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不気味な転生  作者: ハイイ


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9/14

魔法的な

空気が、誰かに一気に絞められたように重くなる。


アモンドの表情が硬直し、口元がぴくりと動く。

騎士の一人が思わず咳払いをし、何事もなかったかのように振る舞おうとする。

もう一人の騎士は頭をそむけ、まるで景色が急に重要になったかのようだ。


ロベルトが瞬きをする。


「……いい質問だな」

そう言ったあと、彼自身も一瞬、固まった。


菊江は弦之介を見下ろし、二秒ほど沈黙した。


「消化や排泄は行わない」

彼女は真剣に答える。「血液はすべて駆動エネルギーに変換される」


千里はうなずき、考え込むように口元を引き締めた。


「なるほど、そうか」


馬は周囲を回りながら進む。時間が意図的に引き延ばされたかのように感じられる。緊張は消えないが、奇妙な“間”が生まれていた。


ロベルトは二人を見やる。


「自己紹介をしよう」

彼は言い、少し微笑む。「ロベルトだ。騎士団第三序列団長。牛肉が好きで、気性は穏やか。運は普通だ」


「菊江」

女は名乗る。落ち着いた口調で。「弓手。視力良好、腕力強し。今は少し疲れている」


菊江は二人に軽く頷き、優しい笑みを見せる。尖った耳が風で軽く揺れた。


「生きていること自体が、本当にすごい」


アモンドは背筋を伸ばし、先ほどの怯えた様子はどこへやら、元の自信満々の態度に戻った。


「ふん」

両手を腰に置き、アモンドは言った。「私はアモンド、天才型隊長。先ほどの戦術牽制、進路誘導、最後の爆薬判断、ほぼすべて私の指揮です」


千里は思わず振り向いた。


「待て、あんたさっき全力で顔面蒼白の悲鳴あげてたんじゃないの?」


「心理戦術だ!」

アモンドは即座に反論。「恐怖で冷静さを隠す、高度な技術だ!」


ロベルトは瞬きをし、頷いた。


「なるほど……わかった」


千里は一瞬呆れた。「本気で信じてるのか?」


「信じない理由は?」

ロベルトは堂々と言う。「ここに生きて立っていること自体が、何よりの説得力だ」


アモンドは得意げに鼻で笑った。


千里も背筋を伸ばし、真剣な顔で名乗る。


「海辺千里だ」


ロベルトは一瞬止まり、眉をゆっくり寄せる。


「……待て」

疑いの目で細める。「前に‘海里三千’って言ってなかったか?」


アモンドの顔が目に見えて歪む。


「ぷっ」

思わず吹き出す。


千里は表情を変えず。


「そうだ」


「で、今は?」


「それも俺だ」


ロベルト「?」


千里は一本指を立て、真面目な顔ででたらめを語り始める。


「命名学の問題だ。人は異なる社会関係の中で、自然に別名が生まれる。例えば家族名、戦場名、酒場名」

間を置き、語気を強める。「そして俺は、二重の自己認知を持つ人間だ」


アモンドが口を挟む。「もっとわかりやすく言ってくれ」


「結論として」

千里は真摯な笑みを浮かべる。「名前が二つあっても、別に不思議じゃない」


ロベルトは二秒ほど千里を見つめ、頷いた。


「……理屈としては納得だな」


アモンドは馬の背で、思わず体がずり落ちそうになった。


短い沈黙の後、千里は思い出したように手を上げる。


「ついでに質問です」

誠実な口調。「地域レベルの脅威に遭遇した場合、精神損失費や恐怖手当は出ますか?」


ロベルトは笑い。


「ない」


「医療費?」


「ない」


「命懸け慰労金?」


「口が多いな」


千里は馬上で崩れた。「この世界、容赦ないな」


菊江は隣で思わず笑い声を漏らし、しばらく止まらなかった。


その瞬間、地面に軽く乱れた振動が伝わる。


そして、地面が突然沈んだ。


今度は、さっきのような断片的な揺れではなく、胃が落ちるほど明確な下方向への感覚だ。


「来た」

ロベルトの笑みは瞬時に消えた。「全員、退避準備」


馬の蹄がほぼ同時に加速し、踏み込むリズムは一気に密になる。地表が沈み始め、下で何かが暴れていることを告げていた。


次の瞬間、地竜が土を破って現れる。


前回のような制御された浮上ではなく、完全なる狂暴。

鱗の間から暗色の液体が滲み出し、動きは不安定。咆哮には苦痛と怒りが混ざる。

