、この辺の確認実験はあまり怖くなかった。


 問題は物理攻撃を検証する時だ。

 竜の牙やら爪やらで傷つけるのは、どんな病原菌が着いているか分かったもんじゃないので論外、その辺の木の棘とか石も以下同文、そもそも鋭利なものじゃないと痛い上に、治りが遅くなるのでやりたくない。薬もないし、薬があったとしても効くかどうか分からない。かといって力技で試すとなると、手加減皆無な予想がするこの竜にやらせるには命がけの話になるので、これまたやらせるつもりはない。

 竜はあまり武器を持って戦うことがないらしくて、刃物はなし、針もなし。

 ……そういえば、人間に化けていた時は服を着ていたけど、竜の時は消えてる。あれは魔法で出しているから、洗濯も綻びることもないから、針もないのかな?

 竜の時はいわば全裸のようなものなんだろうけど、服はどういう扱いなんだろう。


 服はどこへ行ったのか聞いてみると「そういうもの」という、誠に役に立たない説明が返って来た。

「人に変化すると、服を着ている姿になる。だが、お前だって似たようなものだろう?」

「似たようなもの?」

「その着ている服」


 今着ているのは、落ちて来た時の服のフレアワンピースだ。珍しい物が好きな例の変態貴族が、私を服ごと買ったので、一度はボロボロの奴隷服を着せられていたけど返して貰えたのだ。素材や縫製がこちらとは全然違うらしい。持っていた私のバッグは取り上げられてしまったままなので、唯一自分の世界から持ってきて手元に残ったものだ。


「これがどうしたんですか?」

「私の魔法が当たっても、それは吹き飛んでいない」

「──あ」


 そうか。体だけが魔法が効かないだけだったら、この服も他の人たちと同じように消えてしまっていた筈が、どういう訳か服も残っている。私自身が特別なのかと思っていたら、向こうから持ってきたものが特別、ってこと?……そうとしたら……。


「ねえ、私を拾ったところに一度戻ってもらえませんか?もしかしたら、面白いものが残っているかもしれない」

「なんだそれは?」

「本当に残っているかどうか、自信がないんです。ぬか喜びさせるだけになるかもしれないので、行ってみてからのお楽しみということで」


 もったいぶっているわけじゃないし、服が残っているんだったら確率は高い、と思うんだけど、こればっかりは予測なので何とも言えないことを強調したら、興味を持ったらしくて了承してもらえた。


 この時点でもう夜も更けていたので、木枠だけのベッドで就寝。家は材料の木があったからなんとかしてもらえたけど、布団の類は綿花から作成なんて無理な状況なので、痛いけど仕方がない。




 そして次の日。


 巨大なクレーターはちっとやそっとじゃ元に戻らなかったらしい。風が吹くたびに少しずつ土が下に落ちていくけど、完全に埋まるまではどれだけ時間がかかるんだろう。おまけに、最後に大きな魔法を放ったせいで、すり鉢状よりも深く変形にえぐれている。


 そのクレーターのいちばん深いところの周辺を探してみると、それはあっさり見つかった。


 私が持っていたバッグ。バッグの中身はちらっと見た限り、無事なようだった。お財布に化粧ポーチ、ハンカチ、筆箱。ペットボトルに入った水と、飴ちゃん、チョコレートは奴隷商人に取られていなかったのが奇跡のようだ。スマホが残っているのは用途不明だからで分かるんだけど。スマホは充電切れで落ちてたけど、ポーチが汚れていただけで中身はどれも壊れていない。


「私が向こうの世界から持って来たものです。これが残っていたら、私に魔法が効かない理由は世界が違うからってことになりませんか?」


 竜に黒飴を投げ渡すと、興味深げにしげしげと見ていた。外側を包むフィルムは、多分こっちの世界では作れないものだから珍しいんだろう。


「これはなんだ?」

「お菓子です。水に黒砂糖を溶かして固めたもの」

「食べられるのか?」

「外側は食べられません。中身を食べるの」

 一度取り上げて中身を取り出してやると、じーっと眺めているので毒見代りにもう一つ袋から取り出して食べてやったらようやく口に入れた。私が毒殺でもすると思っていたの?


「……これは」

「?」

「美味い!」

 目をキラキラさせて、どこの子供かって感じのことを宣う竜。さっと差し出された手の意味はもっと寄越せと言う事なんだろうけど、これは貴重な元の世界の食料なのでこれ以上は上げない。


「どうですか?それもこれもあなたの魔法に当たった物です。どこも悪くなっていないでしょう?あと、この包んであったこれ。本当は火にとても弱い素材なんですよ」

 言った途端に目の前が真っ赤に染まった。

 またか。手加減が出来ないのか、単なる大魔法が好きな脳筋なのか分からないが、劫火に焼かれて燃え尽きる筈が、やっぱり私は傷一つない。持っていたバッグや、飴の包みも変化なし。


「ここに来た時、何かに足を掴まれて穴に引きずり込まれて落ちて来たんです」

 会社が休みの日、図書館に行くつもりでコンビニに寄ってから歩いていたら、いきなりだった。

 昼日中の事なのに、悲鳴を上げてもたまたまなのか人通りも少ないし、縋る物もない。ろくに抵抗する間もなく穴……正確にはマンホールに落ちた。


「何かの前兆もなし。前に言った通り私のいた世界に魔法はないから、魔法が効かないっていうのが私のいた世界の世界共通因子みたいな感じだったらありえるんじゃないですか?」

 うまく意識をそちらに向けられたみたいだった。思案顔になった竜にさらに続ける。

「私のいた世界はなぜか、異世界落ちのパターンが空想の物語としていくつもあるんです。勇者としてとか、それに巻き込まれた一般人とか」


 竜は頷いた。

「確かに、私がここに赴いたのは、人間が条約違反をして勇者召喚を行ったようだったから、早々に勇者を潰しに行ったのだ」

「は?」

「さすがに手間暇かけて呼び出した相手を売り払うことはないだろうから、お前が勇者ってことはないだろうしな」



え、じゃなに?私、テンプレ的な勇者召喚に巻き込まれた被害者ってこと?







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