第十八章 第七十五話 商人の力、神の突破口
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白い光が、なお中央区画を満たしていた。
ザルヴァトの背で十二枚の翼がゆっくりと揺れる。
その肩に刺さったままの一本の矢。
光の粒子をまといながら、わずかに煙を上げている。
ザルヴァトはそれを指で摘み、静かに引き抜いた。
肉が裂ける音。
血は出ない。
だが、確かに“傷”は残っている。
「……なぜ通る」
低い声だった。
ネコルトは弓を下ろし、小さく息を吐いた。
「神具です」
あまりにもあっさりとした返答だった。
「ダメージは通りますが……」
「弓矢の腕は全くなので」
「傷は浅いですね」
自虐にも似た淡々とした口調。
ピサラが目を瞬かせた。
「ちょっと待って」
「なんで神具が使えるの?」
ネコルトは肩をすくめる。
「商人ですから」
「いや意味が分かんないんだけど」
その横で、フォードがなぜか胸を張った。
「ネコルトは凄い商人なんだ!」
「武具も道具も、触ればだいたい使える!」
ピサラが振り向く。
「なんであんたがドヤってんのさ」
「事実だからな!」
ネコルトは小さく苦笑した。
「戦闘スキルもあれば、完璧だったんですがね」
言いながら、足元の道具箱を開く。
中から、二つの長い包みを取り出した。
布を払う。
一振りは白銀。
もう一振りは漆黒。
空気が、震えた。
「神具――聖神剣」
白い剣を、フォードへ差し出す。
「神具――魔神剣」
黒い剣を、ピサラへ。
フォードは無言で受け取る。
手にした瞬間、剣が微かに光った。
ピサラは軽く回してみる。
「……軽っ」
「なにこれ、感覚で振れる」
ネコルトは淡々と告げた。
「私の見立てでは」
「お二人なら、使いこなせるはずです」
信頼ではない。
評価でもない。
“見立て”。
ザルヴァトの翼が、ゆっくりと開いた。
「玩具を増やしたところで」
「届かぬものは、届かぬ」
フォードが踏み込む。
聖神剣が、光を放つ。
一閃。
白い外殻が裂ける。
確かに、斬れた。
「……通る!」
ピサラも続く。
魔神剣が黒い軌跡を描く。
ザルヴァトの脇腹が抉れる。
だが。
次の瞬間には、肉が盛り上がり、傷が塞がる。
「再生、早っ……!」
ザルヴァトの拳が振り下ろされる。
空気が爆ぜる。
フォードが弾き飛ばされる。
石床が割れる。
ピサラが跳び退く。
翼の一枚が振るわれ、衝撃波が壁を抉る。
「硬い、速い、再生する!」
「全部盛りすぎでしょ!」
フォードが歯を食いしばる。
「効いてるのに……押し切れない!」
神具は通る。
だが、ザルヴァトの肉体はそれ以上だった。
筋力。
防御耐性。
速度。
再生力。
“神に相応しい肉体”だけは、完成している。
ネコルトだけが、動かなかった。
弓を下ろしたまま、ザルヴァトの動きを見ている。
踏み込み。
腕の振り。
翼の使い方。
間合い。
わずかに、眉が動く。
「……私と同じか」
小さな独り言だった。
誰にも届かない声。
性能は、十分すぎる。
だが。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




