第十一章 第四十話 王の見る世界
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王城の奥、玉座の間。
国王は、疲れ切った顔で玉座に座っていた。
「……理解できん」
それは、誰に向けた言葉でもなかった。
「多少の対立はあった。政治的な衝突も、利害の不一致も、何度も経験してきた」
拳を握る。
「だが……」
声が荒れる。
「なぜ、クーデターなどという愚行に至る必要があった!?」
返事はない。
玉座の横に立つのは、皇太子。
そして、いつの間にか定着していた数名の側近たち。
「父上、それは見方が甘すぎます」
皇太子が言った。
どこか、浮ついた声。
「彼らは“改革者”だったのです。国をより良くしようと――」
「黙れ」
国王は、低く唸った。
「お前は何も見ていない」
皇太子は、むっとしたように口を尖らせる。
「それは偏見です。彼らはこう言っていました。
“民衆は混乱を望んでいる”と」
「……は?」
「だから、内戦はむしろ――」
国王は、頭を抱えた。
「誰だ、そんなことを言ったのは」
皇太子は、ちらりと側近を見る。
「……彼らです」
国王の目が、細くなる。
「お前は、何も疑わなかったのか」
「疑う必要がないではありませんか」
皇太子は胸を張った。
「彼らは、私の味方なのですから」
国王は、歯を噛み締めた。
「……愚か者」
皇太子は、ムッとした。
「それに、将軍も信用なりません」
「何?」
「あの男、妹――シレッタのスパイです」
「……誰が言った」
「彼らが」
また、側近を見る。
国王の中で、何かが音を立てて崩れた。
「……それで」
声が、掠れる。
「だから、将軍を遠ざけたのか」
「はい」
誇らしげに答える皇太子。
「父上のためです」
国王は、立ち上がった。
「何が悪かったのか、私は知りたい!!」
怒鳴り声が、玉座の間に響く。
「なぜ、こうなった!」
「なぜ、誰も止めなかった!」
「なぜ……!」
その時。
轟音がした。
遠くから、剣戟の音。
悲鳴。
爆発音。
皇太子が怯える。
「な、何ですか!?」
側近の一人が言う。
「……クーデター軍が、押されています」
国王が、目を見開いた。
「なに……?」
次の瞬間。
扉が、開いた。
血と埃と、鉄の匂いをまとって。
そこに立っていたのは――
シレッタ王女だった。
背後には、クーデター討伐軍。
近衛。
親衛。
正規兵。
そして、魔族の姿もあった。
王女は、ゆっくりと歩み出る。
「……父上」
国王は、思わず声を上げた。
「シレッタ……!
無事だったのか!」
一瞬、希望が灯る。
「よかった……まだ、味方が……」
だが。
王女の目は、冷たかった。
「――いいえ」
国王の表情が、固まる。
「私は、あなたの味方ではありません」
「……なに?」
王女は、まっすぐに言った。
「私は、この国の味方です」
そして。
「あなたは、その責務を放棄しました」
国王は、言葉を失う。
「……シレッタ?」
「何も判断せず」
「何も疑わず」
「部下の言いなりになり」
「事態を悪化させ続けた」
一歩、近づく。
「トップが無能なのは、それだけで罪です」
静かな声だった。
だが、重かった。
「……」
国王は、膝から力が抜けそうになった。
「私は……」
震える声。
「私は……王として……」
「何もしていませんでした」
王女が、はっきり言った。
その言葉は、刃だった。
長い沈黙。
やがて。
国王は、ゆっくりと、王冠に触れた。
「……もう、疲れた」
王女が、何も言わない。
「私は……もう、王でいる資格がない」
王冠を、外す。
「……王位を、お前に譲る」
玉座の間が、静まり返る。
王女は、しばらく黙っていた。
そして。
穏やかな声で言った。
「わかりました」
国王は、顔を上げる。
「……怒っているのか」
「いいえ」
王女は、微笑んだ。
「私は、王になります」
「だから」
彼女は、優しく言った。
「父上が、せめて穏やかな老後を過ごせるように努力します」
国王の目に、涙が浮かんだ。
「……すまなかった」
「はい」
王女は、深く一礼した。
「……そのつもりです」
その時。
近衛の一人が、駆け込んできた。
「報告!」
「皇太子殿下の姿が――見当たりません!」
一瞬で、空気が凍る。
「……何?」
「部屋にも、側にも……!」
王女は、ゆっくりと振り返った。
玉座の間の、隅。
先ほどまでいたはずの――
側近たちの姿も、消えていた。
「……なるほど」
王女の目が、細くなる。
「……始まった、ということですね」
国王は、愕然とした。
「シレッタ……」
王女は、背を向けた。
「あなたは、もう“王”ではありません」
そう言って。
「安心してください」
振り返らずに言った。
「この国は、私が守ります」
その背中は――
もう、完全に。
王だった。
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そちらもよろしかったらご一読ください。




