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完結済『勇者一行を捨てた王国を、金融商が契約で追い詰める 〜残価設定ローンで復讐しながら、魔王から勇者も救い出します〜』  作者: ほまれ


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第十四章 第五十六話 血に濡れる聖域

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

 聖堂に、重たい沈黙が落ちた。

 砕け散ったステンドグラスの欠片が、床に散乱している。

 天井の穴から、朝の光が斜めに差し込んでいた。

 巨大な影が、その光を遮る。

 ナリアの竜の姿。

 翼を広げ、鱗が軋む音を立て、聖堂の空間を圧迫する。

 彼女は低く唸った。

 威嚇。

 警告。

 これ以上、近づくなという意思表示。

 それでも。

 枢機卿ベルトランは、微動だにしなかった。

「……見事な魔獣ですね」

 太った指で、胸の十字飾りをなぞる。

「ですが、ここは神の御座所です」

 その声は、穏やかだった。

 だが。

 次の瞬間。

 彼の足元から、淡く白い光が立ち上った。

「――清浄なる秩序よ」

 空気が、張り詰める。

 ネコルトの視界に、幾何学模様の魔法陣が走った。

「結界?」

 遅い。

 光が収束し、一本の槍の形を取る。

 白銀の光槍。

 その穂先が――

 ネコルトの喉元に、真っ直ぐ向けられていた。

「……!」

 殺意が、はっきりとあった。

 その瞬間。

 影が、割り込んだ。

 巨大な影。

 鱗に覆われた胴体が、ネコルトの前に滑り込む。

「――ナリア!」

 光槍が、彼女の胸元に突き刺さった。

 だが。

 刺さった瞬間、火花が散る。

 竜鱗が、音を立てて削れただけで、貫通しなかった。

「……っ」

 ナリアが、低く唸った。

 その目が、ベルトランを睨む。

 次の瞬間。

 彼女の尾が、唸りを上げて振るわれた。

 風圧が、聖堂の空気を引き裂く。

 石柱が砕け、床が抉れる。

 だが。

 異端審問官たちは、散開していた。

 白い結界が、瞬間的に展開される。

 尾が、それを叩く。

 ガァンッ!!

