崩壊直前
「鼎!止まってって!」
鼎に引っ張られるまま、学校を出て家へ向かっていた。要は鼎に腕を引っ張られながら、内心イラついて鼎の背中に非難の声を浴びせた。
その声に鼎は立ち止まり、要も自然と立ち止まる。
鼎はクルッと要の方を振り向くと、見とれるほど綺麗な笑顔を向けた。
「要ちゃーん」
そんな鼎の男にしては高い声に、要はビクッと恐怖で肩を揺らした。鼎が要をちゃん付けするときは絶対何か不満を持っているのだと知っているからだ。
要は冷や汗を流して震えながら、自分は何かしたのだろうかと考えた。どちらかというと自分ではなくアノ転入生達がしたのだが、あの時の鼎は特に気にすることも無かったし怒ってる様子でもなかった。
だったら鼎は何を不満に思っているのだろう? 要の不安と疑問は募るばかりだった。
「要ちゃんさ~アノ転入生には関わんなよ?」
「は?」
てっきり自分に何か罵倒を浴びせかけるのかと思っていた要は、鼎のソノ言葉にまぬけな声を出してしまった。
関わるなと言われても同じクラスだし、しかも先ほどアンナ事が起こったのに関わる無いというは無理な話だ。しかも要自信アンナ事を言われても自分と同じ立場のあの兄妹に興味があるのは変わりない。
それなのに関わるなというのは 少し無理な話だと鼎に非難しようと口を開こうとした。
「要ちゃんが、アノ二人に興味があるのは手に取るように分かるけどさー。アノ二人は駄目だよー」
要が言葉を発する前に鼎が首をふりながらそう言った。その表情は鼎にしては珍しくどこか不安がっているようだった。
そんな鼎を見て要は目を丸くして驚いた。
今までに鼎がココまで不安になったことがあるだろうか・・・・。イヤあったとしても、ソレを絶対に表情にも表にも出さないのが鼎だ。そこはやはり双子だ要も鼎も素の感情を表に出すことはあまり無い。人に弱いところを見られるのを二人とも極端に嫌っているからだ。特に鼎は双子の妹である要にでさえ弱みを見せたらしないほど、素を出したくないのだ。
そのことを誰よりも知っている要は、鼎のソノ変異に心底驚いている。
「え。何で?どうして駄目なの?」
「だってアノ二人って「鼎君!要!」」
鼎の言葉を遮って後から、聞きなれた声が聞こえた。振り向くと睦が遠くから走って来ていた。それでようやく睦を置いてきたことに気づいた要は、睦に近づこうと駆け寄ろうとした。
しかし 睦の後ろにいる人物を見て足を止めた。
「あ。アレ?何で二人が・・・・・・」
要のそんな呟きに鼎も後ろにいる二人の人物に気づいて、顔を強張らせた。そんな鼎に要は気づくことなく二人の人物を呆然と見ていた。
睦の後ろに居た人物は 雅等黄兄妹だった。
走ってくる睦と違い二人はマイペースに歩いてくる双子。太陽はヘラヘラとした気の抜けるような笑みを浮かべ、反面陽彩は全くの無表情だった。
要の変な様子に気づいた、睦は一旦立ち止まって後ろを振り向いた。
「えぇ!何で二人がココにいるの?!」
(今気づいたのか)
どうやら睦は二人がいたことに今気づいたようだ。そんな睦の鈍さに要は呆れ思わずため息を漏らした。
「え?だってー俺たちの家もコッチ方向だし?」
太陽は相変わらずヘラヘラとした笑みを浮かべて言った。その言葉に睦は納得したようにうなずいた。
そして3人が要と鼎の所まで来ると、鼎が不満な顔をして双子を見据えた。
「何か用かなー?帰らないの?」
言葉自体は柔らかいが、殺気を含んでいた。それに気づいている要と睦は内心冷や汗をかいていた。それと反面雅等黄兄妹はその殺気に気づいているのか、いないのか・・・相変わらずの表情だった。
「ん?ちょーっとねー君の妹に用があるんだー」
「は?私ですか?」
太陽の言葉に要は首をかしげ、鼎は眉を寄せ眉間の皺を増やした。
そんなことに気にすることなく 太陽は要に近づくと、身長をあわせるように腰をすこし曲げ、要に顔をグッと息が掛かるほど近づけ要を見下ろした。
「アノねー俺と付き合ってくれない?」
「「「ハァ?」」」
平穏な毎日は誰かの気まぐれで 簡単に 崩壊するのだと 早く気づくべきだった