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第03話 泣き虫Boy[3] 無謀な挑戦



 育児ノイローゼの話を聞いた次の日。私はみーやん……の家の前にいた。

 ちなみに昨日の晩、私は小田急七海駅近くにあるビジネスホテルに宿泊した。なんでかわからないけど、財布には比較的お金に余裕があった。あのホテルならあと4泊はできそうなくらいのお金はある。そんなに学祭にお金は持ってきてなかったはずだけど。

 別に今さら、不思議なことが起きても驚かない。もう十分、びっくりすることは起きてるんだから。

 けれど、家の前まで来たのはいいけどそこから一歩が踏み出せない。

 インターフォンを押してもみーやんをどう呼び出せばいいのかわからない。おばさんに事情を話しても赤の他人の私の話なんて、単に怪しいだけだ。

 そもそも、みーやんが私のことをどこまで信頼してくれるかは未知数じゃない。本当に変な人になってしまう可能性だってある。

 どうしよう。警察とかに通報されたら。

 いやいやいや。変に思われないために、こうして七海高校の制服を着てるんじゃない。しばらくすると、階段の踊り場で部活へ行く途中の高校生に出会った。なんか髪型、変。あ、そっか。そりゃそうよね。7年近く前に来てるんだもん。流行とかが違うわけだし。

 そんなことはどうでもよくって。

 ……。

 あれ?

 いま……。

 私が慌てて確認すると、確かに彼女たちの制服には小さく「七海市立七海高等学校」の文字が縫われていた。でも、制服は明らかに違う。

 そこで私は思い出した。ナナコウの制服が今の形になったのはつい4年前。まだ、この時点での制服は前の制服なんだ。つまり、私が着ているのはどこにも存在しない制服。これじゃあ、既に制服じゃない。

 どこをどうとっても怪しい人。私、どうしよう。

 と、そのときだ。

「あのぉ……何か御用でしょうか?」

 ハッとして振り返ると、おばさんの妹さんが怪訝そうな様子で私を見ていた。

「あっ、あ、こんにちは! あの……私、実は」

 私が戸惑いながら説明しようとしていると、中からヒョッコリみーやんが顔を出した。

「あっ。おねーさん。どしたの?」

 私もおばさんも呆気に取られている。私が呆気に取られている場合じゃないんだけど。

「亮平くん、お姉さんと知り合い?」

 みーやんがうなずいた。

「公文で一緒! ね、おねーさん!」

 私は半分パニクりながらも、うんうんとうなずいた。

「そう……。心配して来てくださったんですか?」

 おばさんの言い方は事情をご存知なんですね?という意味合いがどうも含まれてるような感じだった。私は一応、知っている。なので、うなずいた。

「ありがとうございます」

 おばさんは深々とお辞儀をする。

「ねぇ、おばさん! おねーさんとちょっと遊んできていい?」

 屈託のない笑みでそういうみーやん。おばさんはすぐ了承してくれた。それからみーやんに連れられて、団地内にある公園に私たちは移動した。

「で?」

 突然、みーやんが言った。

「なんなの? おねーさん。昨日から」

 え。なんなのって。

 私、あなたが心配なんですけど……いやいや、その前に私、小さい頃のあなたに会いに来たかったわけて……。あぁ、でもそうか。いま目の前にいるのは小さい頃のあなたなんですね。

 あれ? 私、何言ってんの? っていうか、何がしたかったんだろう

「俺に何か用事?」

 用事がないわけではない。あるといえば、ある。けど、私の用事と言えば「小さい頃のみーやんに会う」だけ。それだけ。これ以上もこれ以下もない。どうしろっていうんだろう。

 あれこれ考えていたら、ますます怪しまれる。仕方なく、私は自分の気持ちに素直に従って言った。

「いやぁ、最近元気にしてるのかなぁ? なんて思って会いに来たの!」

「俺……お姉さん知らないんだけど……」

「……。」

 そうよね。私が一方的に用事あるだけで、みーやんにはないわけで……。そんでもって、この時私たちはまだ出会っていない。

「そうだね」

 私はもう変に思われてもいいと思い、こう言った。

「でも、もうしばらくしたら、お姉さんとあなた、仲良くなるんだよ?」

 みーやんがどれに反応したのかはわからないけど、パッと顔が変わった。

「本当?」

 私は笑顔で答える。

「うん、本当だよ」

「……わかった」

 小学生って、こんなに純粋なんだろうか。驚いた。

「ねぇ。お姉さんと亮平くん、ずーっと前から仲が良かったことにしない?」

 キョトンとするみーやん。そりゃそうよね。普通なら、そんな反応になる。

「どうして?」

「えーっと……」

 理由なんて考えてもなかった。私は10秒くらい黙り込んで、こう言った。

「お姉さん、あなたと遊びたいから!」

「……。」

 ダメ? この理由。

「わかった」

 まだ心底信頼されているわけではなさそうだけど、ちょっとだけ彼の警戒心が薄くなった気がする。

「どこで遊ぶ?」

「そうだなぁ……そうだ! TDLは!?」

「……?」

 あれ? 反応薄い?

 ……もしかして、この頃ってTDLって言わなかったとか? いまえーっと……2000年。言わないんだろうか。あ。ディズニーシーまだないじゃん!

「東京ディズニーランド行こうか!」

「ホント!?」

 みーやんの笑顔がパァッと笑顔になる。それを聞いたみーやんは「早くおばさんに言って行こうよ!」と私の手を引く。

「ちょっとちょっと! 今日行くの!?」

「うん! 今から、今から!」

 こうなると止められないだろう。大丈夫、そんなに時間はかからないだろう。まだ時刻は9時半。

 おばさんの妹さんに私とみーやんで一所懸命話をした。友達に過ぎない女子高生、それも初めて見る女子高生と小学生だけでTDLなんて、普通に考えればなかなかすぐにOKは出せない。事実、おばさんはだいぶ渋っていた。

 けれど、おじさんが言った。

「言っておいでよ。亮平も、最近遠出していないだろう?」

 それが決定打になった。

 すぐにみーやんはお出かけ用にお着替え。

「宮部さんは?」

 あ。私、制服じゃん。どうしよう。私服……。ま、いっか! 考えたって始まらない!

「私、これで行くよ!」

 おばさんが驚いた顔をする。

「ダメよ! 制服じゃないの。入れてもらえないかもしれないわ」

 そういうと部屋の奥に入って行き、ちょっと古めかしい(といっても、2000年だし仕方がない)服を私に貸してくれた。家が遠いことを伝えると、時間がもったいないからここで着替えて行ってとまで言われたのだ。普通、ここまでしてくれるかな……とも思ったけど、お言葉に甘えることに。

 部屋も借りて、なんとか着替えを終えた私たちはこうしてTDLに向かうこととなった。

「楽しみだね!」

 満面の笑みのみーやんの小さな手を引いて、私は小田急の駅へと向かって二人で歩いていった。





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