第十章 第三十七話 逆流
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宿の一室。
机の上には、何十枚もの契約書と法令文書が並べられていた。
ミーニャ、クリフ、ダイアン、ヘトルビースが、それを囲んでいる。
「……で?」
ミーニャが腕を組む。
「その“逃げ道”って、何?」
ネコルトは、一枚の紙を指で叩いた。
「破産申請です」
一瞬、誰も言葉を発しなかった。
「……は?」
ミーニャが間抜けな声を出す。
クリフが首を傾げる。
「それって……助ける制度じゃないのか?」
「“知っていれば”です」
ネコルトは淡々と答えた。
「市民は知らない。役所は教えない。契約書は意図的に読めなくしてある」
彼は、魔法印の並んだ一文を指さした。
「ここです」
「“返済不能時における再生申請”」
ダイアンが眉をひそめる。
「……書いてある」
「書いてあるだけです」
ネコルトは冷静だった。
「申請方法は複雑」
「期限は短い」
「保証人の解除条件は別紙」
「しかも、これ――」
彼は、別の文書を重ねた。
「最近、大臣派が通した“自己破産救済法案”に基づいています」
ミーニャが目を見開く。
「……あれって、商工会救済のためじゃ……」
「その通りです」
ネコルトは、皮肉げに笑った。
「“上の人間”が逃げるための制度を、市民にも適用してしまった」
「ただし、教えなければ意味がないと思っている」
クリフが小さく笑った。
「……馬鹿だな」
「傲慢なんです」
ネコルトは静かに言った。
「市民が法律を理解できるわけがない」
「申請できるわけがない」
「自分たちの市場が崩れるわけがない」
彼は、ゆっくりと立ち上がった。
「――だから、崩れます」
ヘトルビースが耳を伏せる。
「どうやるにゃ?」
「簡単です」
ネコルトは、紙束を手に取った。
「市民に、“破産できる”と教える」
「手続きの方法を配る」
「魔法書式を簡略化する」
「申請代行所を設置する」
ミーニャが呆然とした。
「……それだけ?」
「それだけで十分です」
ネコルトの目が、冷たく光る。
「残価設定ローン」
「将来価値保証」
「魔法担保」
彼は一つずつ指を折った。
「これらは、“逃げられない”前提で成立しています」
ダイアンが、低く言った。
「……逃げ始めたら?」
「連鎖します」
ネコルトは、静かに断言した。
「市民が破産する」
「担保が消える」
「証券が紙切れになる」
「貴族が破綻する」
沈黙。
ミーニャがぽつりと呟いた。
「……地獄じゃん」
「ええ」
ネコルトは窓の外を見た。
繁栄の街。
笑顔の人々。
「でもこれは、“奪う側”が作った地獄です」
彼は、振り返った。
「私は、“出口”を見せるだけです」
王都は、まだ平和だった。
誰も気づいていない。
この日を境に、
金は、上から下へではなく――
下から上へ、逆流を始める。
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また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。
そちらもよろしかったらご一読ください。




