第十八章 第七十六話 神になれなかった男
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是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
ネコルトの視線は、ザルヴァトの動きだけを追っていた。
「……私と同じか」
小さな独り言だった。
誰にも届かない声。
性能は、十分すぎる。
だが。
扱う側が――
それに追いついていない。
神の肉体を持ちながら、
戦い方は、人のままだった。
翼の振り。
拳の軌道。
踏み込みの深さ。
どれも強い。
だが、洗練されていない。
“力で殴っているだけ”だ。
ネコルトが一歩前に出る。
「フォード」
「ピサラ」
二人が同時に振り向く。
「ザルヴァトは」
「神の力を、扱いきれていません」
一拍。
「……どういうことだ?」
フォードが眉を寄せる。
ピサラは、先に気づいた。
口角がわずかに上がる。
「ああ、なるほど」
ザルヴァトの翼が振り下ろされる。
二人は最小限だけ身体をずらす。
当たらない。
「力が大きすぎて」
「自分の身体の“重さ”を把握できてないんだ」
ピサラが言う。
「だから振りが無駄に大きい」
「次の動作までに、必ず隙ができる」
フォードの目が開く。
「……つまり?」
「避けるのに、全力いらないってこと」
「回避にリソース割かなくていい」
「攻撃に、集中できる」
ネコルトが静かに頷く。
「ええ」
「私と同じです」
自嘲も、卑下もない。
ただの事実だった。
フォードが深く息を吸う。
「……分かった」
聖神剣を握り直す。
ザルヴァトが拳を振り上げる。
光が膨れ上がる。
だが、今度は違う。
半歩だけずらす。
視線は、外さない。
振り下ろされた腕の内側へ、
滑り込む。
「はっ!」
斬撃が、通る。
浅い。
だが、確かに肉を裂く。
ピサラも続く。
「ほら、見える」
魔神剣が翼の付け根を削る。
再生が始まるより先に、離脱。
ザルヴァトの顔が歪む。
「なぜだ……!」
攻撃が届くたびに、
その身体がわずかに膨れ上がる。
筋肉が盛り、
翼が広がり、
光輪が増える。
力で、埋めようとしている。
だがそれは、
さらに“重く”なるだけだった。
ネコルトが小さく呟く。
「……悪手です」
神に近づこうとして、
ますます“振り回されている”。
フォードとピサラは、もう止まらない。
回避は最小。
攻撃は最大。
神の外殻に、
少しずつ、
確実に、
傷が増えていった。
ザルヴァトの翼が、再び振り上げられる。
だが。
大きすぎた。
光をまとった腕が、天井を薙ぐ。
轟音。
石柱が砕け、瓦礫が降る。
そこに、フォードはいない。
「遅い!」
聖神剣が閃く。
肩口を斬る。
肉は裂けるが、すぐに盛り上がる。
反撃の拳。
空気が爆ぜる。
ピサラは、もう横にいる。
「見えてるっての!」
魔神剣が脇腹を抉る。
黒い軌跡が神の外殻を削る。
だが、止まらない。
再生。
光が肉を縫い合わせる。
倒せない。
だが――
当たらない。
ザルヴァトの動きは、強い。
だが、荒い。
神の筋力。
神の速度。
神の防御。
それらを振り回しているだけだった。
「……くっ」
翼が振るわれる。
床が割れる。
しかし二人は、常に半歩外にいる。
届かない。
その時。
別の刃が、横から走った。
短剣。
槍。
斧。
弓。
次々と武器が変わる。
ネコルトだった。
道具箱から、神具を引き抜く。
投げる。
斬る。
突く。
撃つ。
「……っ、鬱陶しい!」
ザルヴァトの眉が歪む。
ネコルトの攻撃は、浅い。
決定打ではない。
だが――止まらない。
冒険者から差し押さえた武具。
見て覚えた扱い。
商人として蓄えた知識。
剣士の構え。
槍兵の間合い。
弓兵の引き。
すべてが、中途半端。
だが、すべてが“それっぽい”。
「当たらない」
「だが、邪魔はできる」
短剣が光輪を掠める。
斧が翼の根元を打つ。
槍が足を止める。
ザルヴァトの視線が、完全にネコルトへ向いた。
「貴様――!」
巨大な翼が広がる。
一直線に、ネコルトへ突進する。
光が、迫る。
ネコルトは避けない。
ただ、半歩ずれる。
その背後で――
「今だ!」
フォードが踏み込む。
聖神剣が、白く燃える。
「うおおおおっ!!」
反対側から、ピサラ。
魔神剣が、闇を引き裂く。
「終わりだよ!」
白と黒。
二本の軌跡が、交差する。
十字。
神の外殻が、割れた。
音は、なかった。
光だけが砕けた。
ザルヴァトの身体が、空中で止まる。
次の瞬間。
中から、人が落ちた。
血にまみれた、元のザルヴァト。
神の形は、外側だけだった。
十二枚の翼が崩れ、
光輪が砕け、
白い外殻が砂のように崩れ落ちる。
床に転がる。
息が、浅い。
「……は……はは……」
ザルヴァトは、笑った。
「神には……なれなかった、か……」
天井を見上げる。
かつて、神を信じた目で。
「やはり……神は……偉大だ……」
フォードが剣を構える。
だが、動かない。
ザルヴァトは、震える指を持ち上げた。
「だが……十分だ……」
その指が、ある一点を指す。
クエラ。
宙に浮かぶ聖女。
その下で、聖杯が満ちている。
溢れんばかりの神聖力。
白い光が、封印の魔法陣へと注がれていく。
床の紋様が、目を覚ます。
「コスモ様は……復活、される……」
ザルヴァトの手が、落ちた。
中央区画に、
新たな光が満ち始めていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




