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第02話 泣き虫Boy[2] 君の名前



<登場人物>

挿絵(By みてみん)

宮部由美子。亮平の小学校時代へタイムスリップしているのだが、確信が持てない中、亮平と出会い戸惑っている。


挿絵(By みてみん)

幼少期の三宅亮平。小学校4年生。しかし、おそらく自宅と思われる場所も現代とは異なり、苗字も異なるという謎が……。


――――――――――――――――――――――――


 み、みーやんだ。

 間違いない。この、何かを射抜くような視線。ビックリした。みーやんって、小さい頃からこんな感じだったんだ。

 モテてるのかな。モテるだろうな、これは。

「何か用? うちに」

「え? うち?」

 私は驚いてすぐ傍のドアを見た。そして、表札を。

 ここは間違いなく、団地だ。けれど、みーやんの家は……一戸建てで……そもそも、この団地がある高見が原じゃない。関宮町のはず……。なんで? なんで?

「うん。うち。そこ」

 明らかにみーやんと思われる少年はハッキリとそう言った。けれど、私は聞かなければいけない。

「あのさ……あなた、亮平くん……?」

「え?」

 みーやんの顔が変わる。

「なんで……俺の名前、知ってんの? あんた、誰?」

 知っているはずのみーやんの顔ではなかった。誰なんだ、アンタ。疑うような目つき。これじゃあまるで、本当に私、変な人。

「あ、そっか」

 けれど、やはり幼いみーやんはすぐに気づいた。

「表札に名前、あるもんね」

「え……あぁ、うん。そう! そうなの!」

「そっか。で、ウチに何か用?」

 やっぱりそこに戻ってきちゃうか……。まさか、私が7年後の未来から来て、小さい頃のあなたに会いに来ました、なんてワケのわからないこと言えないし……。

「ううん! 私、この団地に友達いるから遊びに来たの。その帰り」

「ふーん……ウチに用はないんだ?」

 ジッと私を見つめる、純粋な目。

「うん! あ、私ここに立ってたら邪魔だよね~。ゴメンね!」

「いや、別にいいんだけど……それじゃ」

 みーやんはそう言うと家に入っていった。松本という表札の掛かった家に。バタン、という重い金属の、古い団地特有のドアが閉まる音が無機質に階段に広がっていく。

「……。」

 この子は誰なんだろう。

 私が会いたいのは、みーやんなのに。

 でも確かに、目つきはみーやん。雰囲気もみーやん。何より、名前が亮平ではないか。けれど、その亮平はいま、この団地に住んでいる。

 訳がわからない。

 私、もっとタイムスリップして昔のみーやんに会えたら、楽しいって思ってたのに。変なところに飛ばさないでほしいな。

 ……。

 そうだ。

 今からでも、みーやんの家に行けばいいんじゃない! ひょっとしたら、間違って別の亮平くんのところに飛ばされちゃったかもしれないじゃない!

 そうだ、そうだ!

 私は思わず笑顔になって、走り出していた。


 けれど。


 関宮町のみーやんの家に着いてから、覗き見みたいな形で見えたのはあまりにも衝撃的なものだった。

「何……これ……」

 外観は、みーやんの家。だけど、お庭が荒れ放題。草がボウボウで、木がそのボウボウの草畑みたいな場所から伸びている蔓にまみれて、どこからが草でどこからが木かが全然わからない。

「……!」

 赤ちゃんの鳴き声がした。私は衝動に駆られて、ちょっと傷んでいた塀の隙間から家の中を、悪いとは思いつつ覗きこんだ。

 グチャグチャの部屋。全然、片付けられていない。何度かみーやんの家に遊びに行ったから覚えてる。これは間違いなく、みーやんの家。なのに……何があったの?

 グチャグチャの部屋の中に、赤ちゃんがいた。無造作に寝転んでいる。いや、そのまま放りっぱなしにされている感じだ。傍には、放心状態で座っているみーやんのお母さんの姿があった。当たり前だけど、今より若い。なのに、疲れて今より年を取って見える。

「……。」

 頭が真っ白になった。何、これ。何が、起きてるの?

「ちょっと、アナタ」

 驚いて振り返ると、この人もなんとなく見覚えのあるおばさんが立っていた。

「何やってるの?」

「あ……えっと……その……私」

 咄嗟にウソが出た。スムーズに。驚くほどに、スムーズに。

「亮平くんが通っている、公文で一緒の……」

「あら……そうなの」

 おばさんの目が一気に同情じみたものに変わった。私はそれに安心して、おばさんに聞いた。

「あの……亮平くんは?」

「亮平くんはね。今は、高見が丘の団地にいらっしゃる、お母さんの妹さんのところにいるのよ」

 高見が原……。間違いない。さっきの団地の松本亮平くんは、みーやんだったんだ。

「ど、どうして急に?」

「……誰にも、言わないでね? まぁ、このご近所さんはだいたい知ってるんだけど」

 そっとおばさんが私に耳打ちした。

「奥さん、育児ノイローゼなのよ」


 育児ノイローゼ。


 私にはとてもとても遠い言葉だったそれは、ズシリと胸の奥に響いた。









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