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完結済『勇者一行を捨てた王国を、金融商が契約で追い詰める 〜残価設定ローンで復讐しながら、魔王から勇者も救い出します〜』  作者: ほまれ


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第十五章 第六十二話 四天の名を冠するもの

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

 白い異形の天使たちが、砕け散った。

 焼け落ちた。

 潰れた。

 それでも。

 “終わらない”。

 天聖府の外縁、血と瓦礫に塗れた戦場で、誰もが気づいていた。

 倒しているはずなのに、戦況が軽くならない。

 死骸が、減っていないのだ。

「……おかしい」

 ネコルトが低く呟いた。

 白い外皮の裂け目から、腐肉色の筋が脈打ち、骨が組み替わり、翼の欠片が勝手に縫い合わされていく。

 倒れた天使の残骸が、戦場の“餌”になっている。

 そして、空が鳴った。

 裂け目が走り、白い光が束になって落ちる。

 それは降臨ではない。

 投下だ。

 落下してきた四つの影が、同時に着地する。

 轟音。

 石畳が粉砕され、白い粉塵が舞う。

 四体。

 六枚翼の個体が二体。

 四枚翼の個体が一体。

 そして、異様に“整った”二枚翼の個体が一体。

 だが、整っているのは遠目だけだ。

 近づけば分かる。

 白い皮膚の下に、継ぎ接ぎの肉。

 関節の数が合わない脚。

 光輪の内側に、黒い棘。

 神聖の皮を被った、腐敗の像。

 四体が、同時に名乗った。

「我はミカエル」

「我はラファエル」

「我はガブリエル」

「我はウリエル」

 神殿騎士団の一部が、反射的に膝をつきかけた。

 だが、すぐに凍りつく。

 天使に見えたものが、天使でないと、もう知ってしまったからだ。

 ミカエルを名乗る個体が、首を傾げる。

 その動きは人間のそれに近い。

 知性がある。

「下位個体の損耗、確認」

「回収、開始」

 四体の翼が開いた。

 すると戦場のあちこちで、白い天使の死骸が“引き寄せられる”ように浮き上がった。

 肉片が、骨片が、白い体液が、黒い靄に溶けて流れ込む。

 吸収。

 そして――変質。

 四体の体表に、黒い紋が浮かび上がる。

 白が濁り、光輪が歪み、翼の羽根が骨と肉に変わる。

 神聖が、禍々しさへ塗り替わっていく。

「……コスモのかけら」

 教皇が、血に濡れた声で呟いた。

 ピサラが目を細める。

「吸ってるね」

「死骸から、欠片を回収してる」

 フォードが歯を食いしばる。

「……あいつら、強くなるぞ」

 四体は、戦場を見渡した。

 そして、無慈悲に分配する。

「ウリエル。人間兵、処理」

「ガブリエル。竜と異端を処理」

「ラファエル。後衛と獣人を処理」

「ミカエル。我が処理する」

 宣告のように、戦場が割れた。

 ウリエルが神殿騎士団へ。

 ガブリエルがネコルト、ナリア、イグナーツへ。

 ラファエルがダイアン、ライブ、ヘトルビースへ。

 ミカエルがフォード、ピサラ、教皇へ。

 四つの戦線。

 四つの絶望。

 ネコルトが即座に判断する。

「分断されましたね」

「……なら、各自で潰す」

 そして一瞬だけ、頭痛がしたように眉間を押さえた。

「……やれやれ」

 “全員を生かす”最適解を組むには、盤面が悪すぎる。

 だが、迷っている時間はない。

 戦いは始まった。


1:ウリエル戦

(クリフ&ミーニャ+神殿騎士団)

 ウリエルを名乗る個体は、神殿騎士団の中央へ滑り込んだ。

 剣でも槍でもない。

 白い翼そのものが刃になり、風圧が鎧を裂く。

「う、うわああっ!」

 騎士が吹き飛び、石壁に叩きつけられる。

 血が飛び散り、甲冑が歪む。

 だが、騎士たちは崩れなかった。

「盾を上げろ!」

「前へ出るな、受けろ!」

 隊列を保ち、盾で“壁”を作る。

 攻撃は通らない。

 それでも、壁は意味がある。

 クリフが槍を構えた。

 闘気が、全身を薄く包む。

 膜のように、皮膚の外側にもう一枚の皮膚を作る。

「……流れがある」

 白い外殻の奥。

 神聖力の“芯”がある。

 そこを刺さなければ、倒しても戻る。

 ミーニャが壁の影を走る。

「騎士さん、もう一歩だけ前!」

「そのまま盾、上!」

「な、何を――」

「いいから!」

 盾が上がる。

 その瞬間、ウリエルの翼刃が盾に吸い込まれるように当たった。

 ギィィン――!

