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『勇者一行を捨てた王国を、金融商が契約で追い詰める 〜残価設定ローンで復讐しながら、魔王から勇者も救い出します〜』  作者: ほまれ


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第十二章 第五十話 前編忠臣の竜と、龍姫の選択

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

 ――暗い。

 ――深い。

 ――何もない。

 ナリアの意識は、ただ漂っていた。

 叫ぼうとしても、声が出ない。

 触れようとしても、何も掴めない。

 自分の体が、外で暴れていることだけは分かる。

 分かるのに、止められない。

(……まただ)

(また、私は)

(何も出来ずに、見てるだけ……)

 そのとき。

「……久しぶりだな」

 低く、重く、老成した声がした。

「……誰?」

 ナリアは、振り返る。

 そこにいたのは。

 巨大な竜だった。

 だが、狂気に歪んだ姿ではない。

 静かで、威厳があり、

 何かを見守り続けてきた“古き存在”の目をしていた。

「わしか?」

 竜は、ふん、と鼻を鳴らした。

「――毒竜王じゃ」

 ナリアの意識が、震えた。

「……毒竜王……?」

 聞いたことがある。

 魔王四天王。

 最強の竜。

 討伐された存在。

 ナリアは、思わず後ずさった。

「……なんで、あなたが、私の中に……」

「決まっとる」

 毒竜王は、どっしりと構えた。

「お前たちが、わしを“燃料”にしたからじゃ」

「……!」

「狂龍化の安定化。

 力の演算。

 制御補助」

 鼻で笑う。

「小賢しいことを考えよる」

 ナリアの胸が、苦しくなる。

「……じゃあ、あなたも……」

「被害者か?」

 毒竜王は、少しだけ目を細めた。

「……そうとも言える」

 だが。

「同時に」

「わしは、見ていた」

「……見てた?」

「お前のことじゃ」

 ナリアは、言葉を失った。

「怒り」

「悲しみ」

「恐怖」

「諦め」

「……それでも、折れきらぬ魂」

 毒竜王は、鼻を鳴らした。

「頑固で、不器用で」

「……どこか、わしに似とる」

「……」

 ナリアは、拳を握った。

「……だったら」

「なんで、助けなかったの」

 声が、震える。

「ずっと……見てたなら……」

 毒竜王は、しばらく黙っていた。

 そして。

「……わしは、もう死んでおる」

「干渉できるほどの力は、残っとらん」

「ただ、観察するだけじゃ」

 ナリアは、歯を噛みしめた。

「……それって……」

「……今の私と同じじゃない……」

 毒竜王の目が、わずかに見開かれた。

「……ほう」

 そして、静かに笑った。

「やはり、似とる」

 ナリアは、顔を上げた。

「……ねえ」

「あなた、なんで……」

「なんで、そんなに落ち着いてるの」

「……全部、奪われたんでしょ」

 毒竜王は、少しだけ視線を逸らした。

「……わしは」

「魔王様に、仕えとった」

 ナリアの胸が、ざわついた。

「……魔王……ピサラ……」

「あやつはな」

 毒竜王の声は、静かだった。

「馬鹿で」

「不器用で」

「面倒臭がりで」

「……」

「だが」

「王じゃ」

 ナリアは、黙って聞いていた。

「誰もが嫌がる仕事を引き受け」

「誰もが投げ出したくなる責任を背負い」

「誰にも理解されん重さを、抱えとった」

 拳を握る。

「……あやつは」

「孤独だった」

 ナリアの脳裏に、ピサラの姿が浮かぶ。

 飄々としていて。

 軽くて。

 ふざけているようで。

 でも。

 どこか、寂しそうな背中。

「わしは」

 毒竜王は、胸を張った。

「相談役だった」

「愚痴も」

「弱音も」

「迷いも」

「全部、聞いた」

 ナリアの喉が、詰まった。

「……じゃあ」

「なんで……」

「あなたが、死んだの」

 毒竜王の目が、冷たくなる。

「……暗黒神官と、大魔公爵じゃ」

「……!」

「邪神復活を企む者と」

「成り上がりたい小物」

「その両方に、わしは邪魔だった」

 ナリアの胸が、ざわつく。

「……理由は、まだ言わん」

 毒竜王は、低く言った。

「お前が知るには、まだ早い」

「……」

「だが、一つだけ」

 ナリアを、真っ直ぐ見つめる。

「わしは」

「最後まで、魔王様を裏切らなかった」

 ナリアの胸が、締め付けられた。

「……だったら」

「……なんで」

 声が、震える。

「……私に、こんな話をするの」

 毒竜王は、ゆっくりと近づいた。

「決まっとる」

「お前が、ここにいるからじゃ」

「……」

「このままなら」

「お前は壊れる」

「外からも」

「内からも」

 ナリアは、唇を噛んだ。

「……もう……」

「……壊れかけてる……」

 毒竜王は、鼻を鳴らした。

「なら、選べ」

「……何を」

「生きるか」

「壊れるか」

「……」

「わしは」

 毒竜王の声が、低く、重くなる。

「お前に、提案をしに来た」

「――契約じゃ」

 ナリアの意識が、震えた。

「……契約?」

「わしの力」

「わしの記憶」

「わしの忠義」

「すべて、くれてやる」

 ナリアの目が、見開かれる。

「……そんなの……」

「……なんで……」

 毒竜王は、鼻で笑った。

「頑固親父の、気まぐれじゃ」

「……」

「それに」

 少しだけ、柔らかくなる。

「……お前には」

「背負える顔をしとる」

 ナリアの胸が、苦しくなる。

「……そんなの……」

「……重すぎる……」

「知っとる」

 即答だった。

「忠義は、重い」

「誇りも、重い」

「王を支えるとは、そういうことじゃ」

 ナリアは、俯いた。

「……私……」

「……そんな立派じゃない……」

「知っとる」

「……!」

「だから、ちょうどいい」

 毒竜王は、どっしりと笑った。

「完璧な者など、王を支えられん」

「欠けた者の方が、よい」

 ナリアは、ゆっくり顔を上げた。

「……私が……」

「……あなたの代わりになるの……?」

「代わりではない」

 毒竜王は、首を振った。

「お前は、お前じゃ」

「だが」

「……選ぶ権利は、ある」

 ナリアの脳裏に、仲間たちの顔が浮かぶ。

 ネコルト。

 フォード。

 ライブ。

 ミーニャ。

 クリフ。

 ダイアン。

 そして。

 魔王ピサラ。

 戦う姿。

 笑う姿。

(……私)

(……まだ……)

(……終わりたくない……)

 ナリアは、顔を上げた。

「……教えて」

「……契約したら……」

「……私は、どうなるの」

 毒竜王は、ゆっくり言った。

「狂気ではなく」

「力として」

「理性とともに」

「龍になる」

 ナリアの瞳が、揺れる。

「……人じゃ……なくなる……?」

「半分はな」

 正直だった。

「だが」

「“お前”は、消えん」

 ナリアは、深く息を吸った。

 そして。

「……信じる」

 毒竜王の目が、見開かれた。

「……ほう」

「……私、もう」

「勝手に壊されるの、嫌だから」

「……選ぶ」

 毒竜王は、ゆっくり笑った。

「よかろう」

 そして、低く言った。

「――契約成立じゃ」

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

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