体を何度も地面に叩きつけるが、半分ずつずれてしまい、まるで制御システムが狂ったかのようだ。


「状態がおかしい!」アモンドが叫ぶ。


「当然だ」ロベルトはすでに兜をかぶり、鉄の面越しに低く落ち着いた声で言う。「騎士団は準備なしの戦いはしない」


馬は彼らを安全な高台まで運び、急停車する。騎士は千里とアモンドを馬から降ろす。


「ここで待て」

一人の騎士が簡潔に告げる。「近づくな」


言い終わる前に、四頭の馬は反転して走り去った。


アモンドはようやく地竜の状態を把握した。

完全に瀕死だ。

死を悟ったうえで、復讐のためにやってきている。


鉄の矢が体内に残り、毒は血流に乗って神経を徐々に侵す。

鱗の下の筋肉は痙攣し続け、もともとの爆発的な力は無秩序な痙攣に変わる。


「啧、よだれを吐き始めたな」

アモンドは目を細め、冷ややかな幸災楽禍の声で言う。「あの鉄矢、ただの代物じゃないな?」


「騎士団仕様だ」

ロベルトは何気なく言う。すぐに参戦せず、「矢頭は中空で毒嚢内蔵、28種の毒。地中にとどまれば、墓場を選ぶようなものだ」


彼は待っていた。


決定打撃の瞬間を。


二人の騎士が左右から、地竜の攻撃範囲ギリギリを突進。

戦鎚と長槍が同時に振り下ろされ、殺傷は目的ではなく、制圧が目的。

三人目は側面から回り、痙攣の隙を狙って突き刺す。


すべての攻撃は、地竜が力を発揮する直前に正確に叩き込まれる。


地竜の動きは無理やり中断され、力を奪われ、巨大な体はリズムを失い、怒りの無秩序な咆哮を上げる。


尾を振り、左側の騎士を押し戻し、前爪を上げ、重心を前にかける。


「今だ!」


ロベルトが低く叫ぶ。

彼自身が投げ出された鉄槌のように、正面から地竜に突進。

全体重をかけた鋲付きハンマーが首筋に叩きつけられ、金属と鱗の衝突音は心臓に響くほど重い。


「見事だ」

千里は思わず口に出す。

その瞬間、自分がこの戦場で「演技の評価」の口調で言ったことに気づく。


地竜は痛みで猛反撃する。


一撃が早すぎた。


ロベルトは完全に避け切れず、巨大な衝撃で吹き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられる。

兜が地面にぶつかり、歯が軋む鈍い音がする。


「団長!」

騎士の声が初めて動揺する。


血が、兜の隙間から滲む。


千里の胸が一気に沈む。


次の瞬間、一人の騎士がロベルトに駆け寄り、小瓶を躊躇なく取り出す。


祈りも、迷いもない。


そのまま瓶を兜に叩きつける。


ガラスが砕け、粘りのある微光の液体が鎧の隙間から傷口に浸入。


ロベルトは地面を支えに立ち上がる。

重傷を受けたとは思えぬ、鮮やかな動作。


「……芽神の血か」

アモンドは息を詰めて呟く。


菊江は血袋を破り、弦之介に撒く。


「弦之介、最後の一矢だ」

彼女は弓の名を呼ぶ。


深く息を吸い、足を開き、体をわずかに前傾させる。

両手を弓にかけると、弦之介が急に張り、低く唸る。


弦が極度に張り、危険な熱気を放つ


弓を全力引く彼女。その弦を、弦之介も自分の力で引き込む。


二つの力が重なり、弦は危険な限界まで引かれ、低く連続する震えを発する。


菊江はすぐに放たない。


弦之介がさらに弦を引ききるのを待つ。


千里は目を見開く。


弓が“燃えている”のが見える。


火ではなく、極限まで張られた感覚。

弓身から熱気が立ち上り、弦は微細だが危険な震えを伴う。


「……失敗できない……失敗できない!!」


矢が放たれた瞬間、千里はまばたきする暇もなかった。


飛んだのではなく、撃ち出されたのだ。


空気が裂け、雷鳴のような轟音。

矢が地竜を貫くと同時に、鱗、骨、肉がほぼ同時に爆ぜる。

巨大な体が硬直し、すべての動きが瞬間停止。


そして轟音とともに倒れる。


「……失敗できない……」

ささやきは再び浮かぶが、前より小さく、夢の呟きのよう。

弦は完全に緩み、弓身の震えも止まった。


世界が静まり返る。


千里はその場に立ち尽くし、喉が乾き、心臓が痛む。


彼が初めて、“生命武器”の戦闘を完璧に目撃した瞬間だった。


魔法ではない。


奇跡でもない。


極端な理解と極端な協力の上に成立する、力。

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