第十八章 第七十三話 反転する戦場
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最初に空気が変わったのは、外周だった。
ナリアが、足を止める。
拳ではない。
呼吸でもない。
背骨が、きしんだ。
肩口から鱗が浮き、
頬に角が伸び、
背中の気配が膨れ上がる。
半身だけの龍化。
人の輪郭を残したまま、
“龍である意味”だけを前面に押し出す。
「――退いて」
低い声。
ミーニャとヘトルビースが即座に横へ跳ぶ。
ナリアが、息を吸う。
肺ではない。
存在が、空気を吸い込む。
喉の奥で、紫と蒼の光が渦を巻いた。
「はぁぁあああっ!!」
吐き出されたのは、
毒炎のブレス。
だが、ただの毒でも炎でもない。
その表層に、龍気が絡みついている。
白い天使の群れを、
奔流が飲み込んだ。
焼く。
溶かす。
そして――“削る”。
外殻だけではない。
神聖力の流れそのものが、
炎に削り取られていく。
再生が、止まる。
白い翼が、音もなく崩れ落ちた。
「……通る!」
ナリアの瞳が、縦に細く光る。
ブレスは一直線ではない。
龍気を帯びた炎が、蛇のようにうねり、
二列、三列と天使を巻き込んでいく。
空間に空白が生まれる。
ナリアの毒炎が白い軍勢を焼き裂いた直後。
「行くにゃ!」
ヘトルビースの爪が、深く地面を抉る。
ただの構えではない。
爪の周囲に、黒紫の気配が集まっていく。
魔力と闘気を無理やり噛み合わせた、
彼女が編み出した即席の戦闘術――魔闘気。
爪が、唸った。
「裂けるにゃあッ!」
振り抜いた瞬間、
爪そのものではなく、
空気が斬れた。
三日月状の黒い斬撃が、
地面すれすれを滑るように飛ぶ。
白い天使の胴が、
触れた瞬間に断たれた。
肉ではない。
外殻でもない。
内側の“流れ”ごと切り裂く一閃。
再生が、追いつかない。
もう一振り。
今度は縦。
交差する二本の斬撃が、
群れの中心を十字に裂く。
「遠くも届くにゃ……!」
自分でも一瞬驚いた声。
だが止まらない。
ナリアの龍気ブレスで弱った天使に、
魔闘気の斬撃が突き刺さる。
焼かれ、
ほどかれ、
斬り飛ばされる。
三方向からの破壊。
そこへ、ミーニャの鋼糸が走る。
ミーニャの指が、空を撫でた。
何もないはずの空間に、
細い鋼糸が幾重にも走る。
絡めるのではない。
縛るのでもない。
――編み目を探している。
「……見える」
天使の群れの背後。
空間そのものに、うっすらと“継ぎ目”が浮かぶ。
力の流れ。
再生の経路。
光と肉を結びつけている、見えない糸。
「忍法――虚織」
指を、軽く閉じる。
斬ったのは天使ではない。
空間の“縫い目”だった。
音が消える。
次の瞬間、
半径十数歩の空間が、静かにほどけた。
翼が落ちる。
光輪が崩れる。
肉体が再生しない。
そこにあったはずの“繋がり”だけが、
消えていた。
ナリアの炎も、
ヘトルビースの斬撃も、
届かなかった天使たちが、
糸を切られた操り人形のように崩れ落ちる。
「……空間ごと、ほどいたにゃ……?」
ヘトルビースが呟く。
ミーニャは小さく息を吐く。
「ほどいたっていうか……」
「“結び直させない”だけ」
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




