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不気味な転生  作者: ハイイ


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準備完了

鍛冶師はため息をつき、テーブルの上に置かれた軍刀に手を伸ばした。刃は炉の火を映し、線が清潔で切れ味の良さを感じさせる。全体のデザインは、千里が新たに購入した紳士服にも意外と合っていた。


「この刀、元の値段は999金片だ。しかし、ここ『地獄』へようこそ、という歓迎の印として――君の手元にある98金片で頭金は足りる。残りは後で稼いで返せばいい」


「999金片? まさか脅し取ろうってわけじゃないよな? この刀、半端物とかじゃないよな?」

千里は眉をひそめ、真実を見抜いた顔で刀の柄を握り、皮肉混じりの声で問う。


鍛冶師の動作が一瞬止まった。炉の火が顔を照らすと、瞳が突然陰に覆われたように暗くなる。彼は手のハンマーを置き、低く声を出す。


「かつて、俺は仲間と肩を並べ戦った。剣と剣で互いを守り合い、連携は無敵だった。振るたびに、相手を生かすため――信頼と誓いの証だった」

鍛冶師は言葉を区切り、目を炉火に向ける。火の光が揺れるたび、記憶のように彼の顔を照らす。


「しかしある時……俺の武器が砕けた。その瞬間、隣の兄弟が倒れ、瞳に驚きと無念が渦巻いていた。怖い,俺は……剣を握ることもできず、一人では何もできなかった」

彼は鉄のハンマーを握り締め、関節が白くなる。声が震えた。


「その時誓った。二度と、他人にあの無力感を味合わせないと。だから身を引き、武器を鍛える道を選んだ。俺の手から出るすべての刀剣には、償いと、守りきれなかった想いが込められている」


鍛冶師はゆっくりと手を伸ばし、刀を千里の前に差し出した。


「この刀は、ただの刀じゃない。生命の重みを宿している。握る者は、この刀を疑う必要はない。堅牢さは生き延びる力となる……少なくとも、あの頃の私よりは頼れる」


千里は言葉もなく、手元の98金片をすべて差し出す。胸が熱くなる――使った金のせいだけではない、物語に心を揺さぶられた衝撃だ。鍛冶師は金片を受け取り、頷くと、さらに助言した。


「解毒剤の心配はあまりするな。自分で集めても、重荷になるだけだ。この地では、強者も多く、組む仲間も多い。他人の予備薬を借りるくらいで十分だ」

炉のそばで腕を組み、老練な目つきで言う。


「経験を信じろ。長くやっていれば、自然に『拝借』の技術は身につく。自分で背負いすぎる必要はない」


千里の目が輝く。これはまさに、彼向けの生存法則だ。


「薬を借りる……いい手だな。ハハ、合法的にサボる、ってのは俺向きかも」

千里は門口に立ち、振り返って言った。「ありがとう、兄弟。酒場に寄って、少し仕事探してくる


「ふん、無事に生き延びろ」

鍛冶師は微かに頭をそらし、小声で呟く。狡猾さも混じっていた。「生きて……借金は返すんだぞ」


千里は聞こえず、刀を握り締め、深く息を吸う。

この刀が、どれだけ荒唐な世界でも、自分の道を少しでも整えてくれている気がした。


酒場に戻ると、依頼掲示板は最も賑やかな時間帯だった。


人々は板の前で行き交い、指をさして低く相談し、時折紙を剥がし「これで決まり」と満足げな表情を見せる。千里は隅で咳払いし、隊長らしき中年の男を選んだ。


「ちょっと失礼」

千里はニヤリと笑い、「殴られ強い人材、要りませんか? 俺、安いです」


男は彼を上下から眺め、新しい服装と知らない顔に視線を止めた。


「長期委託だ」男性は首を振る。「少なくとも三ヶ月、途中で要塞に戻らないこと」


「我慢できる」

千里は付け加える。「食事や寝床も問わない」


「問題はそこじゃない」

男の声は平静だった。「来歴不明者は受けられない」


二つ目の隊もあっさり拒否。


「護送ルートは荒野を通る」

「新人?」

「無理」


三番目は話す余地も与えず、千里が近づくと紙をそっと剥がす。まるで千里に余計なことを見せないためのように。


断られるのは悪意じゃない。むしろ理屈が通っていて、逆らえない感じだ。


外見はゆるそうでも、実はリスクを細かく計算している。来歴も戦績もなく、住む場所さえ整ったばかりの新参者――長期任務では、まるでいつ爆発するか分からない火薬の塊のような存在だ。


