第10話 さぁ、どっちがやかましい?[3] 帰る方法がない
<登場人物>
幼少期の朝倉陽乃。3歳という幼い年齢にも関わらず、ひとりでデパートに遊びに来た挙句に迷子になって、翔と遭遇した。
佐野 翔。タイムスリップ(?)した先で、幼少期の陽乃と遭遇する。
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屋上プレイランドへ行くと、陽乃と変わらない年齢の子たちがキャッキャッと歓声を上げながら遊んでいた。
「ひなのちゃん、何に乗りたい?」
「汽車!」
陽乃は真っ先に答えた。汽車とは、このプレイランド内をグルリと一周する、小さな小さな汽車のことのようや。
「そうか、そうか。ほな、あれ乗ろか!」
「うん!」
陽乃が小さな手を握り締めてトコトコと走り始める。
「すいませーん。この子、ひとりお願いします」
すると陽乃が手を引っ張った。
「ひとりいや―! お兄ちゃんもー!」
えぇ!? ちょ、ちょお待てや陽乃! オレもう18歳やで!? 汽車ぽっぽはないわぁ……。
と思ったけど、考えてみればこの陽乃は3歳。オレの知ってる陽乃ではない。3歳の子が、ひとりでデパート来て、迷子なって、相当心細い中でオレに会って、一緒におるわけで。そりゃまぁ……ひとりは嫌ですよね。
係のお兄さんに聞いてみた。
「すいません……。オレみたいなんでも、一緒に乗ってよろしいですか?
「いいですよ。いとこさんですか?」
「あ、まぁ、そんなとこです」
制服姿やからか、ちょっと怪訝そうにしたけどお兄さんは汽車に乗せてくれた。
ポッポー!という音に陽乃は大興奮。しかも先頭やから、もう大変。
ゴトンゴトン、ゴトンゴトン、と可愛らしい音を立てて汽車は走っていく。そういえば……小さい頃の記憶はほとんどオレにはないけど、こういう汽車に乗ったような記憶は、なんとなーくある。
しかし、小さい子ってのは超パワフル。どうやら今の季節は8月と夏真っ盛りのようで、秋口やったオレの世界(?)ではもう制服が冬服にシフト済み。せやから暑い暑い。汗だっくだく。
もちろん、陽乃も例外ではない。ただ、汗だくになっても陽乃は元気いっぱい。次はあれに乗りたい、これに乗りたい……。オレも置いて行かれへんように、必死に陽乃の後を追った。
最初はいっぱいいっぱいやったけど、次第に楽しくなってきた。いつの間にか時間も忘れて、陽乃と一緒になってはしゃいでた。
「ねー、お兄ちゃん! 次、あれ乗ろう!」
「あ、あぁ……」
陽乃がトコトコと先を歩いていく。
いや……ちょっと待ってくださいな、陽乃さん。
ちょっと……足が……早い……。
あれ?
なんか……暑い……。
「……。」
あれ? オレ……どないしたんや?
「お兄ちゃん……大丈夫?」
目に涙を溜めてウルウルしてる陽乃が目の前におった。
「オレ……」
迷子センターの職員さん(っていうか、慎也のお母さん)がタオルを取り替えてくれた。
「暑さで倒れたのよ、あなた。暑いのにそんな分厚い制服着るから……」
そう言ってクスッと笑うおばさん。
「ね~。可愛い陽乃ちゃんに心配かけて、ダメなお兄ちゃんね~」
「ね~」
陽乃が首を傾けて笑いながら言う。
「めっ!」
うわぁ。こんな風に怒られたん、10年……いや、もっとか? もっとや。とりあえず、ある意味新鮮。
「ひなのちゃん……お母さんは?」
「もうすぐお迎え来るよ。お兄ちゃんは?」
「お兄ちゃんも……そろそろ、帰らんとアカンなぁ」
「でもあなた。どこから来たの?」
どこから?
……。
マズい。どう言おう。
タイムスリップしてきました、なんて言われへんし……。
「えー……あれです。こっちに進学しようと思ってるんで、ちょっと見学に」
だいぶボカした。せやけど、この程度でも十分やろう。
「あら! そうだったの。じゃあ帰りにこの子に会ったの?」
「そうです。な~」
「ね~」
ヤバい。かわいすぎる。
いやいや、そうじゃなくて。
「帰りの電車は?」
適当に言うとけ。
「6時15分の新幹線です」
「えっ?」
おばさんが驚いて振り返る。
「どうするの? もう6時45分よ?」
「えっ!?」
これにはマジで驚いた。ちょ、そしたらこっちの世界来てから4時間経ったってこと? え? オレ、戻れるん?
そのときやった。
「陽乃!」
迷子センターに陽乃のおばさんが駆け込んできた。少し安堵するような、けど、これからオレはどうしたらいいんやろう。そんな焦燥感が襲ってきた。
それとは裏腹に、母に会えた陽乃は嬉しそうだ。とにかく、陽乃の笑顔を見られたんやから、オレはもうそれだけでも十分。これからどう戻るかは、また考えよう。そんなことを考えてたら。
「お礼に、夕食をごちそうさせてください」
と、陽乃のおばさん。
……。
まだしばらく、帰れそうにないなぁ…