第06話 泣き虫Boy[6] 抱き締めたい
「……なんか、ドキドキする」
翌日。私とみーやんは、みーやんの自宅前にいた。相変わらず枯れっぱなしのお花とかが並んでいて荒れている庭。私とみーやんは門の前に立ち、とりあえずインターフォンを鳴らした。
けど、応答がない。
お留守かな?
みーやんが門を開けて駐車場を覗き込んだ。
「お母さんの自転車がない」
そっか……。じゃあ、やっぱりお出かけしてるのかな。
そんなことを考えてるうちに、みーやんが玄関横の植木鉢(この植木はまだ枯れてなかった)をそっと持ち上げる。
「あ、やっぱりあった」
そこには家の鍵らしきものが置かれていた。みーやんはそれを手にして、ガチャガチャと慣れた手つきで鍵を開ける。
「開いたよ、お姉さん」
そっか。それはよかった。
ん?
「入らないの?」
え? いやいや!
だって私、今までみーやんの家の前に行ったことはあるけど、入ったことはないんだもん! それにおばさんだってお留守だし、だ、だいいち私まだきちんとご挨拶を……。
ん?
落ち着いて、私。
いま目の前にいるみーやんは小学生じゃない。別にこのときのみーやんとお付き合いは……してないし。そもそも、この時代の私とみーやんに面識はない。
緊張するだけ損じゃない。
私は深呼吸をして、家の中に入った。
「うわぁ……」
ある程度覚悟はしていたけど、なんていうか……スゴい。これはゴミ屋敷状態じゃない。
「……。」
みーやんもこれにはショックを受けてるみたい。うん! ここは私の頑張りどころだね!
「亮平くん!」
私の大声にみーやんが驚いて小さく声を上げた。
「掃除! するよ!」
私はゴミ袋をみーやんに手渡し、私もそれを手にとって掃除を始めた。
1時間もすれば、あれだけあったゴミも片付いてくる。私は掃除をみーやんに任せて、洗い場に溜まった食器類を洗うことにした。
そうこうしていると、ふと気づくとみーやんの掃除の手が止まっていた。私は食器を洗い終えて、すぐにみーやんのそばへいく。
「コーラ! ちゃんと掃除……」
みーやんが手にしていたのは家族写真だった。笑っているみーやんのお母さん。お父さん。そして、みーやん。
「お母さん……」
そんなみーやんの声が震えていた。私は傍に座り、みーやんのまだまだ小さな頭を撫でてあげる。
「ねぇ。お姉さん」
「なぁに?」
「家……掃除したら、お母さん喜んでくれるかなぁ?」
「もちろんじゃない。こんなに亮平くんが頑張ってるんだもん! お母さん、きっと褒めてくれるよ!」
「だと嬉しいなぁ……」
大丈夫だよ。きっと。
根拠なんて何もなかったけれど、こうすることできっと何かが変わる。私はそう確信していた。
だけど。
次第に外が暗くなってくる。いったい、お母さんはどこへ行ったんだろう……。
「……。」
よく考えてみれば、弟さん。生まれたばかりの弟さんもいない。なんでだろう。
「お母さん……僕のこと……」
次の言葉に心臓が止まる思いがした。
「いらなくなったのかな……」
私は驚いてみーやんのほうを見る。
「なんでかな……。僕が、ワガママだったからいげながったのがな……!」
ち、違う。そう言ってあげたいのに、言葉が出ない。
「嫌だよ……ゴメンなさい、お母さん、ゴメンなさい。言うことききます! 好き嫌いしません! 弟の面倒見るよ! お母さんのてづだいずるがらお願い、僕のこといらないなんでいわないで~……」
やだ……やだ!
「もうやめて!」
私はみーやんの体を思い切り抱き締めた。
「……お姉さん……」
「みーやんは悪い子じゃないよ! こんなに優しい子だよ! こんないい子のお母さんが、そんなことするわけないじゃない! ダメだよ……そんなこと言うの、絶対……」
驚くほど、スムーズだった。
みーやんが、小さなみーやんが、私の体を抱き締めてくれた。
「……ありがとう」
ううん。
いいの。
私、みーやんの為ならなんだってできる。
君の笑顔を、見るためなら……。
そのときだった。
ドサリ、と何かが落ちる音がした。
驚いて私は音のしたほうを見る。みーやんも、同じように。
「……亮平?」
そこには、みーやんのお母さんが、立っていた。