 金属音のような衝撃。

 結界は砕けたが、三人の異端審問官は、その反動を利用して宙を翻り、着地した。

「……っ」

 ナリアの瞳が、細まる。

 人間。

 だが。

 強い。

「……ほほう」

 ベルトランが、感心したように息を吐いた。

「素晴らしい」

「さすがは異端審問官」

「竜の一撃を、受け流すとは」

 ネコルトの拳が、わずかに握られた。

「……本気で、殺すつもりですか」

「当然でしょう」

 ベルトランは即答した。

「異端は、思想の病です」

「放置すれば、伝染する」

「だから、焼く」

 彼の指が、軽く振られた。

「始めなさい」

 その瞬間。

 異端審問官たちが、一斉に動いた。

 白い光が、彼らの身体を包む。

 筋肉が膨張し、血管が浮き上がる。

 肉体強化。

 そして、それぞれが持つ鈍器。

 棍棒。

 鉄槌。

 メイス。

 すべてに、聖紋が刻まれている。

「……まずい」

 ネコルトが、低く呟いた。

「ナリア」

「分かってる」

 彼女の声が、竜の喉から響く。

 そして。

 再び、尾が振るわれた。

 今度は、薙ぎ払うように。

 床が砕け、石材が宙を舞う。

 だが。

 一人の異端審問官が、正面から受け止めた。

 白い結界を展開し、メイスを構え、衝撃を受け流す。

 そのまま、踏み込む。

 メイスが、ナリアの頬を掠めた。

 鱗が、砕け散る。

 赤い血が、宙に舞った。

「……!」

 ナリアが、怒りの咆哮を上げた。

「――強い、な」

 ネコルトが、息を吸う。

 これが。

 異端審問官。

 狂信の名のもとに、鍛え上げられた殺戮者。

 そして。

 その後ろから。

 ゆっくりと歩み出る影。

 白い神父服。

 穏やかな微笑。

 イグナーツだった。

「……抵抗は無意味ですよ」

 彼の声は、柔らかい。

「あなた方は、すでに“選ばれて”しまった」

「神話の歪みを知り」

「疑問を持ち」

「それを正そうとする」

「それ自体が、異端です」

 ダイアンが、前に出た。

 無言。

 盾を構え、剣を抜く。

 ライブが、一歩横に出る。

「……来るよ」

 ヘトルビースが、耳を伏せた。

「にゃー……嫌な予感しかしないにゃ」

 イグナーツは、ゆっくりと両手を広げた。

「では」

「粛清を、始めましょう」

 その瞬間。

 異端審問官たちが、一斉に踏み込んだ。

 床が、砕ける。

 殺意が、空気を裂いた。

血に濡れる聖域

 最初に崩れたのは、連携だった。

 ダイアンは、前に出すぎていた。

 彼は盾を構え、異端審問官の正面から受け止める。

 白い結界を纏った鉄槌が、容赦なく叩きつけられる。

 ガンッ!!

 衝撃が、骨を震わせた。

「……っ」

 ダイアンの膝が、僅かに沈む。

 強い。

 防げる。だが、削られる。

 その背後で、ライブが詠唱を始める。

「――風よ、刃となれ――」

 だが、詠唱の途中。

 別の異端審問官が踏み込んできた。

 肉体強化で膨れ上がった筋肉。

 聖紋の刻まれた棍棒。

 それが、ライブの側面から振り下ろされる。

「――っ!」

 間に合わない。

 その瞬間。

「にゃああああ!!」

 横合いから、ヘトルビースが飛び込んだ。

 爪で相手の顔を引っ掻き、勢いを逸らす。

 だが。

 棍棒の柄が、彼女の腹を殴った。

「ぐっ……!」

 ヘトルビースの身体が、床を転がる。

 血が、口元から垂れた。

「ヘトルビース!」

 ライブの詠唱が、途切れる。

 その隙。

 ダイアンの正面にいた異端審問官が、盾ごと彼を押し潰しにかかった。

 鉄槌が、叩きつけられる。

 ガァン!!

 盾が、悲鳴を上げた。

 ひびが入る。

 ダイアンの口から、血が零れた。

「……っ」

 強い。

 個々が、強すぎる。

 しかも。

 連携している。

 異端審問官たちは、互いの死角を完璧に補い合っていた。

 聖なる結界で攻撃を弾き、

 肉体強化で距離を詰め、

 鈍器で骨を砕く。

 殺しに、最適化された戦闘。

 それに対し。

 ダイアン、ライブ、ヘトルビースは、即席の三人だった。

 噛み合わない。

 それぞれが、強い。

 だが、強さの方向が違う。

 ダイアンは受ける。

 ヘトルビースは翻弄する。

 ライブは仕留める。

 だが。

 今は、それぞれが孤立していた。

 また一撃。

 ダイアンの肩に、鉄槌が直撃した。

 骨が、嫌な音を立てた。

「――っ!」

 彼は、歯を食いしばる。

 後ろを見る。

 ライブが狙われている。

 ヘトルビースが倒れている。

 守るべき対象が多すぎる。

 受けきれない。

 その瞬間。

「……止めろ」

 ライブの声が、響いた。

 鋭かった。

「ダイアン、前に出すぎ」

「ヘトルビース、単独で突っ込まないで」

「二人とも、私の位置を基準に動いて!」

 一瞬。

 戦場の時間が、ずれた。

「……指揮、する」

 ライブの目が、異端審問官たちを見据える。

 距離。

 動線。

 攻撃の癖。

「ダイアン、左三十度、受け専念!」

「ヘトルビース、右から回って、足狙い!」

「私が、止めを刺す!」

 次の瞬間。

 ダイアンが、一歩、後ろに引いた。

 そして。

 盾を構え直す。

 受けるための構え。

 鉄槌が振り下ろされる。

 ガンッ!!