 火花。

 盾が割れる寸前。

 だが、そこで止まった。

 ほんの一拍。

 それで十分だった。

「……今だ」

 クリフが踏み込む。

 槍が一直線に伸びる。

 闘気が穂先に集中し、神聖力の“芯”へ突き刺さる。

 ――貫通。

 ウリエルの胸の奥で、白い渦が弾けた。

 肉体が崩れ、再生が止まる。

 神殿騎士団の一人が、呆然と呟く。

「……効いた……?」

 ミーニャが息を吐く。

「効くよ」

「効くやり方に変えただけ」

 騎士たちは、震えながらも頭を下げた。

「……助かった」

「ありがとう、勇者一行……!」

 クリフは返さない。

 ただ、槍を構え直す。

 次が来る。

 まだ終わっていない。


2:ガブリエル戦

(ネコルト&ナリア&イグナーツ)

 ガブリエルを名乗る個体は、静かに降りた。

 地面に足が触れた瞬間、白い結界が広がる。

 “神域”を押し付けてくるような圧力。

 ナリアが眉をひそめた。

「……息がしづらい」

 イグナーツは一歩前へ出る。

 剣を抜かない。

 拳を握った。

 そして、紳士の口調のまま告げる。

「カオス様の御前で、貴様のような偽物が振る舞うのは不敬です」

「……粉砕いたしましょう」

 次の瞬間。

 イグナーツの踏み込みで、石畳が割れた。

 拳がガブリエルの顎を打ち上げる。

 鈍い音。

 骨が砕け、白い外皮が裂ける。

 だが――

 ガブリエルは空中で姿勢を戻し、静かに着地した。

 傷が閉じる。

 再生。

 イグナーツが目を細めた。

「……私の信仰が届かないとは」

 一瞬だけ、揺らぐ。

 だが次の瞬間、穏やかに首を振った。

「いえ」

「信仰が足りないだけでしょう」

 拳を握り直す。

 その全身の強化が、一段深く沈む。

 ナリアが、その姿を見ていた。

 ただ殴る。

 信じて殴る。

 迷わず殴る。

 その単純さが、妙に眩しかった。

 ナリアも一歩前へ出る。

「……わたしも、やってみる」

 ネコルトが即座に止める。

「待ってください、ナリア」

「理屈を――」

「理屈はあと!」

 ナリアが拳を握る。

 毒竜王から託された力が、胸の奥で疼く。

 だが、今までの“毒”や“ブレス”では足りなかった。

 通じない相手がいると知ってしまった。

 悔しい。

 苦しい。

 でも。

 ここで折れるわけにはいかない。

 その時、内側から声が響いた。

『……龍が龍である意味を、思い出せ』

 毒竜王。

『龍気だ』

『気を纏え』

『気を当てろ』

『それだけで、通る』

 ナリアの呼吸が変わる。

 吐く。

 吸う。

 吸った瞬間、世界が少しだけ遅くなる。

 彼女の拳に、見えない圧が宿った。

「……龍気」

 ガブリエルが、笑ったように翼を広げる。

「竜の力など――」

 言い切る前に、ナリアが踏み込んだ。

 拳が、ガブリエルの胸に触れる。

 触れただけ。

 ――バンッ!!

 白い外皮の奥で、何かが破裂した。

 神聖力の流れが乱れ、再生が止まる。

 ガブリエルが初めて、表情を歪めた。

「……っ」

 ナリアの目が見開かれる。

「……通った」

 イグナーツが、穏やかに微笑んだ。

「……それが、あなたの信仰ですか」

「美しい力ですね」

 ナリアは拳を握ったまま頷く。

「うん」

「わたしは――龍の力を信じてる」

 イグナーツは頷いた。

「素晴らしい」

「信仰とは、己を貫く刃です」

 ネコルトが頭を抱えた。

「……脳筋が二人に増えましたね」

 だが、すぐに顔を上げる。

 嘆いても状況は変わらない。

 考えて支えるのは、昔から自分の役目だ。

 ネコルトは静かに言った。

「……よし」

「二人とも、前だけ見て殴れ」

「後ろと、全体の最適化は――俺がやる」

 ナリアは迷いなく言う。

「最初から任せてる」

 イグナーツも、礼儀正しく頷いた。

「ええ」

「私も、同意します」

 ガブリエルが翼を広げ、結界を膨張させる。

「愚かだ」

「信仰を、獣の拳に落とすか」

 ネコルトが目を細める。

「違います」

「信仰は、結果で証明するものです」

 ナリアが龍気を拳に乗せる。

 イグナーツが信仰を拳に乗せる。

 そして、二人が同時に踏み込んだ。

 ガブリエルの神域が、砕けた。


3:ラファエル戦

(ダイアン&ライブ&ヘトルビース)