隅に下がり、空いたテーブルに座る千里。笑みを徐々に引き、現実を思い知らされる。

背景も隊も、証明された戦績もなし。長期協力、互いに命を預け合う世界では、金がないよりも致命的だった。


「……だよな」

千里は低く呟く。「俺が隊長なら、いつ『ドカン』とやらかすかわからん奴は連れて行かねぇよ」


机を見つめ、しばし考え込む。

昨日まで笑っていた「騎士になるか」なんて案を、本気で検討し始める。


その時、千里は向かいの席に人がいることに気づく。


痩せた少女、古びたマントに覆われ、フードで顔の大半を隠すが、深緑色の髪が一筋、乱れたまま覗く。


彼女の前には何もない。酒も、食べ物も、カップすらない。


千里と同じ状況だ。


千里は目を細める。


「同類レーダー」が脳内で鳴った。

気質が近いのではなく、現実に押し込まれた角の共有感だ。


少女は視線に気づくと、鋭く振り向いた。


「何見てんの?」

先手を打つ。傲慢かつ理にかなった口調。「埋もれた天才、見たことないの?」


千里は一瞬固まるが、笑ってしまう。


「見たことある」

正直に答える。「鏡を見たときにな」


少女は鼻で笑い、無遠慮に白目を剥き、背もたれに寄りかかる。腕を組む。


「ふん、やっぱりここの土着顔ね」

飽きたように言う。「私はアモンド。他の地域から来た。ここ、目が肥えてない人ばっか」


「分かる」千里は頷く。「俺も断られた」


アモンドの目が一瞬光るが、すぐに感情を押し込み、高慢な表情に戻す。


「運がいいわね」

軽く言うだけで施しのよう。「ちょうど、盾役が欲しかった」


「で?」千里は問う。


「だから仕方なく」

アモンドは顎を上げ、四文字を強調。「チームに入れてやる。条件は命令に従うこと、自分勝手しないこと、あと――」

視線を行き来させ、「俺の足を引っ張るな」


千里は眉を上げ、口元に挑発的な笑みを浮かべる。


「指示に従う?」

椅子に寄りかかり、脚を組む。「悪い、俺は小さい頃から指揮する側だ。同じ拒否された立場で、俺は隊長の座をもらう」


アモンドは唇を噛み、苛立ちを隠しきれない。


「ふん、自惚れ狂い。新人として、何も知らんのに、来たばかりで隊長になれると思うな」


「で、あんたは熟練?」

「一人で座ってる理由は?」

アモンドはむっとし、冷笑。「妥協したくないだけ」


「偶然だな」千里は笑う。「俺も同じだ」


数秒見つめ合い、誰も譲らない。周囲の酒場の喧騒が波のように揺れる。最後にアモンドが視線を外し、舌打ちした。


「もういいわ」

彼女は面倒くさそうに手を振った。「隊長の称号は、しばらくおあずけ」


「行くぞ」

委託掲示板へ向かう。「ぐずぐずしてると、美味しい依頼は奪われる」


足取りは速く、千里がついてくるのを確認する素振りもない。

当然、付いてくるだろう、という前提だ。


千里は背中を半秒見つめ、肩をすくめて後を追った。


【依頼:歩道外側の異常生物を掃討、巣の位置確認。短期。撤退可。】


報酬は低めだが、食い扶持にはなる。

千里は眉をひそめる。「新参にはちょっと危険すぎる?」


「もちろん」

アモンドは紙を折り、胸元にしまい、悪意混じりの笑みを見せる。「怖ければ、私をアモンド隊長と呼べ! 一応、君を副官扱いしてやるわ」


「ふふ……わかった、副官アモンド」


二人の影は前後になり、要塞の通路の奥へ消えた。

新たな騒動は、すでに道の先で待っていた。

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