第十二章 第四十九話 傍観者と、王と、竜の声
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狂龍ナリアの咆哮が、空間を震わせる。
だが。
その魔力の流れが、わずかに――乱れた。
「……効いてる!」
ミーニャが叫ぶ。
ライブの魔力制御が、狂龍化の回路を抑え込んでいる。
ナリアの動きが、一瞬、鈍る。
「ナリア!!」
ネコルトが叫んだ。
「聞こえますか! あなたは――」
狂龍の瞳が、揺れた。
紫の奥に、一瞬だけ。
人の色が浮かぶ。
「……っ」
ダイアンが息を呑む。
だが。
「――甘い」
低く、嗤う声。
空間が歪んだ。
「な――」
ネコルトが振り返る。
そこにいたのは。
大魔公爵。
狂龍ナリアの背後に立ち、その背中に手を添えていた。
「気づかなかったか?」
指先が、ナリアの首筋に触れる。
「私は“外”から制御していたわけではない」
唇が歪む。
「――“中”に入っていた」
「……!」
次の瞬間。
狂龍ナリアの魔力が、爆発的に増大した。
「くっ……!」
クリフが吹き飛ばされる。
ミーニャが転がる。
ダイアンが盾を地面に突き立て、衝撃を受け止める。
「どういう……!」
ネコルトが叫ぶ。
大魔公爵は、愉快そうに肩をすくめた。
「私は“燃料”だ」
「彼女の龍化を、私の魔力で維持している」
笑う。
「止めたくば――私ごと止めろ」
「……っ」
ネコルトは歯を食いしばる。
「……全員!」
声を張り上げる。
「プランCに移行します!」
「了解!」
「やるぞ!」
総力戦が始まった。
クリフが突っ込む。
ミーニャが撹乱する。
ダイアンが前線を支える。
ライブが制御を続ける。
ネコルトは、“構造”を見る。
狂龍。
大魔公爵。
術式。
魔力循環。
――見えた。
「……ここだ!」
ネコルトが叫ぶ。
ミーニャが跳ぶ。
クリフが突破する。
ダイアンが、ナリアの爪を受け止める。
そして。
ネコルトが、最後の楔を打ち込んだ。
「拘束……完了!」
光の鎖が、ナリアと大魔公爵を包む。
「……っ」
大魔公爵が、初めて顔を歪めた。
「……なるほど」
肩で息をしながら、笑う。
「ここまで来るとは」
だが。
彼は、静かに胸に手を当てた。
「――ならば、最後の一手だ」
「……何を」
ネコルトが警戒する。
大魔公爵は、自分の心臓に指を突き立てた。
「なっ――!」
「私の魂を、彼女の中に固定する」
「狂龍化を、“不可逆”にする」
「……!」
ライブの顔が青ざめた。
「そんなこと……!」
「出来るさ」
嗤う。
「私は――大魔公爵だ」
術式が展開される。
空間が歪む。
ナリアの龍化が、再び暴走し始める。
「……間に合わない……!」
ネコルトが叫ぶ。
誰も、止められない。
その時。
「――ああ、もう」
間の抜けた声が、空から降ってきた。
「やりすぎやりすぎ」
全員が、顔を上げる。
そこにいたのは。
少女の姿をした魔王。
ピサラ。
その隣には――
「フォード……!」
ネコルトが叫んだ。
「よっ!」
フォードが、軽く手を振る。
「久しぶり!」
ピサラは、ゆっくりと地面に降り立つ。
そして。
術式に、指を伸ばした。
「はい、ストップ」
世界が、止まった。
術式が凍結する。
魔力の奔流が、静止する。
大魔公爵が、目を見開いた。
「……魔王、ピサラ」
彼女は、くるりと首を傾げた。
「うん」
「いやー」
にこにこ。
「なかなか楽しい余興だったよ」
「…………」
大魔公爵は、静かに笑った。
「全て、ご存知でしたか」
「当然」
即答。
「だって、私だもん」
そして、少しだけ目を細める。
「でもさ」
「君の張った結界、あれは大変だった」
「探すのに苦労したよ?」
大魔公爵は、愉快そうに笑った。
「それは光栄です」
そして。
目が、狂気に染まる。
「……では」
「最後に」
彼は、無理やり術式を再起動させた。
「な――!」
ピサラが、眉を上げる。
「……へえ」
ナリアの体内で。
何かが――
動いた。
――暗い。
――深い。
――静かな場所。
ナリアの意識は、そこにいた。
傍観者として。
何も出来ず。
何も触れず。
ただ、見ていた。
その時。
「……久しぶりだな」
声がした。
低く。
重く。
古い。
「……誰?」
ナリアが問う。
「わしか?」
笑う。
「――毒竜王だ」
ナリアの世界が、ひび割れた。
「お前の中で」
声が囁く。
「長いこと、眠っていた」
「……観察は、終わりだ」
ナリアの意識が、震えた。
「さあ」
毒竜王が、囁く。
「“契約”の時間だ」
――世界が、再び、動き出した。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




