プロローグ
プロローグ
殺した。
人を、いや正確には彼氏を殺した。
本川由香里。十八歳。本作の主人公。そして、犯人。
どこか遠くを見つめ、息絶えている彼を、ただぼーっと見つめる。
西條透十八歳。由香里の彼氏。被害者。
見つめていてもどこかいたたまれなくなって目線を、逸らす。
が、しかし、逸らした先に見えるのは、自分の指紋と、彼の指紋と、それから彼の血液が、べったりと付いた凶器。
「どーしよ。マジで」
能天気に考えている暇はなかった。
正直、捕まりたくはない。というより、捕まりたい犯人なんているのだろうか。
これはれっきとした正当防衛で、私は何も悪くない、と言いたいところだが実際、殺したのは私であって、彼は私を殺そうとしたわけじゃなかった。
ただ、不純異性交遊はよくない、と彼の誘いを断ったところ、逆上した彼は殴りかかってきた。
そう、殴った。ただそれだけ。
だから、私の殺人罪は少年法に守られながらも重く、経歴と私にのしかかる。
ちなみに、ここは東京都のとある区にある廃ビルの地下室で、透が仲間とよくたむろしていた部屋。
おそらく、今日もここに透目当てで数人が来るだろう。
そう考えるとここでゆっくりと透を見つめている時間は、なかった。
透は仲間内でも人気者で誰もが透としゃべりたがったし、女の子は付き合いたがった。
付き合い始めた頃は、女の子に嫌がらせされたり、疎まれたりしたけど、最終的には全員と和解できた。
ただ、心の奥底ではいまだに私を、怨んでいる子が、いるんだろうなぁ。
そんなことを考えつつ、私は立ち上がった。
鞄からタオル地のハンカチを取り出し、凶器を丸めて鞄に突っ込む。
それから透の近くに、タイマー付きのストーブを置く。
体がやけどしない程度の場所に置き、2時間後自動的に切れるようにセットする。
もちろん、死亡推定時刻をうやむやにして私のアリバイを作るため。
何にもなかったかのように、地下室からでる。
何かのテレビで見たんだけれど、走っている人ってのは、目撃者の記憶に残りやすい、らしい。
だから、何もなかったかのように。ただ近くのコンビニに行くように。
普通に、歩いた。
外に出ると人が誰もいなかった。
「気味が悪いな…。この街ってこんなに人少なかったっけ?」
逃亡生活、始めました。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
初投稿、初連載なので、お手柔らかに。