第十二章 第四十四話 焦りと、檻の中
お読みいただきありがとうございます。
是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
準備は、まだ終わらなかった。
地図は何度も書き換えられ、魔力反応の予測線が引き直され、ネコルトの箱の中身も、配置が微調整され続けている。
だが――
それを、じっと見ていられなかった者がいた。
「……いつまでだ」
低く、押し殺した声。
ダイアンだった。
彼は壁際に立ち、腕を組み、苛立ちを隠そうともせずに言った。
「もう十分だろう」
誰もすぐには返事をしなかった。
地図を睨み続けるネコルト。
符を整えているミーニャ。
槍の柄を磨くクリフ。
その沈黙が、余計にダイアンの焦りを煽る。
「ライブは、今も捕まっているんだぞ」
その言葉に、ミーニャが顔を上げた。
「分かってる」
そして、はっきりと言った。
「だからこそ、ここで失敗できない」
クリフも続く。
「ネコルトはな」
彼はネコルトの横顔を見た。
「焦ってないんじゃない。必死に、抑えてるんだ」
ダイアンは眉を寄せる。
「……どういう意味だ」
ミーニャが、少しだけ声を落とした。
「ネコルトも、助けたい人がいる」
その視線が、ネコルトに向く。
「しかも――」
クリフが言葉を継いだ。
「たぶん、俺たちよりもずっと重い」
ダイアンは、ネコルトの顔を見た。
いつもと同じ、冷静な表情。
だが――
よく見れば、目の奥にあるのは、焦燥と恐怖と、怒りを押し殺した色だった。
「……」
ダイアンは、ゆっくりと頭を下げた。
「……すまない」
ネコルトは、顔を上げた。
「……いえ」
静かな声だった。
「理解してくれれば、それで」
だが、その直後。
ミーニャが、何気ないように言った。
「でもさ」
にやっとする。
「ナリアのことになると、ネコルトも余裕ないよね」
――空気が、凍った。
「え?」
ネコルトが、完全に固まった。
「な、なにを……」
視線が泳ぐ。
明らかに、挙動不審。
クリフが、首を傾げる。
「……あれ、秘密のつもりだったのか?」
「え?」
ネコルトの声が裏返った。
「え?」
ダイアンが、無言で見ている。
ヘトルビースが、ぽつりと。
「……バレバレだったにゃ」
「」
ネコルトは、真っ赤になった。
「ち、違います、あれは、その……!」
言葉が迷子になる。
「私は、あくまで、仲間として、合理的判断として……!」
ミーニャが、じっと見つめる。
「……ふーん」
クリフが、にやりと笑った。
「顔に出すぎだ」
ネコルトは、完全に動揺していた。
耳まで赤い。
ダイアンは、しばらくその様子を見てから――
ふっと、息を吐いた。
「……すまない」
今度は、はっきりと。
「俺は……自分のことで頭がいっぱいだった」
ネコルトは、しばらく固まっていたが。
やがて、小さく笑った。
「……お互い様、ですね」
そして。
「だからこそ」
彼は、地図を叩いた。
「失敗しない」
その目に、迷いはなかった。
***
準備は、間もなく整った。
物資。
経路。
脱出手段。
陽動。
偽装。
全てが、組み上がる。
夜明け前。
一行は、静かに王都を発った。
目指すは――
暗黒神官の研究施設。
***
一方、その頃。
地下深く。
冷たい魔法陣の中央に、少女がいた。
ライブ。
身体には、幾重もの隷属紋様。
首輪。
拘束具。
思考制限。
彼女の意識は、半分眠らされていた。
「……始める」
暗黒神官の声。
彼女の前には、巨大な結晶。
そこに封じられた――
毒竜王の魂。
「これを――」
神官は、淡々と言った。
「龍拳士ナリアに降ろす」
魔法陣が、光る。
魂が、蠢く。
ライブの胸に、激痛が走った。
「……っ」
歯を食いしばる。
脳裏に流れ込む、竜の記憶。
殺意。
咆哮。
飢え。
――狂龍化。
だが。
(……おかしい)
朦朧とする意識の中で、ライブは考えた。
(これは……本命じゃない)
狂わせることが、目的ではない。
力を引き出すことが、目的でもない。
(……これは、手段)
ナリアの龍化は。
この研究の――
“途中段階”に過ぎない。
(……本当の目的は……)
答えは、分からなかった。
だが、ひとつだけ。
はっきりと分かることがあった。
(……まずい)
これは。
世界を壊す類の研究だ。
その時。
遠くで、何かが――
動いた。
***
ネコルトたちは、まだ知らない。
この救出が。
“助ける”だけで終わらないことを。
ここから先が。
本当の、地獄の入口であることを。
最後までお読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。
ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。
また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