 衝撃。

 だが、彼は耐えた。

 直後。

 異端審問官の死角から、ヘトルビースが滑り込む。

 低い姿勢。

 爪が、膝裏を裂いた。

「――っ!?」

 体勢が崩れる。

 そこへ。

「――切断」

 ライブの魔法が、放たれた。

 風の刃。

 結界の隙間を縫って、首元を薙ぐ。

 血が、噴き出した。

 異端審問官が、倒れる。

 初めて。

 彼らが、一人倒れた。

 空気が、変わる。

「……行ける」

 ヘトルビースが、血の混じった笑みを浮かべた。

「連携……いいにゃ」

 ダイアンは、何も言わない。

 だが。

 盾を、少しだけ前に出した。

 守る位置。

 次。

 異端審問官が二人、同時に来る。

「ダイアン、正面!」

「ヘトルビース、背後!」

 言葉通り。

 ダイアンが受ける。

 全力で。

 盾が、悲鳴を上げる。

 だが、止まる。

 その瞬間。

 ヘトルビースが、相手の背中に飛びついた。

 目を狙う。

 顔を裂く。

 そして。

「――穿て」

 ライブの魔法が、胸を貫いた。

 血が、床に散る。

 もう一人。

 同じ。

 受ける。

 崩す。

 仕留める。

 三人の動きが、噛み合い始める。

 即席だったはずの三人が。

 一つの戦術になる。

 やがて。

 周囲の異端審問官たちが、次々と倒れていった。

 床は、血で滑る。

 聖堂は、もはや聖域ではなかった。

 その中を。

 白い神父服が、ゆっくりと歩いてくる。

 拍手。

 乾いた音。

「……見事です」

 イグナーツだった。

「即席で、ここまで連携を組むとは」

「素晴らしい」

 その微笑は、変わらない。

 だが。

 目だけが、冷たい。

「ですが」

 彼が、一歩踏み出す。

「それでも、届かない」

 その瞬間。

 彼の身体が、淡く光った。

 聖なる紋章が、全身を走る。

 肉体強化。

 結界。

 同時発動。

 圧が、違う。

「……来る」

 ライブが、息を吸った。

 その頃。

 別の場所では。

 ナリアが、吼えていた。

 竜の姿のままでは、通路が狭すぎた。

 彼女は、姿を縮める。

 鱗が、肌へと変わる。

 翼が消え、

 爪が、指になる。

 龍人形態。

 その姿で、彼女は、前に立つ。

 ネコルトの前。

 異端審問官たちが、殺到していた。

 ベルトランの命令。

「殺しなさい」

 聖なる結界。

 肉体強化。

 鈍器。

 その全てが、ネコルトに向かう。

 ナリアが、前に出た。

 素手で。

 一人のメイスを受け止める。

 骨が、軋む。

 だが。

 彼女は、笑った。

「……通さない」

 彼女の拳が、相手の顎を砕いた。

 血が飛ぶ。

 ネコルトが、その隙を縫って進む。

 目標は、一人。

 枢機卿ベルトラン。

 彼は、笑っていた。

「……来ましたね」

「異端者」

「さあ、話しましょう」

 ネコルトは、立ち止まらない。

「……話すことはありません」

「ありますよ」

 ベルトランは、両手を広げた。

「宗教は、金になります」

「信仰は、商品です」

「希望は、最も高く売れる」

 ネコルトの目が、細くなる。

「……あなたは」

「邪神復活なんて、どうでもいい」

「教皇も」

「イグナーツも」

「純粋で、愚かで」

「使いやすい」

 彼は、懐から小瓶を取り出した。

 黒く濁った液体。

「暗黒神官から、預かりました」

「素晴らしい品ですよ」

 そして。

 それを、一気に飲み干した。

 瞬間。

 肉が、膨張する。

 骨が、歪む。

 皮膚が、裂ける。

 口が、異常に広がる。

 人の形を、失っていく。

「――これで」

「もっと、稼げる」

 怪物が、そこにいた。

「……行く」

 ナリアが、言った。

「一緒に」

 ネコルトは、頷いた。

 二人は、同時に踏み込んだ。

 拳と魔法。

 連携。

 怪物が、吼える。

 鈍器を振る。

 だが。

 ナリアが受け、

 ネコルトが穿つ。

 何度も。

 何度も。

 最後は。

 ナリアが、怪物の顎を砕き。

 ネコルトの一撃が、胸を貫いた。

 ベルトランだったものが、床に崩れ落ちた。

 一方。

 イグナーツの前で。

 ダイアンたちは、押されていた。

 彼は、別格だった。

 結界を張りながら、

 攻撃し、

 避け、

 詠唱も同時に行う。

「……届かない」

 ヘトルビースが、歯を食いしばる。

「にゃ……強すぎるにゃ……」

 そこへ。

 外から、角笛の音。

 重い足音。

「……神殿騎士団」

 ライブが、呟いた。

 増援。

 包囲。

 ネコルトが、振り返る。

 全体を見た。

 そして。

「――撤退」

 即断だった。

「今は、勝てない」

 誰も、反論しなかった。

 彼らは、走った。

 血に濡れた聖堂を、背に。

 イグナーツの声が、響いた。

「……逃がしません」

 だが。

 それは。

 次の戦いの、宣告だった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

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