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不気味な転生  作者: ハイイ


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16/17

圧殺連携

鈍良は三歩外に立っていた。首を少し傾げると、熊耳も同じ角度で傾く。


表情は困惑。

「ここにあるはずのないもの」を見ている顔だ。


さっきまで貼りついていた間の抜けた笑みは消えている。

残っているのは、“本気で苛立った”顔。


彼女はアモンドを見る。

声が急に低くなった。


「……嘘つき。

 ひどい」


アモンドの口角が上がる。

「どうも」と返しかけた、その瞬間。


鈍良が踏み込んだ。


ズバッッ!


肩が沈み、掌が前に出る。


動きは単純。

扉を押すみたいな仕草。


だが、その掌が出た瞬間、空気が低く鳴った。


千里の瞼が跳ねる。

軍刀を横に構え、刀背を腕に当て、腰を落とす。


「――バン!!」


掌が刀背に直撃。


刀全体が鈍く震えた。

まるで金属そのものが悲鳴を上げているみたいだ。


千里は弾き飛ばされた。


後ろ向きに滑り、砕石が衣服を裂き、傷が増える。

最後は車輪に叩きつけられて止まった。


咳き込みながら、口元を引きつらせる。


「……人類に許される出力か、それ?」


鈍良は動かない。

掌はわずかに赤く、熱を帯びている。


彼女の視線はもう迷っていない。

困惑は消え、“決めた目”になっていた。


「血は嫌いだった」

「でも、後悔はもっと嫌いだ」


息を吸う。

難しい決断をした人間の呼吸だ。


「だから……」


指を、彼らへ向ける。


「殺すしかない」


一歩、出る。


アモンドの顔色が変わる。

踵を返して全力で退きながら、後ろ向きに“シュッ”と短毒矢を放つ。


矢が鈍良の頬をかすめて通過。


鈍良の動きが、半拍止まる。


恐怖ではない。

“無造作に飛ばしていいものではない”という本能的判断。


首をひねり、肩を引き、喉を守る。


その半拍。


そのわずかな安全距離が、削り取られていく。


アモンドは全力疾走。

喉から飛び出したのは、整理されていない本音だった。


「わ、私は貧乏なの! まだ死にたくない! あ、あんた本気出さないで!」


掌風が後頭部をかすめる。


アモンドは急に身を沈め、地面に滑り込む。

肘が裂け、血の線が走る。


顔を上げると、鈍良がもう目の前。


「ち、ちょっと待って! さっきのは誤解! 殺すつもりじゃなかった! ただ……手が滑っただけ!」


弩を後ろに隠す。

証拠隠滅の仕草。


鈍良の掌が眉間に落ちる――


「どけ」


低い声。


浮鉄が割って入る。


戦斧を横に振る。

人を斬らず、“道”を断つ。


斧が地面を叩き、砕石が爆ぜる。

二人の間に強制的な隔たりを作る。


同時に、旅牙の長矛が側面から滑り込む。

一瞬で鈍良の喉元半寸まで届いた。


鈍良が腕を上げて受ける。


「カン!」


穂先が護手を擦り、火花。


後退を強いられる。


アモンドは即座に旅牙の後ろへ退避。

半身だけ覗かせる。


咳払いひとつ。


恐怖の色は消え、代わりに尊大な顔。


「ふん。もう少し遅かったら、私一人で片付けてたわ」


旅牙は冷たく言う。


「どけ」


アモンド。


「はいはい」


即座に退く。


次の瞬間。


鈍良が地面を蹴った。


砲弾のように浮鉄へ突進。


浮鉄は退かない。

斧柄を横に構え、正面受け。


「ドン!」


斧柄が唸り、浮鉄の踵が地面を削る。深い溝が二本。


その瞬間を狙い、旅牙が膝裏へ刺す。


鈍良はひねる。

矛先が護手を擦り、耳障りな摩擦音。


そのまま掌で矛杆を叩く。


「パァン!」