 ラファエルは、静かに笑った。

 その笑いは、癒しではない。

 解体の予告だった。

 翼が揺れ、白い羽根が刃の雨になる。

 避けるだけで精一杯。

 ダイアンが前へ出る。

 大槌で受ける。

「……っ」

 重い。

 だが、押し切られる。

 ヘトルビースが横から回り込む。

「にゃっ!」

 鉤爪で関節を裂く。

 しかし、裂けたそばから縫い合わされる。

 ライブが歯を食いしばる。

「強化、付与……間に合わない……!」

 今の連携は良くなった。

 だが、“遠慮”が残っている。

 言うべきことを飲み込む。

 止めるべきタイミングで黙る。

 それが、致命になる。

 ラファエルの一撃が、ヘトルビースの肩を裂いた。

 血が散る。

「にゃっ……!」

 ダイアンが盾のように割り込む。

 大槌で弾く。

「……むぅ……」

 ライブが叫ぶ。

「ダイアン! 右に寄りすぎ!」

「ヘトルビース、距離取って! そのままだと――」

「にゃ! 分かってるにゃ!」

 ヘトルビースが跳ねる。

 だが、言い返す余裕ができたのは良い兆候だ。

 ダイアンが短く言う。

「……前、出る」

 ライブが即座に否定する。

「ダメ!」

「今は受けて、私が乗せる!」

 ダイアンは一瞬止まる。

 そして、従った。

「……了解」

 遠慮を捨てる。

 指示を受ける。

 拒否もする。

 それが“連携の次の段階”。

 ライブが息を吸う。

「強化、重層」

「付与、展開」

 同時詠唱。

 魔力が二人を包む。

 大槌に芯が通り、鉤爪に“抜けない重さ”が宿る。

 ヘトルビースが笑う。

「これ、好きにゃ!」

 ダイアンが槌を振り上げる。

「……効かぬか……?」

 叩きつける。

 ――ドン!!

 ラファエルの外皮が砕ける。

 再生が遅れる。

 そこへヘトルビースが飛び込む。

「にゃああっ!」

 鉤爪で“核”を抉る。

 ラファエルが、初めて声を漏らした。

「……っ!」

 ライブが叫ぶ。

「今!」

「もう一段、叩け!」

 ダイアンが無言で踏み込み、二撃目。

 ――粉砕。

 ラファエルの身体が崩れ、再生が止まった。

 ヘトルビースが息を吐く。

「……やったにゃ」

 ダイアンも短く言う。

「……通った」

 ライブが肩で息をしながら、笑った。

「……うん」

「遠慮、いらないね」


4:ミカエル戦

(フォード&ピサラ&教皇)

 ミカエルは、ゆっくりと降りた。

 その足元に、白い結界が広がる。

 だが、それは“神域”というより――処刑台だ。

 ピサラが教皇を横目に見る。

「教皇さま」

「魔王と共闘していいの?」

 教皇は、血を拭いながら答えた。

「これも、神の導きです」

 フォードが叫ぶ。

「今そんな話してる場合じゃない!」

「ヤバい時は、みんなで協力するもんだろ!」

 ピサラと教皇が顔を見合わせる。

 そして、どちらからともなく苦笑した。

「……勇者らしい」

「……勇者らしくない」

 教皇が、改めてピサラへ向き直る。

「魔王ピサラ」

「どうか、力をお貸しください」

 ピサラはにこりと笑う。

「いいよ」

「私、こういうの嫌いじゃない」

 ミカエルが淡々と言った。

「カオスの眷族」

「人の勇者」

「神の代弁者」

「まとめて処理する」

 フォードが聖剣を構える。

 ピサラが拳を握る。

 教皇が祈りを捧げる。

 戦場の中心で、三つの“異物”が並んだ。

 そして、ミカエルが翼を広げた瞬間。

 世界が、白く染まった。


 四体の大天使が、それぞれの戦線で崩れ始める。

 だが同時に、彼らは理解していた。

 倒せる。

 倒し方がある。

 信仰で殴る者がいる。

 龍気で砕く者がいる。

 闘気で見抜く者がいる。

 術で支える者がいる。

 遠慮を捨てた者がいる。

 それでも――まだ終わらない。

 ミカエルが、ゆっくりと笑った。

「……良い」

「だが、まだ足りない」

 四体の大天使の背後で、白い天使の残骸が再び浮き上がる。

 そして、黒い靄がうねる。

 吸収が、加速する。

 次の段階が来る。

 ネコルトが、歯を食いしばった。

「……最悪ですね」

「ここからが本番ですか」

 空が、もう一度裂けた。

 白い光が、今度は“槍”のように落ちる。

 それは降臨ではない。

 宣戦布告だ。

 神の皮を被った災厄が、天聖府を飲み込もうとしていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

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