俺、このゲームが終わったら――
積極的に異能バトル要素を取り込む予定です。
SFに流れるのは筆者の仕様です。
2013.1.27 大規模改修完了。
電話が鳴っている。
しつこく鳴っている。
誰がかけてきたのかはわかってる。あいつだ。出ないよ、俺は。賭けてもいい、「どうして今日休んだの」とか聞かれるだけだ。どうしてあいつは俺をかまうんだろう。
成績優秀で異常に人望まであるあいつに比べて、俺なんか……。
おっと、雑念は敵だ。集中集中。こいつを倒せばクリアなんだから。
注意を眼前の敵に据えた。
そこに広がる光景は黒煙を噴出す火山と流れる溶岩、そして激しい雷電を放つラスボス。端的に言い表すと地獄絵図だ。ここに居るだけでHPがじりじり減っていく。
パーティーのメンバーはこの戦いのために寄せ集めた他人ばかり。この厳しい環境に対して、パーティーは貧弱さを隠せない。
そういうわけでたぶんこのメンバーで一番強いのは俺だから、敵の攻撃の合間を縫って広域回復や反撃をしなければならない。
こんなくそ忙しいときに電話してくるなんて、まったく非常識なやつだ。乏しい対人交渉能力をフルに使うことで、丸一日かけてようやくこの戦いをセッティングできたんだ。邪魔されてたまるか。
敵の放つビームを前転して避け、そのまま次のモーションにつなげて反撃する。同時に画面左端のHPインジケーターが明滅した。仲間の一人のHPが危険水域にさしかかっている。
味方の悲鳴じみた助けてコールが遠くに聞こえた。
またか。喉の奥でうめく。しかたない、治癒ダイスしてやる。
倒れてくる岩肌を回避し、煙で霞む戦場を駆ける。敵は防御不能の強制コヒーレンスで俺たちに致死攻撃を浴びせてくる。煙はコヒーレント・グランスを遮る目くらましだ。
「待ってろ、いま治癒する!」
天を圧する敵の名はミステル。その体を成す巨大な眼球は、ぼんやり滲んだように現われては消える。まったくチートな敵だ。重ね合わせ化することで虚数空間に半ば隠れているのだ。
パッと画面が明るく輝く。まずい。
「敵のアクティブセンシングだ、転移しろ」と叫ぶが、遅かったようだ。
「ぎゃー、こちも食らっちゃった!」
また仲間が食らったたらしく、大げさに騒ぎ立てた。ユーザー名だけしか知らないが、その若い声からして彼はおそらく中学生だろう。自動変換されたボイスだから絶対ではないけど、たぶんそうだ。
やれやれ、このメンバーで本当に勝てるかな。どうも甘えてるんだよなあ、と溜息をついた。まあでも、パーティー枠を全部埋めないで戦うのは厳しい。参加してくれるだけでもありがたい。
これがぼっちのハンデというものなのだ。