第三章 第八話 歯車は、音もなく軋み始める
お読みいただきありがとうございます。
是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
キンドーラ王都中央区。
白亜の外壁と金色の紋章を掲げる冒険者ギルド本部は、今日も忙しなく人が行き交っていた。
……表向きは。
「最近、妙だと思わんか?」
ギルド運営部、二階の会議室。
長机の奥に座る中年の男――副ギルド長ハルバードが、眉をひそめて言った。
「何がです?」
若い書記が首を傾げる。
「低ランク冒険者どもだ。
あいつら、以前より装備が良くなっている」
別の幹部が鼻で笑う。
「どうせ安物でしょう。
死にかけて拾ったか、どこかで借りたんじゃないですか」
「……その“借りた”が気になる」
ハルバードは、机に置かれた報告書を指で叩いた。
「最近、借金絡みのトラブルが減っている。
特に、底辺ランクの連中でな」
「それは……良いことでは?」
「違う」
ハルバードは低い声で言った。
「借金が減るということは、
“我々の管理下から外れつつある”ということだ」
室内が、一瞬静まった。
うまく回っていた、はずだった
冒険者ギルドは、長年“効率的”に運営されてきた。
商工会がスポンサーについた冒険者には、
・高額装備
・割の良い依頼
・ランク昇格の便宜
を与える。
見返りに、
ギルドには寄付金と、貴族とのパイプが流れ込む。
一方で、スポンサーのいない冒険者はどうなるか。
・危険度の高い依頼
・報酬の安い雑務
・昇格試験の後回し
それでも受けるしかない。
生きるために。
「力のない者は、使い潰す」
それが、ギルドにとっての“合理”だった。
だが――。
「報告です」
別の書記が資料を差し出す。
「低ランク冒険者の成功率が、上昇しています」
「は?」
「死亡率が下がり、依頼達成率が上がっていると……」
幹部の一人が苛立ったように言った。
「そんなはずはない。
あいつらは装備も技量も――」
「それが」
書記は言葉を選びながら続けた。
「装備が……“噛み合っている”のです」
「噛み合っている?」
「過剰でもなく、不足でもない。
役割に合った装備構成で、無駄がないと」
ハルバードの指が止まった。
(……誰が、そんな真似を?)
冒険者自身に、そんな知識はない。
鍛冶屋や道具屋が、そこまで面倒を見る理由もない。
「……スポンサー冒険者は?」
ハルバードが尋ねる。
「そちらは――」
書記は、視線を泳がせた。
「赤字が増えています」
「何?」
「装備代、修理費、回復薬の前借り。
返済が追いつかず、依頼の取り分が消えていく者が……」
「馬鹿な」
幹部が机を叩いた。
「スポンサーがついているんだぞ!?
強い装備を与えているのに、なぜだ!」
誰も答えられなかった。
実際、ギルドの目には見えていなかった。
低ランク冒険者たちは、
「無理な依頼」を避け始めていた。
成功率の高い仕事を選び、
身の丈に合った装備で、確実に稼ぐ。
一方、スポンサー冒険者は――
強力な装備に頼り、
身の丈以上の依頼を受け、
消耗し、借り、さらに縛られていく。
だが、それを「仕組み」だと理解できる者は、
ギルドにはいなかった。
「……まあ、様子見だな」
ハルバードはそう結論づけた。
「どうせ、長くは続かん。
底辺は底辺だ」
誰も、その判断を疑わなかった。
その夜。
受付の端で、古参のギルド職員が呟いた。
「……最近、“あの商人”を見かけませんね」
「商人?」
「ほら。
いつも冒険者の相談に乗ってた、地味な男ですよ」
別の職員が首を振る。
「ああ、勇者一行の……」
その名が出た瞬間、
周囲が一斉に静まり返った。
「……その話は、するな」
上役の声が飛ぶ。
「賞金首の仲間だ。
余計なことを考えるな」
だが――。
歯車は、すでに狂い始めていた。
静かに。
確実に。
それが、
誰の手によるものかも知らぬまま。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。
ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。
また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




