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不気味な転生  作者: ハイイ


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2/17

大食要塞

意識が戻ったとき、海辺千里の第一の反応は――


痛くない。


おかしい。


この結論は、「まだ生きている」より先に浮かんだ。痛みは残っているはずだ。少なくともわずかにでも、借金のように身体に残っているはず。


しかし今は、何もない。あまりにも快適で、不安になるほどだ。


千里は目を開ける。


視界は石造の天井で埋め尽くされていた。低く、重厚な構造。隙間には見慣れない苔がはさまれ、空気には灯油と塩、長く保存された肉の混じった匂いが漂う。


牢獄でも地下室でもない――倉庫?それとも兵舎か。


身体が動く。


脚も、動く。


千里は飛び起き、そして呆然とする。


身の傷が消えていたのだ。

痂皮になったとか、軽減されたのではなく、完全に消滅している。消化液に焼かれた肌は元通りに滑らかで、叩き割られた骨の鈍痛も跡形もなく消え、縄痕や火傷の暗い痕まで一切残っていない。


服も新しいものに替わっていた。粗末だが清潔だ。


「……」


千里はまばたきし、思い切り自分をつねる。


痛い。


「……待遇、良すぎじゃねえか」

千里は呟く。


「俺、死んだのか?ここは天国か?地獄に嫌われて、外注されたのか?」


「ここは『大食要塞』だ」


隣から声がした。


声の主は、木箱の陰から現れた男。半ば古びた鎧を纏い。歩くたび金属が軽く鳴るが、どこか過剰に張り切った印象がある。


「食の天国だ!」

兵士は声を上げ、まるで大規模なお祭りを宣伝するように言った。

「ここは食物が豊富で……」


男は一瞬、声をほとんど息に変えた。


「……毒も豊富だがな」


千里は二秒間沈黙した。


「……お前らの天国宣伝、正直すぎるだろ」


男は豪快に笑い、気に留めず、話題を切り替えた。


「君は何者だ?」

男は千里を上下から見渡す。

「俺は輸送ルートの護衛だ。道の端で君を見つけた。傷はひどかった。正直、そのまま転生させちまおうかと思ったくらいだ、もう苦しませる必要もないしな」


「……待て」

千里は半拍遅れて理解する。

「つまり、さっき俺は、 お前の手で順当に始末されかけたってことか?」


兵士はわずかに申し訳なさそうな表情を浮かべるが、後悔はしていない。


「正確には、『新生』を得たということだ」


千里は眉をひそめ、兵士をじっと見つめる。


「新生?ロマンチックに聞こえるが、俺は神の儀式に参加した覚えも契約した覚えもない。死んだら本当に死ぬぞ。復活とか……人の口で言われて納得できるもんか?」


兵士は頷き、まるで既定の規則を確認するかのように素早く動作する。


「その通り」

男は言った。

「俺のところでは、手順はそれだけで完了だ」


その確信が、逆に千里の不安を煽る。狂信的な熱意も布教者の自己満足もなく、ただ長年実証された事実を淡々と述べる口調。


危険だ。


千里は瞬時に判断した。詐欺師でも、ただの狂人でもない。この人は文字通り、『転生』を信じている。そしてそれを行動で証明している。


――信仰に目が眩んでいる。

千里はそう心で評価したが、口には出さなかった。


「わかった」

千里は肩をすくめ、軽い口調を装う。

「じゃあ、君たちの言う『応急処置』はちょっと詩的ってことで」


兵士は頷いた。

「でも生き残った君は、サービスは必要ない」


千里は感謝すべきか迷い、乾いた笑いを漏らして話題をスルーした。


「俺の名前は……えっと、海、海里三千」

千里は真面目な顔でそう言った。


自分が追われる立場かもしれないことに気づき、とっさに作り上げた名前だった。


「道中、見えない怪物に襲われたんだ。あれは……理不尽極まりない液体を吐く、礼儀知らずなやつだ。あれ、いったい何なの?」


「ああ、あれか」

