第08話 さぁ、どっちがやかましい?[1] マシンガン
「ほんでさー! 昨日のあのドラマ! 観たぁ? めっちゃ可愛くない!? マジでホンマもう鼻血出るか思たで! しかもさー、あのなんていうの? ちょっとためらった感じがホンマ可愛いわぁ! あぁ~、オレの相手もあんな風にちょっとは恥じらいとかあればいいのにな……痛ってー!」
誰やねん! 人がせっかく楽しい話してるのに! いきなり頭叩くかぁ!?
「誰が恥じらいがないって?」
うわ、最悪。聞かれてた。
あ、どうも。皆さんこんにちは。オレの名前は佐野 翔。神奈川県は七海市に住んでおります。
え? なんで神奈川やのに関西弁って? そりゃああんさん、オレは大阪出身ですから。たかだか3年ちょいと関東におっても、オレはそう簡単に周りには流されません。こないして、いつまでたっても関西弁。
「だいたいね~、あんたいつまで喋ってるのよ。そろそろ店番の時間でしょ? ほら、サッサと行く!」
このうるさいのはオレの彼女の朝倉 陽乃。うるさいし、いろいろ厳しいし、こうやって口出しもしてくる。基本的にまぁ、えぇ子やねんけど(ノロケちゃうで!?)、ちょっと口やかましいのが欠点。もうちょっとこう、女の子らしい恥じらいとかあってもえぇんちゃうかなぁ……とか思うんですけどね。
もちろん、そんなこと言うた日にゃ鉄拳が飛んでくるんで、オレは健気に黙って耐えてるわけですが。
結局、部活友達の川崎 慎也や水谷 春樹と楽しく文化祭満喫してたのに、店番という拘束の場へオレだけ放り出されました。ちゃんちゃん。
なんて言うてる間にヤバい、店番交替の時間過ぎた。オレの前がこりゃまたやかましい慎也の彼女、田中 美里と一際賑やかな後輩、西嶋はるか。遅刻してもうたからこりゃもう、絶対怒られる。ヤバいマジで急ごう。
なんて急いだりするからほら、こういうことになるんです。
「どわーい!」
思い切り階段でこけてダイブ! おかげさまで制服は泥だらけでございます。
「痛ってぇ……」
今日は厄日やわ……ん?
「大丈夫ですか?」
わぁーお。可愛い……やなくて!
「え、あ、はい! 大丈夫です! いやぁどうも、失礼しました!」
「あ……手のひら」
言われて気づいた。右手の手のひら擦り剥いてる。いまコケたからや。
「あー! まぁ、こんくらい大丈っ……!?」
突然、彼女がオレの手を掴んできた。
「ちょちょちょ! な、なんなんですか!?」
こんなとこ部活のヤツらに見られたらヤバいねんってー!
「手当てします。さ、こちらへどうぞ」
手当てて! 大怪我したわけちゃうで!
「いいですって! それよりオレ急いでるんで!」
「いいから」
良くないわ! っていうか人の話聞けー!
なんていう抵抗を可愛いこの子を目の前にしてできるわけもなく。オレはポツリと校舎の端のこんな暗い部屋に放り込まれてもうた。
なんとか治療を終えて(そういうほどの怪我でもないし)、オレは早急に部屋を出ようとした。いい加減にせんと、田中っちや西嶋ちゃんに半殺しにされる。こんな怪我くらいじゃすまんやろう。
「あの……」
「はい?」
「あなたは、たとえば、逢いたい人がいますか?」
「え?」
「あなたの大切な人の、過去を見られるとしたら、見てみたいですか?」
大切な人の過去……ねぇ。
パッとすぐに浮かんだのは、陽乃の顔。
「へへへ。そりゃまぁ、ひとりや二人は」
「では、こちらに必要事項を記入してください」
は。必要事項?
薄っぺらい小さな紙に、それはこう書かれていた。
(1)あなたのお名前
(2)会いたい人のお名前
(3)その人の昔の姿を見れるとしたら、いつ頃を見たいですか?
なんやここ? 占い屋か何かか? まぁえぇわ。
(1)佐野 翔
(2)朝倉 陽乃
(3)小さい頃
こんなもんか。
「小さい頃というのは、具体的には?」
「え……っと。まぁ、3歳か4歳かな」
「はい。では、3歳で」
なんなんやろ……え……これ、なんか怪しい?
「では、最後にこちらをご覧ください」
※注意事項
過去に戻った際、その人物はもちろん、過去のあなたご本人に遭遇することもございます。もちろん、過去に戻るわけですから、実際に起きた良いこと、悪いことも起きたとおりに起きます。特に後者はあなたや過去の時点での、あなたがお会いしたい人物には非常に不愉快、不都合な出来事である可能性が非常に高いです。
しかし、その不都合な出来事を回避させるようなことは、おやめください。それは、歴史を意図的にあなたが変えることになります。
もし、そのような行為をされた場合、あなた様が現実世界に戻られた際にそれまでとは異なる事象が発生していても、当店では責任を負いかねます。
え……? 何? マジで……何、これ……怖い……もん、なん?
でも……。
不意に陽乃の顔が浮かんだ。アイツの小さい頃……見れるんやろうか。見れるんなら、見てみたい……!
「大丈夫でしょうか?」
オレはニカッと笑って言うた。
「もちろん!」
「では。どうぞ」
そう言われたのは、廊下に出る、いま入ってきたばっかりの教室のドア。
「出るんですか?」
「はい」
なぁんや……よぉわからんけど。ま、いっか。
そうやってドアを開けた瞬間やった。
「5階、おもちゃ・子供服売り場でございます」
は? 5階?
おかしいやろ。七海高校は4階までしか……。それにおもちゃ、子供服って……。
「ちょっとこれ……!」
振り返ったときには、もう教室はなかった……。そのまま、目の前のエレベーターのドアが開く。そこは、紛れもなくデパートの雰囲気漂う場所やった。
「お?」
と、エレベーターの目の前に、女の子がひとり。そして、その目にはなぜか涙がいっぱい。
そして。
「うわあああああああああああああああああ―――――ん!」
うわあああ! めっちゃうるさい! なんで泣くの!? オレ何もしてないいいいー!
「ママァ、ママァ! マーマー!」
うわわわわ、わかった、お願いやから泣きやんで!
えぇっと、うわぁ、どないしよ! と、とりあえずアレや! 変顔や!
「ほーら! 見てみて!」
「……。」
どないや! 変な顔! オレの渾身の変な顔や!
「あは……あはは! 変なお顔!」
よかったー! 笑った!
「どないしたん!? お母さんは? ひとり?」
「うん……」
女の子は寂しそうにうなずいた。もしかして、迷子かなぁ……。
「お名前は?」
「ひなの……」
えっ?
「なんて?」
「あさくら ひなの」
まさかの、出逢いです……。