衝撃が旅牙の骨まで響く、指が痺れる。


だが旅牙はその反動を殺さず、一回転して反手で槍身をつかみ、槍尾で鈍良の下半身を薙いだ。


連携。


跳ばせる意図。


鈍良が跳んだ瞬間。

浮鉄の斧刃はすでに側面から彼女の腰を狙い、冷たい弧を描いて襲いかかる。


空中で体をひねり、護手で受ける。


「ガン!」


火花が爆ぜる。


鈍良の体は斧の重みそのものに叩き飛ばされた。衝撃で浮き上がり、鈍良は空中でバランスを失い。


背を向けたまま転げ落ち、護手で地面を噛み、半回転で無理やり姿勢を正す。足が地面を削る。灰色の線が伸びる。


体勢がまだ定まりきらない。


そこへ、翻りの軌道を読んだ旅牙の矛先が突き込まれた。


長槍は冷たい一本線となって落下地点を貫きに走る。


体勢が整う前に、処刑を終える意図。


浮鉄もすぐ後方から追い、斧の刃を、いつでも追い打てる高さまで上げる。


――圧殺が始まろうとした、その直前。


「シュッ――」


上から矢音。


矢が旅牙の眉間へ一直線。


瞳孔が縮み、肩が沈む。

矢は面をかすめて飛ぶ。


槍は刺し続けるが、呼吸が乱れた。


半拍、遅い。


その隙。


鈍良はその半拍で、崩落寸前の体勢を、奈落の縁から掴み上げるように引き戻した。


身体は完全に後傾、喉が無防備に露出する。


腰が爆ぜるように捻れ、ガントレットで喉を横からしっかり防いだ。


「――カンッ!」


護手が槍先を弾き、火花が散る。


衝撃を利用して地面を転がり、膝が石を削る。

粉塵が立ち上った。


斧影が落ちる。


風が破裂した。

衝撃波が頬を打つ。


鈍良は横へ弾けるように踏み出した。砕石が爆ぜる。


刃は彼女の肩すれすれを掠め、地面に深い傷を刻んだ。


旅牙が見上げる。

その目に、細く鋭い怒気が走った。


夜佣が空で笑う。


「忘れてない?」

声が空気に響く。

「私、上にいる」


反響定位が広がる。

風、呼吸、馬の鼻息、弓弦の残響――

全部、耳に絡め取る。


千里が銃を抜く。


「バン!」


火光が地面で炸裂。

弾丸は夜佣の翼膜へ。


夜佣は振り向かない。


空中で、ほんのわずかに傾くだけ。


弾は翼をかすめ、外れる。


「いい狙い」

弓を引きながら言う。

「でも、音の方が速い」


矢が放たれる。


「ヒュン!」


狙いは人ではない。


旅牙の足元。


「チン」


砕石に刺さり、矢尾が震える。


視線が強制的に足元へ引き寄せられる。


その瞬間、鈍良が死角に入り込む。


護手が槍を押さえ、前へ圧す。


旅牙は退く。槍を引き戻し、肩を狙う。


三本目の矢。


「ヒュッ!」


視界に矢影が突き刺さる。


咄嗟に首を引く。


矢が額を擦り、微かな毒の尾煙を残す。


矛先が逸れ、標的を失った。


鈍良が矛杆を地面へ叩きつける。


「バン!」


震動が木を伝い、旅牙の腕へ。


痺れ。指が白い。


だが離さない。


歯を食いしばり、引き戻そうとする。


鈍良の方が速い。


一歩。


矛杆の中央に足を置く。


「ミシッ」


圧力が下へ。

砕石が押し退けられ、矛杆が地面にめり込む。


旅牙の重心が崩れる。


瞳が見開く。


その一瞬の失衡。


胸元が、無防備に晒された。


鈍良は迷わない。


掌を振る。


「ドン!!」


心臓に直撃。


骨が割れる音。


旅牙の身体が吹き飛ぶ。


背中から砕石へ叩きつけられる。


血が面の下から滲み、刻線に沿って広がる。


彼はもがかない。


ゆっくり手を上げ、面に触れる。


指が震える。


「……面、外すな……みっともない」


手が落ちる。


身体が沈む。

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