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黒白前夜 ――盤上遊戯リバーシ

作者: 黎明
掲載日:2026/04/13

これは、白と黒が反転し合う世界――盤上遊戯リバーシの物語。

反転の瞬間を描いた短編です。

 

 風が吹いた。

 白い髪が揺れる。

 左に立つ黒側の男。一人ではどうしようもない。もう一つ、白が居れば――右に、黒が立った。

 ああ、挟まれた。

 身体が溶ける。世界に沈んだ。世界が引っ繰り返る。

 白から黒へ。視界が変わる。

(はん)を確認。白が黒になりました』

 ――黒に染まった。

 黒い粒子が身体を構成する。

 口角が吊り上がった。

 何処までも。可笑しいくらいに持ち上がる。

「――ようこそ。黒側へ」

 左の黒男が――同胞が言う。

「あははっ、白が黒になる。この瞬間って、いつ見ても最高だよね~!」

 右の同胞が、白を挟んでいた筈の黒が笑う。先程まで白黒だったそこには、黒しか居なかった。

「そういう物なんだ」

「そぉだよ!後で、見せてあ・げ・る」

 ぱちりとウインクする右の。



 暫くして、終了の合図が鳴った。

『盤上が全て埋まりました。ゲームセット』

 そのアナウンスを合図に、体を黒の粒子が包み――移動した。

 周囲に居るのは全員黒。白の姿は欠片も無い。

 己の髪も、黒く染まっていた。身体を見下ろすと白かった服が黒に変わっている。きっと瞳も黒になっているだろう。

「お~、さっきの子だよね?」

 先程挟んできた片方の声。

 振り返ると――黒だった。

 黒髪濃灰の瞳、薄らと小麦色の肌。小柄な体躯に幼い顔。服は全て黒。そして黒のリングを腕に嵌めている。

「改めて、ミナノで~す。よろしくぅ」

 己に向けてへらりと手を振って見せた。

「ヒガネ。まあ、よろしく」

 黒髪濃灰の瞳、薄ら小麦色の肌。すらりとした体躯に涼やかな顔。黒縁の眼鏡が知的な空気を助長していた。リングまで、ミナノと全く同じ服装をしたもう片方の男が言う。

 先程挟まれた二人だ。

「んで、君は?」

 可愛らしく首を傾げるミナノ。

「ハンカです」

「おっけ~、ハンカね。案内するから一緒行こ?」

 小さな片手を差し出され、取った。

「ヒガネ、お腹減った~。さっさと出て、ご飯食べよ。ハンカも減った?」

「案内まだだし、スコア受け取ってからな」

 呆れた様に言うヒガネ。

「ち、は~い」

 舌打ちした後、にこりと笑った。

「あ、ミナノとヒガネでいいよ?」

「わ、分かった・・・。ミナノ、ヒガネ」

 二人は満足そうに微笑んだ。

「よし、さっさと行こう!俺のお腹が限界!」

「はいはい」

「長期戦だったしね」

 苦笑が漏れる。

 今気づいたが、自分も割と空腹だった。

 カウンターへと手を引かれ歩き出す。


「そういえばさ、ハンカって向こうでは反取ってたの?」

 不意に、ミナノが口を開いた。

 反――駒を返した事。

「あー、最高は2反だったけど・・・」

 最高反――一度の本盤で取った反の数。

 2反、というのは一般的な数。だから言うのは少し恥ずかしかった。

 まあ、黒になったから反もリセットされてるけど。


 カウンターでスコアを受け取った後、確認する間も無く外へ出た。

 というのもミナノが騒いだから。限界らしい。

 そういうハンカも、結構減ってきたからいいのだけど。結果は分かり切っているから確認の必要もないし。

 街は黒かった。白の時とは違って、黒系統で統一された町。

 引かれるままに歩いて行くと、賑やかな大通りに出た。


「あ、ハンカ。食べたい物ある?」

 ここら辺、飲食店多いんだよ~とふわふわ笑う。

「美味い店多いんだよ。ミナノ、結構詳しいし」

 大体伝えたら後投げていいから、と聞き手に回っていたヒガネも続けた。

「え、ん-・・・」

 いざ聞かれると何も浮かばない。

「二人のおすすめ、じゃ・・・駄目かな?」

「いいよ、ミナノ君にお任せあれ!」

 きょとんと大きな瞳を瞬かせた後、ミナノは笑顔になって言った。

「二人って言ってるだろお前は・・・食べられない物とか、ある?」

 呆れた様に肩を竦め、此方に問いかけてくるヒガネ。落ち着いた声が涼やかな容姿と合わさって心地いい。

「特に無いよ。お任せします」

「そう、ならいいけど。ミナノ、食べたい物」

 此方に向けられていた視線が横にずれ、ミナノを見る。

「ん~・・・あ、ハンバーグ!お肉食べたい!」

「だと甲研亭(こうけんてい)?近いし」

「だね!お腹が持ちますよーに」

 両手で腹を擦り、眉を下げる。

「・・・はやく行こ、やっぱ我慢無理!」

 ハンカの手を掴む。小柄な体躯を活かして人混みをかき分け、すいすいと進んで行くミナノ。

 慌ててついて行くが、距離が開いてしまって繋がれた腕が少し痛い。

 ミナノすばしっこいなおい。

「あ、おい。ハンカ掴んだまま行くな」

 後ろを振り返ると、慣れた様子で追いかけてくるヒガネ。

 今までに何度もあったんだ・・・ヒガネお疲れ。

「ねえ、は~や~く!」

 若干遠い目になりつつ走るハンカと呆れて走るヒガネ、それを急かすミナノという意味分からん空間が続いていた。


「ほんと、四隅様(よすみさま)って格好いいよね~!憧れだわ」

 すれ違った黒の女性の声が、何故か耳に残った。

閲覧ありがとうございました。

ゲームの世界に入る話を見て思いついたやつです。連載と悩んで取り敢えずの短編投稿、楽しんでいただけたら幸いです。

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