第十一章 第四十一話 祝辞という名の宣戦
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玉座の間には、まだ戦の匂いが残っていた。
血。
鉄。
焼けた魔力の残滓。
それらを背に、シレッタは静かに玉座の前に立っていた。
――女王として。
その時。
重い扉が、ゆっくりと開いた。
ざり……ざり……と、足音。
現れたのは――
大臣だった。
その背後には、武装した一団。
第二王子の姿もある。
クーデター軍の本体だった。
国王は息を呑んだ。
「な……ぜ……」
王女――いや、女王シレッタは一歩も動かなかった。
「……生き残っていましたか」
大臣は、深々と頭を下げた。
「おめでとうございます、陛下」
ざわ、と空気が揺れる。
「内乱を制し、王位を継承されたこと、心より祝福申し上げます」
だが。
その声は、どこか――
不自然だった。
抑揚がない。
感情がない。
まるで、文章を読み上げているかのようだった。
シレッタは、静かに言った。
「……随分と、都合のいい祝辞ですね」
大臣は、微笑もうとした。
だが。
口元が、引き攣った。
「いえ……いえ……これは……正当な……」
声が、途切れた。
「……しゅく……しゅく……」
舌が、もつれ始める。
ミーニャが、小さく呟いた。
「……来る」
大臣は、震え始めた。
「……その……王位……」
目が、異様に見開かれる。
「……その王位を……」
声が、二重に響く。
人間の声と、
別の何かの声が重なっていた。
「――私に、譲れェェェェ!!」
その瞬間。
大臣の身体が、歪んだ。
骨が、軋む。
肉が、盛り上がる。
皮膚が、裂ける。
人間の形を、保てなくなる。
醜悪な、角。
引き裂かれたような翼。
裂けた口。
赤黒い眼球。
――悪魔のような姿。
玉座の間に、悲鳴が上がる。
「な……何だ、これは……!」
だが、それは――
始まりに過ぎなかった。
第二王子が、苦しみ出す。
「う……あ……?」
彼の腕が、膨張し、変形する。
兵士たちも、次々と呻き声を上げる。
「ぐ……が……!」
「助け……っ!」
だが。
彼らは助けを求めることすらできず。
身体が裂け。
顔が歪み。
魔物の姿へと変貌していった。
ダイアンが、剣を抜いた。
「……人間じゃ、なくなってる」
クリフが唾を飲み込む。
「……いや。
“人間だったもの”だ」
大臣――いや、それだった何かが、嗤った。
「さあ……」
「始めようか」
「王位を賭けた……最終戦争を」
その瞬間。
魔物たちが、一斉に襲いかかった。
――戦闘は、凄惨だった。
ヘトルビースが、前に出る。
「下がれ、にゃ!」
爪が閃き、魔物の首を裂く。
魔力の咆哮が、床を抉る。
ダイアンは、黙って前に出た。
無言。
一振り。
また一振り。
正確で、無慈悲で、迷いがない。
ミーニャの魔術が炸裂する。
空気が歪み、敵が吹き飛ぶ。
クリフが跳躍し、喉元を貫く。
「数が多いな!」
ネコルトは、戦場全体を見ていた。
「……ですが、統制がありません」
「獣の集団です」
彼は、静かに言った。
「崩せます」
シレッタは剣を抜いた。
「全軍!」
声が響く。
「――迎撃せよ!」
近衛、親衛、正規兵。
魔族。
獣人。
すべてが、一斉に動いた。
斬撃。
魔術。
咆哮。
肉が裂ける音。
骨が砕ける音。
叫び。
悲鳴。
そして――
静寂。
床には、倒れた魔物の山。
玉座の間は、もはや原型を留めていなかった。
立っているのは――
大臣。
そして、第二王子。
大臣は、すでに人の形を保っていなかった。
歪んだ角。
裂けた翼。
異様に長い腕。
口は、耳元まで裂けている。
第二王子もまた、半分以上が異形だった。
「……ま……まだだ……」
第二王子が、震える声で言った。
「まだ……終わってない……」
シレッタは、一歩前に出た。
剣を構え、静かに言う。
「――もう、終わりです」
その言葉に。
二人は――笑った。
「終わり……?」
大臣の口が、異様に広がる。
「違う……」
彼は、虚空を見上げた。
「まだだ……」
「まだ……」
そして、叫んだ。
「――おお、大魔公爵よ!!」
空気が、歪んだ。
「我らに……!」
「我らに、さらなる力を!!」
第二王子も、縋るように叫ぶ。
「お願いします……!」
「もっと……!」
「もっと、強く……!」
その瞬間。
大臣の首が、ぎこりと――
第二王子の方へ、回った。
「……え?」
第二王子が、言葉を失う。
次の瞬間。
大臣の顎が、異様に開いた。
人間の口ではありえないほど。
裂け。
割れ。
歪み。
――喰らいついた。
「ぎゃ―――っ!!?」
第二王子の悲鳴が、空間を裂く。
だが。
それは、すぐに――
音にならなくなった。
骨が砕ける音。
肉が潰れる音。
血の飛び散る音。
大臣は、第二王子を丸ごと喰らった。
飲み込む。
咀嚼する。
吸収する。
その身体が――
さらに巨大化する。
筋肉が隆起し。
骨格が変形し。
翼が広がり。
魔力が、嵐のように噴き上がる。
そして。
倒れていたクーデター軍だった魔物たちが――
ずる……ずる……
引き寄せられるように、動き出した。
肉が、溶ける。
骨が、崩れる。
影のように、大臣の身体へと吸い込まれていく。
「……な……」
クリフが、息を呑む。
「合体……?」
「いや……」
ミーニャが呟く。
「――統合」
ヘトルビースの耳が伏せられる。
「……最悪にゃ……」
大臣だったそれは――
もはや、何だったのか分からない存在になっていた。
巨大。
異形。
圧倒的な魔力。
玉座の間の天井が、ひび割れる。
床が、沈む。
空間が、悲鳴を上げる。
その化け物が、嗤った。
「……はは……」
「力だ……」
「これが……本当の力だ……」
シレッタは、歯を食いしばった。
「……なんて、愚かな……」
そのとき。
ネコルトが、一歩前に出た。
いつも通りの、落ち着いた声で。
いつも通りの、冷静な目で。
彼は、言った。
「……ええ」
そして、わずかに口角を上げる。
「ここからが――」
「本番みたいですね」
異形の怪物が、ゆっくりと腕を振り上げた。
空気が、軋む。
魔力が、暴れる。
戦いは――
まだ、始まったばかりだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




