第十八章 第七十一話 神へ至る歪み、仲間たちの死線
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白い光が、空間を満たした。
ザルヴァトの身体が、輪郭を失う。
肉が溶けるのではない。
“定義”が書き換えられていく。
「……っ」
フォードが歯を食いしばる。
光の中心で、骨が増え、翼が芽吹き、光輪が幾重にも重なる。
人の形を保っているのは、もはや意思だけだった。
「まだだよ」
ピサラが一歩前に出る。
「変身中は、だいたい無防備」
拳を握り、踏み込もうとした瞬間。
白い壁が生まれた。
結界。
聖杯と聖杖から伸びる光の柱が、ザルヴァトを包み込んでいる。
「……割れないか」
ネコルトが冷静に観察する。
「外部からの干渉を、全拒否してますね」
フォードが舌打ちする。
「なら、待つしかないってことかよ……!」
背後で、爆音が響いた。
白い翼が、空間を埋め尽くしていた。
天使軍団。
数で押し潰すという、最も単純で、最も厄介な戦術。
「……多すぎる!」
ミーニャが壁を蹴り、天井近くへ跳ぶ。
指先から忍糸が走る。
「忍法・解織!」
絡みついた糸が、天使の身体構造をほどく。
骨が崩れ、肉が分解され、白い外皮が剥がれ落ちる。
一体。
二体。
三体。
だが、空間の白は、減らない。
「……キリがない!」
背後から、別の個体が迫る。
鉤爪が閃いた。
「にゃあっ!」
ヘトルビースが、天使の首を裂く。
爪に込めた力は確かに通る。
だが、裂いたそばから再生が始まる。
「再生、早すぎにゃ!」
着地と同時に三体に囲まれる。
跳ねて避ける。
だが、包囲は狭まる。
地上では、ナリアが拳を振るっていた。
「――はっ!」
龍気を乗せた一撃。
白い外皮の奥で、神聖力の流れが乱れ、再生が止まる。
一体は沈む。
だが、次が来る。
また次が来る。
「……多い!」
拳が届く範囲しか、倒せない。
倒しても、周囲が埋める。
空から、白い槍の雨。
「下がって!」
ライブの声。
多重詠唱の魔法陣が展開される。
「強化、重層!」
「付与、展開!」
「防御、拡張!」
光が仲間を包む。
だが、魔力の消耗が早い。
「……間に合わない……!」
一つ詠唱する間に、三体が接近する。
二人を守れば、別の誰かが空く。
ダイアンが前に出る。
「……むぅ」
大槌が振り下ろされる。
三体がまとめて潰れる。
だが、その背後。
白い翼が広がった。
ラファエル。
静かな笑み。
癒しを思わせる顔で、解体を告げる存在。
羽根が散る。
刃の雨。
ダイアンが盾のように槌を構える。
「……っ!」
衝撃。
膝が沈む。
横からクリフが踏み込む。
槍が核を狙う。
闘気を纏った一撃。
――弾かれる。
「……浅い」
再生が追いつく。
上空。
さらに重い圧が落ちる。
ウリエル。
翼そのものが刃となり、空気を裂く。
「隊列、維持!」
神殿騎士団が盾を構える。
だが、押される。
一歩、また一歩。
ミーニャが歯を食いしばる。
「数、減らせない……!」
解織は効く。
だが、一度にほどけるのは一体か二体。
ヘトルビースが跳ぶ。
「通じるけど、足りないにゃ!」
爪は届く。
だが、囲まれる。
ナリアが拳を握る。
「……押されてる」
龍気は確かに通る。
だが、範囲が足りない。
ライブの声が震える。
「もう一段、重ねたい……でも……!」
詠唱が追いつかない。
魔力が削れる。
ダイアンとクリフが並ぶ。
「……硬い」
「核、見えてる」
見えても、届かない。
一対一なら、押し返される。
ラファエルとウリエルが同時に動く。
圧力が倍になる。
床が割れる。
空気が歪む。
「……まずい」
ネコルトの声は、遠く中央区画から届いた。
この戦線は、崩れてはいない。
だが、押し返せてもいない。
削られている。
時間だけが、奪われていく。
白い軍勢は、止まらない。
仲間たちの刃は確かに届いている。
だが、足りない。
もう一段。
もう一歩。
何かが足りないまま。
戦場は、静かに劣勢へと傾いていった。
中央区画。
光が収束していく。
ザルヴァトの姿が、現れる。
背に、十二枚の翼。
頭上に、歪んだ多重光輪。
肌は白く、亀裂のような黒い紋が走る。
人でも天使でもない。
「……神の、雛形」
ネコルトが呟く。
ザルヴァトが、目を開いた。
「美しい」
自分の手を見る。
「これが、進化」
フォードが剣を抜く。
「クエラを、返せ」
ザルヴァトは、微笑んだ。
「まだだ」
指を鳴らす。
床の魔法陣が光る。
クエラの身体が、わずかに浮かぶ。
「儀式は、最終段階に入った」
「止めさせるか!」
フォードが踏み込む。
だが。
ザルヴァトの翼が一枚、動く。
それだけで。
衝撃。
フォードが吹き飛ぶ。
「……っ!」
壁に叩きつけられ、息が詰まる。
ピサラが笑う。
「いいね」
拳を鳴らす。
「やっと、ボス戦らしくなってきた」
ネコルトが静かに言う。
「時間がありません」
「分かってる」
ピサラが前に出る。
ザルヴァトが、腕を広げる。
「来なさい」
白い光が、再び膨れ上がる。
背後では、仲間たちが天使軍団を食い止めている。
前では、神に至りかけた男が立つ。
救うべき少女は、光の檻の中。
戦場は、二つに割れたまま。
そして今。
決戦の、前半が始まる。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




