表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結済『勇者一行を捨てた王国を、金融商が契約で追い詰める 〜残価設定ローンで復讐しながら、魔王から勇者も救い出します〜』  作者: ほまれ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/84

第十五章 第六十話 崩れゆく戦線

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

白き異形の天使たちは、降り立った瞬間から戦場を“汚染”した。

翼は羽ではなく、肉の膜。

白い外皮は神聖な光を反射しながら、裂け目から腐臭を漏らす。

骨の形が定まらず、関節が増えたり減ったりする。

そして何より――倒しても、戻る。

首を落としても。

胴を裂いても。

翼を引きちぎっても。

肉が蠢き、骨が組み替わり、白い外皮が縫い合わされる。

まるで“死”が、仕様として許可されていない存在。

「……キリがない……!」

ダイアンが低く唸り、大槌を振り抜いた。

鈍い衝撃音。骨が砕ける感触。

だが――砕けたはずの天使は、次の瞬間には形を取り戻し始める。

「……むぅ……」

短く漏れた声は、苛立ちよりも困惑に近い。

「効かぬか……」

その背後で、ヘトルビースが鉤爪を走らせ、天使の脚を切断する。

断面から白い骨が伸び、肉が被さり、脚が“生えて”いく。

「再生、早すぎにゃ……!」

「気持ち悪いにゃ……!」

ヘトルビースの尻尾が逆立った。

ライブは歯を食いしばり、魔力を練り直す。

強化、回復、防御。

どれも維持し続ければ消耗は加速する。

だが止めれば、前衛が崩れる。

「……倒せないんじゃなくて」

「倒しても……終わらない……!」

戦場の後方。

血まみれの教皇が、壁にもたれながら声を絞り出していた。

ミーニャが必死に止血し、薬を噛ませ、意識を繋いでいる。

「聖下、喋らないで!」

「今は回復が――」

「……構いません」

教皇は震える息で言った。

「これは……私の責任です……!」

その声は弱々しい。

だが視線だけは、戦場全体を捉えていた。

「イグナーツ……隊列を……!」

「騎士団を……散らすな……!」

「御意!」

イグナーツが一歩踏み出す。

剣を抜く動作に、迷いがない。

「天使を名乗る偽物どもが」

「神域を汚すな」

異形の天使が突進する。

だがイグナーツは避けない。

受け止めない。

――叩き潰した。

剣ではない。

拳で。

鈍い音が鳴り、天使の頭部が潰れ、白い体液が散った。

周囲の神殿騎士が一瞬、息を止める。

「……長官、今の……」

「神の思召しのまま」

イグナーツは淡々と答える。

「鍛えたまで」

天使が再生しようと蠢く。

イグナーツは踏み込み、今度は肘で胸を砕いた。

骨が割れ、胴が沈む。

「技だの術だのが必要になるのは」

「鍛え方が足りないからだ」

神殿騎士の目が揺れる。

彼らは信仰で戦ってきた。

だが、あの“怪力”は信仰というより――暴力そのものだ。

「神が何かなど関係ない」

イグナーツの声が冷える。

「ただ居てくださるカオス神を信仰するのみ」

その言葉に、騎士団の背筋が伸びた。

混乱が、恐怖が、わずかに収束する。

だが。

戦場の端で、ネコルトは顔を上げていた。

「……数が多い」

天使は群れで襲う。

倒れた騎士に群がり、裂き、奪い、作り替える。

傷口に白い肉片が侵入し、感染のように広がる個体すらいる。

「……っ、寄るな!!」

神殿騎士が叫び、槍で突く。

だが天使は刺さった槍を掴み、引き寄せる。

そのまま顎が裂け、内側から別の口が開いた。

「う、うわ……!」

悲鳴が潰れ、血が噴いた。

「隊列を崩すな!」

ネコルトが叫ぶ。

「倒すことより、間合いを維持しろ!」

「……そんなの無理だろ!」

誰かが叫び返す。

正しい。

理屈は通っても、身体が持たない。

その瞬間。

白い影が、一直線に落ちてきた。

槍のように突き刺さる天使。

着地の衝撃で石畳が砕ける。

「――っ!」

ナリアが飛び込み、爪で弾く。

フォードが聖剣で斬る。

ピサラが魔力の圧で潰す。

だが。

倒れた天使が、また起き上がる。

「……っ、しつこい……!」

フォードの声が荒い。

剣は確かに通っている。

だが“終わり”にならない。

ピサラの目が細まる。

「……気持ち悪いくらい、戻るね」

「撤退するか?」

クリフが槍を構えたまま言う。

「無理だ」

ネコルトが即答する。

「背後が天聖府。民間人がいる」

「……守るしかない、か」

クリフの吐息が白い。

ミーニャは煙玉を投げ、視界を奪い、糸で動きを縛ろうとする。

だが縛ったはずの部位が、ずるりと“抜け落ちる”。

肉体の構造が変わり、拘束が成立しない。

「……何それ……!」

「ズルじゃん……!」

ライブは詠唱を繰り返す。

強化、強化、強化。

だが魔力の底が見え始めている。

「……ダイアン、下がって!」

「盾が――!」

「……まだだ」

ダイアンが一歩踏ん張る。

盾が軋み、腕が沈む。

そこへヘトルビースが滑り込み、鉤爪で天使の目を抉る。

「こっちにゃ!」

「遊ぶなら、あたしと遊べにゃ!」

だが天使は怯まない。

目が潰れても、別の目が開く。

裂け目から、白い瞳が増えていく。

「……にゃっ……!?」

ヘトルビースの声が揺れた。

「……まずい」

ネコルトの視線が走る。

一体、二体、三体。

天使の群れが、前衛を“押し潰す形”で集まり始めている。

「教皇、イグナーツ!」

ネコルトが叫ぶ。

「中央が崩れる! 左翼を支えろ!」

「……了解……!」

教皇が声を絞り出す。

「イグナーツ……!」

イグナーツは即座に動いた。

騎士団を蹴散らしながら、左翼へ突っ込む。

だが。

大天使が、空中で静かに見下ろしていた。

六枚の翼を揺らし、神聖な光を帯びながら。

「……まだ耐えるか」

澄んだ声。

不気味なほど、綺麗な響き。

「ならば、潰す」

「抵抗の芽を」

その瞬間。

天使たちの動きが変わった。

ただ突っ込むだけではない。

連携し、包囲し、壁を作る。

まるで戦術を理解した軍隊のように。

「……指揮してる」

ネコルトが歯を食いしばる。

「上位個体がいる……!」

フォードが剣を構え直した。

「ネコルト、あれだな」

「空のやつ」

「分かってます」

ネコルトは短く返す。

「ただ――今は届かない」

戦場は、すでに限界に近い。

誰もが傷だらけで、息が荒い。

倒せても終わらない敵に、精神が削られていく。

教皇は血に濡れた指で地面を掴み、必死に声を出した。

「……耐えなさい……!」

「ここで崩れれば……世界が……!」

ネコルトも叫ぶ。

「踏みとどまれ!」

「死ぬな!」

「崩れるな!」

だが。

白き異形の天使たちは、笑うように増えていく。

戦線は、じわじわと押し込まれていった。

誰もまだ、突破口を掴めていない。

誰もまだ、“答え”に届いていない。

それでも、戦場は待ってくれない。

空の大天使が、翼を広げた。

「――次だ」

その一言で、空気が冷えた。

まるで世界が、次の段階へ落ちる合図。

ネコルトは唇を噛む。

「……来る」

戦線が、悲鳴を上げた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