第十二章 第四十七話 龍姫の誇りと、嫌いだった男
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——ナリアは、夢を見ていた。
いや、夢というより、記憶の奔流だった。
意識が混濁し、狂龍化した身体の奥底で、彼女は過去へと引きずり込まれていく。
ナリアは、龍華帝国の姫だった。
“龍姫”と呼ばれ、帝国中から崇められ、守られ、甘やかされて育った。
剣を振れば、皆が褒めた。
魔力を放てば、皆が歓声を上げた。
泣けば、誰かが慰めた。
怒れば、誰かが頭を下げた。
——それが当たり前だった。
だから。
ナリアは、武の世界に憧れた。
自分の力が、本当に通じる場所へ。
帝国主催の武闘大会に出ると宣言したとき、周囲は猛反対した。
「姫君がそんな危険なことをする必要はありません」
「怪我をしたらどうするのです」
「龍姫の尊厳が——」
うるさい。
うるさい、うるさい、うるさい。
「私は、私の力を知りたいの!」
そう叫んで、ナリアは無理やり参加した。
——そこで出会った。
クリフ。
真っ直ぐで、強くて、優しくて。
何より、自分を姫扱いしなかった男。
彼は、ナリアに勝った。
全力で。
容赦なく。
真正面から。
倒れたナリアに、彼は手を差し伸べた。
「立てるか?」
それだけだった。
慰めも、媚びも、遠慮もなかった。
——心臓が、跳ねた。
(……なに、この人)
初めてだった。
自分を“龍姫”じゃなく、一人の戦士として見た男。
ナリアは、即決した。
(婿にする)
だから、勇者一行に無理やり同行した。
目的はひとつ。
クリフを落とすこと。
「クリフ! 今日も一緒に修行しよう!」
「クリフ! この街で一番高い宿に泊まろう!」
「クリフ! これ、私が焼いた肉!」
猛アタック。
だが——
クリフは、ミーニャと付き合い始めた。
……意味が分からなかった。
何がいけなかったのか。
何が足りなかったのか。
分からなかった。
ナリアは荒れた。
物に当たった。
喧嘩を売った。
八つ当たりした。
そして。
あの男に、捕まった。
——ネコルト。
ナリアが一番苦手な男。
理屈っぽくて。
説教臭くて。
感情論を嫌って。
「君はどう思う?」とか言ってくる。
面倒くさい。
鬱陶しい。
嫌い。
そのネコルトが、ナリアを呼び止めた。
「……少し、話をしましょうか」
「嫌」
「拒否権はありません」
「何それ!」
そのまま、二人きりにされた。
ナリアは腕を組み、睨んだ。
「説教なら聞かないから」
ネコルトは、ため息をついた。
「分かっています。だから、結論から言います」
「……?」
「今の君なら」
彼は、淡々と言った。
「私でも、勝てます」
——ブチッ。
「は?」
「戦闘力の話です」
「……殺す」
「どうぞ」
ネコルトは、杖を構えた。
「決闘にしましょう」
——そして。
圧倒された。
ナリアは、信じられなかった。
自分の攻撃が、すべて読まれている。
動きが、誘導されている。
間合いを、支配されている。
「君は——」
ネコルトは、戦いながら説教した。
「才能がある」
「努力もしている」
「でも」
淡々と。
「“理解しようとしていない”」
「他人も」
「自分も」
「……うるさい!」
ナリアは、キレた。
龍の力を、一瞬だけ解放した。
その瞬間。
ネコルトは、地面に叩きつけられ、悶絶した。
「……っぐ……!」
だが。
苦しみながら、彼は言った。
「……今の顔の方が……」
「……え?」
「ずっと……素敵ですよ」
ナリアは、固まった。
「……は?」
「怒って……悔しがって……」
「……その方が……生きてる」
理解できなかった。
意味が分からなかった。
でも。
胸が、苦しくなった。
——それが、始まりだった。
そこから。
ナリアとネコルトは、よく話すようになった。
武の理屈。
魔力の構造。
戦術。
帝国の話。
旅の話。
そして——
一緒に、魔道具を作った。
ナリアの龍の力を、暴走させずに制御する装具。
ネコルトは徹夜した。
ナリアも徹夜した。
途中で、眠って、机に突っ伏して。
ナリアが先に起きて、ネコルトの寝顔を見た。
(……むかつく)
(……でも)
(……嫌いじゃない)
そう思ってしまった。
それが、怖かった。
——だから、ずっと苦手だった。
彼は、ナリアの世界を壊す男だった。
誇りも。
甘えも。
逃げ道も。
全部、壊してくる。
なのに。
誰よりも、自分を見ていた。
——その記憶が。
今。
狂龍化した意識の奥で、浮かび上がる。
(……ネコ……ルト……)
ナリアの意識は、濁流の中にあった。
怒り。
衝動。
破壊衝動。
でも。
その奥で。
彼の声が、聞こえた。
「君は、誇り高い」
「それを、忘れないでください」
(……うるさい……)
(……説教……)
なのに。
涙が、溢れた。
(……会いたい……)
狂龍の咆哮が、研究施設を揺らす。
外では。
ネコルトたちが、戦っている。
ナリアはまだ知らない。
彼が、すぐそこまで来ていることを。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




