黒白前夜 ――盤上遊戯リバーシ
これは、白と黒が反転し合う世界――盤上遊戯リバーシの物語。
反転の瞬間を描いた短編です。
風が吹いた。
白い髪が揺れる。
左に立つ黒側の男。一人ではどうしようもない。もう一つ、白が居れば――右に、黒が立った。
ああ、挟まれた。
身体が溶ける。世界に沈んだ。世界が引っ繰り返る。
白から黒へ。視界が変わる。
『反を確認。白が黒になりました』
――黒に染まった。
黒い粒子が身体を構成する。
口角が吊り上がった。
何処までも。可笑しいくらいに持ち上がる。
「――ようこそ。黒側へ」
左の黒男が――同胞が言う。
「あははっ、白が黒になる。この瞬間って、いつ見ても最高だよね~!」
右の同胞が、白を挟んでいた筈の黒が笑う。先程まで白黒だったそこには、黒しか居なかった。
「そういう物なんだ」
「そぉだよ!後で、見せてあ・げ・る」
ぱちりとウインクする右の。
暫くして、終了の合図が鳴った。
『盤上が全て埋まりました。ゲームセット』
そのアナウンスを合図に、体を黒の粒子が包み――移動した。
周囲に居るのは全員黒。白の姿は欠片も無い。
己の髪も、黒く染まっていた。身体を見下ろすと白かった服が黒に変わっている。きっと瞳も黒になっているだろう。
「お~、さっきの子だよね?」
先程挟んできた片方の声。
振り返ると――黒だった。
黒髪濃灰の瞳、薄らと小麦色の肌。小柄な体躯に幼い顔。服は全て黒。そして黒のリングを腕に嵌めている。
「改めて、ミナノで~す。よろしくぅ」
己に向けてへらりと手を振って見せた。
「ヒガネ。まあ、よろしく」
黒髪濃灰の瞳、薄ら小麦色の肌。すらりとした体躯に涼やかな顔。黒縁の眼鏡が知的な空気を助長していた。リングまで、ミナノと全く同じ服装をしたもう片方の男が言う。
先程挟まれた二人だ。
「んで、君は?」
可愛らしく首を傾げるミナノ。
「ハンカです」
「おっけ~、ハンカね。案内するから一緒行こ?」
小さな片手を差し出され、取った。
「ヒガネ、お腹減った~。さっさと出て、ご飯食べよ。ハンカも減った?」
「案内まだだし、スコア受け取ってからな」
呆れた様に言うヒガネ。
「ち、は~い」
舌打ちした後、にこりと笑った。
「あ、ミナノとヒガネでいいよ?」
「わ、分かった・・・。ミナノ、ヒガネ」
二人は満足そうに微笑んだ。
「よし、さっさと行こう!俺のお腹が限界!」
「はいはい」
「長期戦だったしね」
苦笑が漏れる。
今気づいたが、自分も割と空腹だった。
カウンターへと手を引かれ歩き出す。
「そういえばさ、ハンカって向こうでは反取ってたの?」
不意に、ミナノが口を開いた。
反――駒を返した事。
「あー、最高は2反だったけど・・・」
最高反――一度の本盤で取った反の数。
2反、というのは一般的な数。だから言うのは少し恥ずかしかった。
まあ、黒になったから反もリセットされてるけど。
カウンターでスコアを受け取った後、確認する間も無く外へ出た。
というのもミナノが騒いだから。限界らしい。
そういうハンカも、結構減ってきたからいいのだけど。結果は分かり切っているから確認の必要もないし。
街は黒かった。白の時とは違って、黒系統で統一された町。
引かれるままに歩いて行くと、賑やかな大通りに出た。
「あ、ハンカ。食べたい物ある?」
ここら辺、飲食店多いんだよ~とふわふわ笑う。
「美味い店多いんだよ。ミナノ、結構詳しいし」
大体伝えたら後投げていいから、と聞き手に回っていたヒガネも続けた。
「え、ん-・・・」
いざ聞かれると何も浮かばない。
「二人のおすすめ、じゃ・・・駄目かな?」
「いいよ、ミナノ君にお任せあれ!」
きょとんと大きな瞳を瞬かせた後、ミナノは笑顔になって言った。
「二人って言ってるだろお前は・・・食べられない物とか、ある?」
呆れた様に肩を竦め、此方に問いかけてくるヒガネ。落ち着いた声が涼やかな容姿と合わさって心地いい。
「特に無いよ。お任せします」
「そう、ならいいけど。ミナノ、食べたい物」
此方に向けられていた視線が横にずれ、ミナノを見る。
「ん~・・・あ、ハンバーグ!お肉食べたい!」
「だと甲研亭?近いし」
「だね!お腹が持ちますよーに」
両手で腹を擦り、眉を下げる。
「・・・はやく行こ、やっぱ我慢無理!」
ハンカの手を掴む。小柄な体躯を活かして人混みをかき分け、すいすいと進んで行くミナノ。
慌ててついて行くが、距離が開いてしまって繋がれた腕が少し痛い。
ミナノすばしっこいなおい。
「あ、おい。ハンカ掴んだまま行くな」
後ろを振り返ると、慣れた様子で追いかけてくるヒガネ。
今までに何度もあったんだ・・・ヒガネお疲れ。
「ねえ、は~や~く!」
若干遠い目になりつつ走るハンカと呆れて走るヒガネ、それを急かすミナノという意味分からん空間が続いていた。
「ほんと、四隅様って格好いいよね~!憧れだわ」
すれ違った黒の女性の声が、何故か耳に残った。
閲覧ありがとうございました。
ゲームの世界に入る話を見て思いついたやつです。連載と悩んで取り敢えずの短編投稿、楽しんでいただけたら幸いです。
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