男の声は急に興奮した。

「君が地球にいない証拠だ」


男は壁にもたれ、新人からの質問を待っていたかのように言葉を続ける。


「君も俺も、ここにいる人間は地球から来たんだ。君には何か異常があったに違いない」


「異常?」


「そう」

男は頷く。

「その異常が、地球の空間に誤差を生んだ。空間が一時的に崩壊し、回復したときに人がずれて、この異常だらけの世界に来てしまった」


男は熱中している。


「君が遭遇したものは、この世界の生態異常によって進化した結果だ。ここでは生物の進化が、地球より凶暴で巨大で、型も見たことのないものになる」


「聞いてくれ」

男は声を落とし、誇らしげに続けた。

「俺は以前、巨竜に出会ったことがある。本当に、火を吹き、人語を話す。あの知能――くっ」


男はすぐに嫌そうな顔に変える。


「でも話は通じない。人を食うだけだ。やっぱり獣は獣だな」


千里は呆れた。


「つまり……ここは本当に地球じゃない?」

「うん」

「じゃあ、もう追われなくていいんだな?」


男は一瞬固まった後、咳払いした。


「君は過去に悪事を犯した」

男は千里を上から下まで見渡し、声を伸ばす。

「まあ……そういうことだ」


そして、何かを思い出したように頭の後ろを掻き、急に態度が緩んだ。


「だが安心しろ。ここでは地球での過ちを問わない」

「ただし――」


男の表情が引き締まり、半空で拳を示す。指導のデモンストレーションのように、動作は完璧だ。


「ここでは二度と悪さをするな」

「もし悪さをしたら」

男は笑みを浮かべ、一撃を振り抜き、千里の目の前で止めた。

暴力的な誠意を隠さず示した。


「叩きのめす」


空気が一瞬、静まり返る。


千里は鼻先にある拳を二秒間見つめた。


「……じゃあ確認しておく」

「ん?」


「俺、口が悪い。ここの“違反”って」

真剣に聞く。

「制度へのツッコミも含まれる?」


男は半拍沈黙し、拳を下ろした。


「場合による」

「あまりにプロすぎると……」

男はため息。

「残業覚悟だ」


「うっかり言いすぎたな」

男は手を振る。

「新人だろ?《再造之国》の規則で、新しく来た者には、身の安全と五百の金券を支給する」


男は懐から封筒を取り出し、中身を見せる。材質不明の紙片に数字が書かれている。どれだけ重ねても薄い。


「説明しておく、新人が騙されないようにな」

「十数枚で一食」

「五十枚で宿泊」

「百枚以上で良い武器が買える」


「色々な方法で稼ぐことも可能」

男は笑う。

「でも、自分の特技を活かすのが一番だ」


男の視線が千里に落ちた。


ゆっくり口を開く。

「で……ここに来る前、君は何をしていた?」


千里は口を歪め、首をかしげて答えた。

「地球?ちょうど……尋問されてた」


男は二秒間固まった後、低く哼した。憐憫フィルターがかかっているようだ。

「尋問……その程度で異常が出るのか?やりすぎだな」


「でも拷問と言えば……頑強な意志を持つ?」

「なら君は傭兵やハンター、あるいは――」


男は胸当てを軽く叩いた。


「俺のように、兵士。再造之国の命令に従い、要塞の治安を守り、突発事態に対処し、規則違反者を追う」


「その顔やめろ」

男は付け加えた。

「言ってることは自由だ。今こうして話もできるし、《再造之国》の保護も受けられる」


そのとき、廊下の向こうから呼び声がした。


「ロベルト!こちらに状況あり!」


声の主は耳が尖った小麦色の肌の女性。横顔だけでも目立つ。


兵士、ロベルトは数秒間立ち止まり、頭を掻いた。


「なるほど」

男は千里に向き直る。

「海里三千だな?」


男は千里を出口へと導きながら、立ち去る前に口を開いた。


「俺はロベルトだ。この間はずっとここにいるはずだ。……まあ、兵士のこと考えといてもいいし、あるいは俺に飯くらい奢ってくれてもいいぞ、ははっ」

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