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完結済『勇者一行を捨てた王国を、金融商が契約で追い詰める 〜残価設定ローンで復讐しながら、魔王から勇者も救い出します〜』  作者: ほまれ


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第十四章 第五十五話 正統神教・天聖府

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

 魔王城の正門が、ゆっくりと開いた。

 朝霧が地面を這い、冷たい空気が肺に染み込む。

「……ここで分かれる」

 ピサラが、淡々と言った。

 フォード、ミーニャ、クリフが彼女の後ろに立つ。

「私たちは、暗黒神官とクエラの所在を追う」

「ネコルト」

「はい」

「あなたたちは、天聖府へ」

 ネコルト、ナリア、ダイアン、ライブ、ヘトルビースが一歩前に出た。

「聖杯の保全と、教会内部の状況確認」

「交渉が成立すれば理想」

「……しなければ?」

 クリフが聞く。

 ピサラは、少しだけ笑った。

「その時は、逃げて」

「……軽く言うな」

「逃げるのも戦術」

 フォードが頷く。

「無理はするな」

「俺たちは必ず合流する」

 ミーニャが、ネコルトに向かって拳を軽く突き出した。

「死なないでよ」

「同様に」

 短い沈黙。

 それぞれが、それぞれの方向へ歩き出す。

 この時点で、誰も知らなかった。

 この分岐が、血で塗り替えられることを。


 正統神教の総本山、天聖府。

 巨大な白亜の聖堂群は、都市そのものだった。

 天を貫く尖塔。

 幾重にも連なる回廊。

 神話を描いたステンドグラス。

「……でかすぎない?」

 ライブがぼそっと言う。

「権威は、威圧で示すものです」

 ネコルトが淡々と答えた。

「にゃー……威圧しすぎにゃ」

 ヘトルビースが耳を伏せる。

 正門で、武装した聖兵に止められた。

「何用だ」

「魔王城より来訪」

「聖杯の件で、上層部との会談を要請します」

 一瞬、空気が変わった。

「……少々、お待ちを」

 明らかに、様子が違う。

 数分後、現れたのは豪奢な法衣に身を包んだ男だった。

 肥え太った体躯。

 金の指輪。

 油のような笑み。

「ほほう……魔族と、その随行ですか」

「枢機卿」

 ネコルトは即座に理解した。

「正統神教・枢機卿、ベルトランと申します」

 視線が、値踏みするように彼らをなぞる。

「ご用件は?」

「聖杯が、暗黒神官に狙われています」

 ネコルトは一切の装飾を排した。

「彼は、邪神復活を企図している」

 空気が、凍った。

「……その言葉」

 枢機卿の目が細くなる。

「どこで、聞きました?」

「事実です」

「証拠は?」

「間に合いません」

 ネコルトは言った。

「今は時間がない」

「聖杯の安全確保を」

「……ほほ」

 枢機卿が笑った。

「なるほど」

「つまり、あなた方は」

「“邪神”の存在を、実在のものとして語る、と」

 ナリアが一歩前に出る。

「私たちは、止めに来た」

「止める?」

 枢機卿の声が冷える。

「“邪神”など存在しない」

「それは、正神カオスに仇なす邪説だ」

 ヘトルビースの尻尾が、苛立たしげに揺れた。

「にゃあ」

「話が遅いにゃ」

「……何を?」

「邪神が復活したら、世界が滅びるにゃ」

「だから、聖杯を出せにゃ」

 その瞬間。

 空気が、完全に変わった。

「――異端だ」

 枢機卿の声は、冷水のようだった。

「……は?」

「異端思想」

「神話の否定」

「正神への冒涜」

 彼は、ゆっくりと腕を広げた。

「異端審問官を」

 鐘の音が鳴った。

 重い、重い音。

 回廊の奥から、黒衣の者たちが現れる。

 三人。

 そして。

 最後に現れた一人。

 白い神父服。

 穏やかな微笑。

 ネコルトの喉が、ひくりと鳴った。

「……あなたは」

 男が、穏やかに頷く。

「ええ」

「王都で、お会いしましたね」

 ネコルトの脳裏に、過去の光景がよみがえる。

 怪我をした市民を治療していた。

 迷子の子どもをあやしていた。

 宿を紹介してくれた。

 優しい神父。

「普段は、王都で神父をしています」

 男は言った。

「人々の心に、異端が芽生えていないか」

「それを見つけるために」

 穏やかな笑顔のまま。

「改めまして」

 彼は一歩、前に出た。

「異端審問官長官、イグナーツです」

 ナリアの瞳が、鋭くなる。

「……騙してたの?」

「いいえ」

 イグナーツは首を振った。

「助けたのは、事実です」

「救った命も、本心です」

 そして。

「ですが」

 その声が、わずかに低くなった。

「あなた方は、異端と判明した」

「残念ですが」

 ゆっくりと、手を広げる。

「排除します」

 刹那。

 ナリアの背後で、空気が震えた。

 彼女の身体が、変形する。

 鱗。

 翼。

 爪。

 天井を突き破る勢いで、巨大な影が立ち上がる。

 ドラゴン。

 聖堂のステンドグラスが、悲鳴のように砕け散った。

「……交渉決裂です」

 ネコルトが言った。

 血の匂いが、もう漂い始めていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

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